6月5日から7日まで開催された「NEW EDUCATION EXPO(NEE)」。同イベントは、内田洋行が企画支援を行う国内最大級の教育関係者向けのセミナー&展示会で、教育機関向けの商品やサービスの展示や公開授業などが行われた。

本稿では、同イベント内で実施されたセミナー「VR・メタバースの教育利用~知っておきたい実践事例と始め方~」の内容を紹介する。

同セミナーには、大阪教育大学 総合教育系 特任准教授の四辻伸吾氏、静岡大学 特任教授/アルファコード ファウンダー兼CTOの水野拓宏氏、大阪教育大学 共同研究員/獨協埼玉中学高等学校 元講師の相原結氏が登壇。

教科の学習や安全教育、不登校支援など、最新の実践事例の紹介に加え、VR・メタバースの教育利用のポイントや効果、始め方の解説が行われた。

広がるVRやメタバースの教育利用

セミナーの最初にコーディネーターの大阪教育大学 理数情報教育系 特任教授の中野淳氏は「VRやメタバースの教育利用が広がっている」という現状を紹介した。

一見難しいと思われがちなVRやメタバースの利用だが、1人1台のGIGA端末を使えば、専用のゴーグルがなくても可能で、数万円のVRカメラとパソコンを使えば、簡単な手順でVRコンテンツを作成できることから、教育利用の事例が増えているという。

水野氏は、事例の一つとして「石川県加賀市教育委員会とのメタバース安全教育」を挙げた。この取り組みは、自転車通学危険個所のメタバース体験共有を市内全中学校で実施したもの。

この取り組みでは、ゲーム的ではなく身近な空間を再現したメタバースでクラス40人の中学生がワークショップを体験し、危険個所の説明ではなく体験化を行うことで、中学生に自分事としての意識変容を促した。

「この取り組みでは、ルールや手順を個別に学ぶのでなく『体験から考える』ことをコミュニティで学ぶことに重きを置きました。生徒たちからは『車と自転車のどっちが悪いのかを考えた』という感想が多く聞かれ、『ルールを守るべき』という正解だけにとらわれない思考を生み出せました」(水野氏)

  • メタバース・VRの教育利用について語る水野氏

    メタバース・VRの教育利用について語る水野氏

他にも、静岡理工科大学のオープンキャンパスにVR学校紹介を導入している事例が紹介された。この取り組みによって、造波装置やドローンの研究室など、時間や場所に関係なく魅力を紹介することが可能になったという。

プログラミングカーやVTOL機といった静岡理工科大学に関連する技術の未来を、見るだけでなく、手に取ったり、乗ってみたりすることができる機能を有しているという。

オーケストラのVRコンテンツを利用した音楽科の授業

そして、今回のセミナーで特に重点を置いて紹介されたのが「オーケストラのVRコンテンツを利用した音楽科の授業」だ。

この授業は、オーケストラとの協力でオーケストラが演奏している様子を撮影したVRコンテンツを制作し、小中で実証授業などを実施したもの。登壇した相原氏が勤めていた獨協埼玉中学高等学校でも、この実証授業が実施されたという。

  • オーケストラのVRコンテンツを利用した音楽科の授業

    オーケストラのVRコンテンツを利用した音楽科の授業

既存の観賞用映像が、その曲の「良さ」や「重要」とされている部分が編集者の意図に沿って収録されているという特徴を持っているのに対して、VR映像を活用した授業では、生徒一人ひとりが自由に曲の良さや面白さを見つけ出すことができる。

「学習指導要領での位置づけを見てみると、目標は『音楽を自分なりに評価しながらよさや美しさを味わって聴くことができるようにする』とあります。この『自分なりに』という点とVR映像がマッチしていたと思います」(相原氏)

VR映像ならではの没入感を体験できるだけでなく、視点(カメラ位置)を切り替えるとそのカメラの近くの楽器の音が大きく聴こえるため、楽器ごとの役割や最初に聴いた時には分からなかった音の正体などをじっくり観察することができる。

  • VRコンテンツを利用した授業の様子

    VRコンテンツを利用した授業の様子

相原氏は、授業の手応えとして「音声鑑賞の興味・関心をきっかけに、自分で見つけた疑問を自ら解決し、VR映像を活用することで、生徒の主体的・対話的で深い学びが実現できている様子が見取れた」とした上で、以下のように述べた。

「VR映像を活用した鑑賞授業では、CDやDVDでは聴き逃してしまう音や、見逃してしまう奏法などに気付くことができます。通常の授業よりも、オーケストラの曲や楽器への理解、興味関心が深まっていると感じました」(相原氏)

VR映像を活用したオーケストラの鑑賞授業の前後で生徒に対して行ったアンケートでは、「オーケストラの曲の良さや面白さについて他の人に伝えられますか」「オーケストラは旋律とそれ以外のパートが重なり合って作られているということを理解していますか」といった質問で、大幅な数値の向上が見られたという。

  • VR映像を活用したオーケストラの鑑賞授業 アンケート

    VR映像を活用したオーケストラの鑑賞授業 アンケート

「音楽は真正面で全体から聴いた方が良いという前提はありますが、学習として、楽器の役割や自分の気になったこと、細かな息遣いなどを感じられることで、より音楽に興味を持って楽しんでくれた生徒が多いのではないかと思います」(相原氏)