
トランプショックをどう捉えるか
─ 米トランプ大統領による高関税政策などで、世界の政治経済が揺れています。現状をどう見ていますか。
北尾 米国の関税政策が世界にショックを与えていることは事実ですが、90日間の延長や対中国の関税を大幅に下げるなどしています。
これは財務長官のスコット・ベッセント氏が、そのまま突き進むと米国の金融市場が混乱に陥ると危惧したことも背景にあると思います。例えば誰かが米国債を大量に売却し、これによって金利が上がった場合、一番困るのはトランプ大統領です。
また当然、経済が冷え込んだり、インフレが再燃する恐れも出てきています。その結果、これまで世界中の資金を集める圧倒的な存在だった米国の金融市場ですが、世界各国で株式にしろ債券にしろ、米国のものは買わないという問題が起きてくる可能性もあります。このことは米国にとって、製造業の空洞化よりも遥かに大きな問題だということが、ようやくトランプ大統領にも認識されたのではないでしょうか。
─ ロシアとウクライナの戦争も、なかなか停戦に持ち込むことができていません。
北尾 ロシア・ウクライナ戦争の終結は、米国経済を刺激する上でもトランプ大統領にとって重要です。これを終わらせることで、ウクライナに埋蔵されているレアメタルを押さえたいのでしょう。なぜなら、中国が多くのレアメタルを押さえている現状は、米国の最先端産業にとって死活問題だからです。グリーンランドを取得したいという動機も同様に資源でしょう。
ロシアのプーチン大統領はなかなか停戦に乗ってきませんが、領土問題さえ解決すれば、戦争を続けたいわけではないと思います。ウクライナのゼレンスキー大統領も、米国の防衛システムがなければ国を守りきれない状況で、毎日何人もの若者が亡くなっていると言われます。
日本が戦った太平洋戦争もそうでしたが、やはり出来るだけ早く戦争は終えるべきです。今、米国も欧州も期待し始めているのは、戦争終結後のウクライナの復興需要です。我々SBIグループでもそれを見据えて、近隣諸国に拠点を持つことを検討しています。
─ やはり金融を通じた支援になりますか。
北尾 金融でも行こうと思っていますが、例えば産業のコメと言われる半導体にも大きな可能性があると見ています。復興の中では、最先端ではなく、汎用品でも十分需要に応えることができるので、半導体関連は非常に影響力があります。
新たなグローバル展開のあり方を探る時
─ 世界が混沌とする中ですが、日本の立ち位置はどうあるべきだと考えますか。
北尾 今のままでは、夏の東京都議選挙、参議院議員選挙ともに、与党は大敗する可能性があります。これを機に、政界を大再編するのがいいのではないかと私は考えています。
大再編は以前から主張してきましたが、果たして自民党が中核になることがいいことなのかどうか。幸い、旧安倍派の中心だった方々が復活してきていますから、頑張ってもらいたいですね。
先日、旧安倍派の有力議員だった方と話をしたのですが、米国の関税政策への対応では「アラスカLNG(液化天然ガス)開発が1つのカギ」だという話をされていました。
これは巨額の投資を伴うので簡単なプロジェクトではありませんが、日本にとっては中東一辺倒になっている化石エネルギーをアラスカから輸入できることも大きいですし、米国が推すプロジェクトに投資することで関税問題を解決することにもつながるかもしれません。
─ 日米両国ともに利益を享受できる可能性があると。
北尾 そうです。日本が投資した実績をつくり、米国からうるさく言われなくなる可能性を持つプロジェクトだと思います。
今回の関税交渉は、日本の産業構造を見直す機会でもあると思います。例えば自動車業界は今の関税でも厳しい状況にありますが、今なお日本には多くの自動車メーカーがありすぎる。これは化学でも製薬でも同じで、これからは、国内での無駄な競争はやめて、競争できる分野で戦うべきです。
─ グローバル展開のあり方を見直す時だということですね。
北尾 まさにそうです。かつてのグローバリゼーションは、人件費、生産コストが安い国でつくることで一見成功したように見えました。それがコロナ禍の時に、多くを中国に依存していたことに気づいたわけです。今後のグローバリゼーションでは、「地産地消」をいかにグローバルに展開していくかが肝要です。米国に工場をつくり、米国のマーケットに供給する、あるいは東南アジア向け製品の生産拠点を東南アジアにつくって、そこから供給する。「地産地消」のグローバル供給網を築き上げることが、日本のメーカーにとって最も大事な戦略ではないかと思います。
─ その新たな体制の中で、日本は高付加価値のものをつくっていくということですね。
北尾 そうです。例えば先日、富士通と理化学研究所は、次世代の量子コンピューターを開発したことを発表しました。これを活用して、次世代に役立つ製品を開発することができるかもしれません。我々もバイオテクノロジーを始め、優れた技術・製品を有する企業を探索しているところです。
SBI新生銀行を核に地方の活性化を
─ ところで、SBI新生銀行は、長年にわたる課題だった公的資金の返済に道筋を付けましたね。
北尾 今回政府側と返済スキームで合意し、公的資金の返済に道筋はつきましたが、私はできる限り早く完済したいと考えています。そのための布石も打ちつつあります。
─ SBI新生銀行は地方金融機関とも連携しているわけですが、日本の隘路である地方の衰退を食い止める方策とも絡んできますね。
