愛知県田原市長・山下政良が語る「自らの魅力を見つめ直した『サーフタウン構想』」

人口減少と少子高齢化─。全国の市町村にとって共通の課題です。有効な手立てを打たなければ人口はますます減り続けることになり、地域への影響が懸念されます。愛知県田原市は県の南端に位置し、北は風光明媚な三河湾、南は勇壮な太平洋、西は伊勢志摩を望む伊勢湾と三方を海に囲まれた渥美半島のほぼ全域が市域となっています。

 人口は6万人弱。決して規模の大きな自治体ではありませんが、社会的にも財政的にも比較的落ち着いていると思います。ただ、本市も人口減少の波に直面しており、中でも特に若年層の流出は顕著でした。この流れに何とか歯止めをかけたい。私たちが注目したのは、私たちが持っていた資源の活用でした。

 実は本市の地形的な特徴として約100キロメートルに及ぶ海岸延長があります。そのため、以前から1年を通じて安定した波が打ち寄せるスポットに魅了された多くのサーファーが集まっており、「太平洋ロングビーチ」や「ロコポイント」などサーフィンの世界大会が開催されることで、全国的にも有名なサーフスポットが点在しているのです。

「田原市サーフタウン構想」─。いま本市が移住・定住促進策として取り組んでいるプロジェクトです。サーフィンが盛んであるという利点を活かし、海まで徒歩5分で行ける赤羽根地域を中心にサーファーをはじめとする若者や子育て世代の移住数を増やすための施策を進めています。もちろん、同地域だけでなく、本市全域へと波及させていきたいと思っています。

 実を言うと、以前は地元の人々はサーファーにあまり良いイメージを持っていませんでした。しかも、駐車場やトイレが整備されておらず、周辺環境が汚れるといったトラブルもあり、サーファーに対するイメージはますます悪くなるという悪循環に陥っていたのです。

 私もスキーが好きで、よくお気に入りのスキー場に足を運んで滑っていたので分かるのですが、別に悪いことをしたいと思って迷惑をかけるようなことはしません。そうであるならば、市がしっかり環境整備をすることによって、サーフィンをこよなく愛するサーファーが集まってくれるのではないだろうか。

 そこで本市では、2016年頃から構想の検討を開始し、駐車場やトイレ、シャワーなどを整備して無料で使えるようにしました。加えて、移住者の受け皿となる住宅地25区画を整備し、分譲を行っています。「海まで徒歩5分」。サーファーにとっては、この上ない喜びをもたらす場所であると言えるでしょう。マーケティングや地方のまちづくり提案などを手掛ける民間事業者さんにも力を借りたり、様々な補助金も用意しています。

 力強く感じるのは「たはら暮らし定住・移住サポーター」の存在です。4人いるサポーターは皆、移住者です。自分たちの経験を踏まえて、移住するためには何が必要かといった相談に乗ってくれているのです。

 私はとにかく定住・移住する人を増やそうとしているわけではありません。それでは限られたパイの取り合いになってしまいます。サーファーなど海好きな人といった限られた属性の人に是非とも来ていただければと思っているのです。徐々に定住・移住者も増えています。

 本市の農業産出額は全国で2位、花の産出額は日本一です。キャベツ、ブロッコリー、スイカ、スイートコーン、露地メロン……。食べ物は美味しく、海釣りもできます。自分たちの魅力を見直し、その魅力を磨き上げることが大事なのです。

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