
防衛・海運・造船に注目
世界経済を翻弄する米トランプ大統領は、2025年1月20日に就任してからの100日は「関税試行期」でした。最も抵抗が強く、実現が難しいと見られていた世界各国との10%の相互関税を発令したのです。
中でも貿易赤字が大きい中国、カナダ、メキシコ、日本とは個別交渉となっています。逆に言えば、一律に関税をかけるというフェーズは4月末で終わっているのです。
トランプ大統領は政治家というより「ビジネスマン」のように行動しています。つまり、米国を儲けさせる、利益を供与させるために動いているわけです。ですから、今は米国に多くのお金を払ってくれそうな国から先に交渉をしています。その一番手がサウジアラビアなどアラブ3カ国でした。
今、日本の株式市場は、対米交渉で米国が何を要求してくるかを懸念しています。1つは円高、為替操作への要求です。赤沢亮正・経済再生担当大臣が交渉をしているわけですが、最近の動きを見ると、為替操作はあるとしても交渉の最後に出てくる話ではないかという情勢です。
日本には「対米投資」を要求することになるでしょう。その中身はいくつかの可能性がありますが、1つは日本の自動車メーカーによる米国での工場投資が考えられます。
また、米国が懸念しているのは、中国による「海上支配」です。24年の世界の新造船受注のうち74%を中国企業が握っています。このことをトランプ大統領は地政学上のリスクとして意識しているのです。
米国のジョン・フェラン海軍長官は日本に対し、民需・軍需両方の船をつくって欲しいと要請しています。日本も海運会社、造船会社が日本の造船業復活に向けた動きを強めているところです。ですから、日本の株式市場でも防衛・海運・造船関連株が注目されています。
為替について、以前はドル安・円高にして米国の製造業を復活させるという狙いでしたが、ドル安は、世界のマネーが米国から逃げるということでもあります。それもあり、先日も株式、国債、為替の「トリプル安」に見舞われたのです。
その後、スコット・ベッセント財務長官は「為替相場は市場で決定されるべき」と発言しており、政治的に円高を要請するという可能性は低くなりました。ですから今後は、前述した対米投資と、米国からの輸入の促進が大きなテーマになるでしょう。
輸入面では、米国からの防衛装備品の購入が考えられます。今の国際情勢は防衛力を強化せざるを得ない局面ですから、日米の利害が一致する分野です。トランプ大統領は在韓国米軍の一部引き上げに言及しており、日本にとっても対岸の火事ではありません。
5月23日、トランプ大統領と石破茂首相が電話協議をしましたが、その際にトランプ大統領は「米国にはすばらしい戦闘機がある」と述べたと伝えられています。米国としては、巨額の資金が即時に入ってくるというメリットがあります。
エルブリッジ・コルビー米国防次官などは、日本の防衛費を少なくともGDP(国内総生産)の3%に増額する必要があると主張しており、この水準まで拡大する可能性はあります。永田町筋からは、3%にとどまらず、今後5%という数字すら出てくるという指摘もあります。
米国産の牛肉など農作物の購入も求めてくる可能性が高いわけですが、金額的に大きいのは戦闘機など防衛装備品です。6月のG7(先進7カ国)サミットでの日米首脳会談の内容が注目されます。
トランプ大統領は関税政策などで収入増という成果を出し、それを財源に7月以降、減税策を打つのではないかと思います。
トランプ大統領の日々の発言で、日米の株式市場は波乱の展開が続いていますが、「トランプショック」は4月中に織り込んだと見ています。相互関税を打ち出した後の安値を、日米ともに4月7日に付けています。ここで日米ともに底入れしたものと見ていますから、この後、株価は戻っていくでしょう。
ただ、市場にはトランプ大統領の発言、動向への不安があり、日柄調整に入っていますが、遅くとも6月、7月で個別交渉が終わり、トランプ大統領が米国内で減税を打ち出してくると米国株は上がると思いますし、連動して日本株も上がります。
そうして日本では7月、選挙に入っていきますから、おそらく石破政権は対米対応をうまく切り抜けたという流れになるのではないかと思います。
今後はトランプショックから「トランプラリー」の動きになっていきます。FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ、減税、株高、資産価格上昇という、米国発の資産インフレ相場に向かっていくでしょう。これがトランプ大統領の言う「黄金時代」の到来の姿です。
ただ、今の日本には政治的にも経済的にも株を買う材料はありません。直近に発表された企業業績はよかったですが、日本を引っ張るようなリーダーが不在だというのが現状です。
これは、エリート教育を行わず、平均的人材を育てている日本の教育の問題でもありますから、非常に根深いものがあります。その意味で、外国の高度人材など、異文化の人たちに刺激を与えてもらうことが、今後さらに必要かもしれません。
また、今の国際情勢を見ると、日本はかつての米ソ冷戦期に近い立ち位置にいます。民主主義国家対専制主義国家の対立の中で、日本は「盾」になるかもしれません。
そして今後、第一次世界大戦のように、トランプ大統領の政策が、日本に「特需」をもたらす可能性があります。そうなると日経平均は今後、5万円、6万円を目指す展開もあり得るというのが大局観です。