北尾 公的資金を返済した後、SBI新生銀行を再上場させたいと考えています。そして、再上場後は、SBI新生銀行を中核とする「第4のメガバンク構想」を強力に推進していくつもりです。
私が、この「第4のメガバンク構想」を打ち出した当時は、まだ旧新生銀行はグループ入りしていませんでしたが、必ず手に入れようと思っていました。SBI新生銀行を中心に、様々な面で全面的に地方銀行を支えていくような基盤を構築しようと考えています。
─ 多くの地方で地元経済の疲弊が顕在化しています。
北尾 今、改めて地銀再編の潮流が起きていますが、人口減少によって地方経済は縮小を続けています。オーバーバンキング状態にある地銀はなかなか預金を増やせていませんし、貸出先は地元企業ですが、人口減少で収益力が落ちている。そこを我々は、地域金融機関の再編成を促しつつ、規模の経済をあくなきまでに追求して生き残る道を見出そうとしています。
例えば、我々は島根銀行と連携していますが、見違えるくらい変化しています。考え方を「リージョナル」から「ネーションワイド」に切り替え、スマホ専用のインターネット支店を立ち上げる等、様々な施策を実施した結果、今まで減る一方だった預金も大きく増加に転じています。また、地元の島根大学から新卒社員を採用できるようになったと頭取も喜んでおられました。
─ 意識を変えることで、経営の姿が変わったと。
北尾 そうです。私は連携している地銀に対して、いくつかの課題を示しましたが、その1つが、「勘定系システム」です。これまでは既存の大手ベンダーに依存してきたわけですが、システム更改時に多額のコスト負担を要していました。
そこで私は、フューチャーアーキテクト社さんとご一緒に、勘定系システム投資を固定費から変動費に変えるべく、国内で初めて、勘定系システムを米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウド上で利用出来るようにしました。既に福島銀行が、本システムに移行していますが、コスト面のみならず、業務効率化も非常に進んでいます。島根銀行も2025年7月に本システムへの移行を予定しています。
他にも、地銀の運用の高度化を進めています。以前は多くの地銀で、ヘッジも何もせずに国債に頼った運用をしていたことで、国債が下がると損が出るということを繰り返していました。そうではなく、オルタナティブへの投資も含めて高度化するためのお手伝いをしています。
さらには、SBI新生銀行も一緒になって、地域企業の資金需要に応える、あるいは共同ファンドを設立し、地域ベンチャーに資金を提供するなど、地方に新たな企業をつくるための取り組みも進めています。
メディア・IT・金融の融合
─ フジ・メディア・ホールディングスの大株主である米投資ファンド・ダルトン・インベストメンツが株主提案した取締役候補の1人として名前を連ねましたね。
北尾 多くの人からメールや電話で「北尾さん、改革して下さい」という支援の連絡をもらいました。
私はメディアの役割は非常に重要だと考えていますが、日本でも米国でも、メディアによる偏向報道が多すぎます。
先の米大統領選にしても、日米のほとんどのメディアが民主党のカマラ・ハリス候補が勝つと報じていましたが、蓋を開けてみたらトランプ氏が当選した。しかしSNSでは、終始トランプ優位を伝える情報が流れており、主要なメディアだけを見ていてはわからない情報があることが明白になった。だからこそ公平・公正なメディアが必要なのです。
─ フジの問題以前から、メディアのあり方には強い関心があったと。
北尾 そうです。私が「メディア・IT・金融の一体化」という構想を打ち出したことをダルトンが見たことで、取締役候補になって欲しいという依頼が来たのだと思います。
我々は今、グループを挙げて、メディア・IT・金融の融合、SNSの強化を図ろうとしており、そのための統括会社の設立も決定しました。
─ 一方でSNSも偽情報が多いという指摘もあります。
北尾 それは今の偏向した既存メディアにもある事だと思います。しかし、統計データによると、一般的にはSNSの方が、信頼性が低いことも確かです。ですから、明らかにおかしい情報をAI(人工知能)で弾くような仕組みを作る必要がある。そして、そこから後は、個人でどれが正しいかを選んでいくということだと思います。
─ AIと人間の関係は、どう持っていけばいいですか。
北尾 シンギュラリティ(技術的特異点)の到来が2045年と言われてきましたが、おそらく2030年頃には人類の叡智を遥かに超えたAIが誕生するのではないかと見ています。それが人間から既存の仕事を奪っていくでしょう。
ただし、産業革命が起きたり、ロボットが登場したりする度に、「人間の仕事がなくなる」と言われ続けてきました。しかし、これは進化ですから、必ずその時代にふさわしい職種も出てくるのです。
─ その意味で、日本の可能性をどう捉えていますか。
北尾 日本人全員が、自己否定・自己変革・自己進化の意識を持たなければなりません。「百年の計」は教育であり、人材です。そのためには、教師の処遇を改善して、良い人材を集めていかなければならないでしょう。
─ これからを担う若者へのメッセージは?
北尾 若者に一番言いたいのは「勉強しなさい」ということです。リベラルアーツ、教養を身につけることがインターナショナルな人材になるために必要なことです。
そして「大志」を抱くことが大事です。経営者であれば上場して終わりではなく、時価総額1兆円の会社をつくるといった志を持って、世界に伍して戦う、あるいは新しい技術を追求するために、毎日考え続けることです。