ソフトバンクと博報堂テクノロジーズは6月12日、生成AIを活用して福島県の魅力を発信するハッカソンイベントをソフトバンク本社で開催した。福島テレビが協力し、番組のデータを提供。両社からエンジニアやデータサイエンティストを中心に5チーム33人が参加し、テレビ番組コンテンツとAIを組み合わせて県の魅力を伝えるための成果物を発表した。

今回のイベントに先がけ、両社は5月にDay1としてチーム作りとアイデア創出を実施。そこから約1カ月間かけてアイデアの具体化とプロダクト構築を進めた。

  • ハッカソンイベントの参加者

    ハッカソンイベントの参加者

人口減少が進む福島の魅力を発信するハッカソン

東京から新幹線で約1時間半の距離にある福島県だが、浜・中・会津の各地方にそれぞれの特徴を感じられる。南北に連なる奥羽山脈と阿武隈高地によって区分されるため、天候や文化も異なる。福島市、郡山市、会津若松市、いわき市と中心となる都市も分かれており、歴史的名所や観光地も分散している。

多くの地方自治体が課題としているように、福島県も少子化と人口減少が進む。福島テレビは1990年に県政番組『210万人のひろば』を放送していたのだが(1999年放送終了)、2025年現在の人口は170万人ほどだという。

福島テレビはハッカソンの開催にあたり、『テレポートプラス』と『サタふく』の2番組が県内59市町村の情報を放送した「市町村ウィーク」という企画のコンテンツデータを提供した。

福島テレビ取締役の細野公男氏は「昨今はテレビ局も番組制作だけをしていれば良いのではなく、放送データの活用やSNSでのコンテンツ二次利用など新たな事業展開を考えなければならない。ハッカソンに参加した若手エンジニアの皆さんがどんな発想で福島のことを考え、福島をどれだけ元気な県にしてくれるか楽しみにしている」と話していた。

  • 福島テレビ 取締役 細野公男氏

    福島テレビ 取締役 細野公男氏

FUKUSHIMA推し活メーカー

成果発表会では、各チームが5分間のプレゼンでアイデア概要と技術要素を紹介した。アイデアの創造性、福島県の魅力を伝えるプロモーション、サービスの実現可能性、技術の高さがそれぞれ審査員に評価される。

審査の結果、特別賞の福島テレビ賞を獲得したのは、ショート動画投稿プラットフォーム「FUKUSHIMA推し活メーカー」を開発した「ふくしま担」チーム。浜・中・会津の各地方を"推し"に見立て、動画投稿数といいね数で勝敗を争う。縦型ショート動画を投稿する仕組みとしたことで、ティーン層や若年層への魅力発信に特化した。

同サービスはAIを活用して、ショート動画の作成を支援する。ユーザーが動画ファイルをアップデートして推しポイントをテキストで入力すると、AIが動画のストーリー案を3種提案する。AIは福島テレビのコンテンツデータから福島の魅力を情報として抽出しており、ナレーションやテキスト、BGMを生成する。

  • 福島県の魅力をショート動画で発信する

    福島県の魅力をショート動画で発信する

「市町村ウィーク」のコンテンツから必要な部分を切り抜いてショート動画にするだけでなく、ユーザーが撮影した動画をAIがショート動画に仕上げて投稿することもできる。投稿された動画は他のプラットフォームにも転載されることで福島の魅力が拡散できる点や、番組のアーカイブデータを新しいコンテンツとして利用できる点が特徴的だ。

福島テレビの細野公男氏は「テレビとは違った角度から、テレビでは実現できない魅力発見ができそう。福島県の人にとって良いサービスになるはず」とコメントした。

おふくわけ

第3位に選ばれたのは、福島県民と特産品の魅力をおすそわけするサービス「おふくわけ」を開発した「ここらっせ」チーム。ターゲットは都会の生活に疲れた若者で、福島県民を再現したAIキャラクターとのチャット機能を通じてキャラクターのレベルを上げると、福島県の特産品をおすそわけしてもらえるようになる。

サービスにログインすると、AIキャラクターと挨拶などチャットで会話ができる。会話を重ねるほどキャラクターは福島の魅力を紹介してくれる仕組みで、一定以上の信頼度を獲得するとキャラクターのレベルが上がって、イベントの参加や特産品のプレゼントを獲得できる。

  • 「おふくわけ」のビジネスモデル

    「おふくわけ」のビジネスモデル

イベント期間内の開発ではログイン機能と会話機能、簡易的な信頼度システムしか実装できていないが、ユーザー間のコミュニティや福島テレビとのコラボレーション、県内の事業者との連携機能なども構想されていたとのことだ。

  • 「おふくわけ」のシステム構成

    「おふくわけ」のシステム構成

審査員を務めたアマゾン・ウェブ・サービス(AWS) メディア営業本部 新聞・広告・スポーツ営業部 部長の臼井一行氏は「ユーザーの感情に寄り添うAIキャラクターの実装や、福島県出身の西田敏行さんを再現したキャラクターなど、アイデアの展開が期待できるサービス」と評価コメントを述べた。

福島でより気軽なお出かけを促すためのアプリ開発

第2位には、県内の魅力をPRするためのマッチングアプリ「恋して!FUKUSHIMA」を考案した「チームこしあん派」が選ばれた。福島県のスポットや特産品を擬人化して、マッチングアプリの要領で新たな観光地や特産品に出会える。

同サービスに登場するキャラクターは、Deep Researchにより取得された観光地情報と、「市町村ウィーク」のデータで構築。カフェであれば若い女性、日本庭園であれば和風の女性など、観光地の特徴を反映したキャラクターが生成されている。

  • 観光地を擬人化したAIキャラクター

    観光地を擬人化したAIキャラクター

ユーザーのプロフィールや趣味に合わせた特産品や観光地を提案可能なほか、簡単なスワイプ操作で次々とキャラクターが表示されるため、直感的な操作で福島県について知ることができる。さらには会話機能を実装し、特産品や観光地に特化したAIエージェントとの会話で理解を深められる。

  • 「恋して!FUKUSHIMA」のシステム構成

    「恋して!FUKUSHIMA」のシステム構成

博報堂テクノロジーズ 代表取締役 CEOの中村信氏は「データ活用は今後グローバル全体で進むが、データを活用して愛着のあるキャラクターを作るのは実に日本らしいアイデア。同じロボットでも、ターミネーターではなくドラえもんを生み出した日本的なサービスだと思う。今後の日本のものづくりのヒントになると感じる」とコメントしていた。

AIが作る、わたしの酒と器。~福島の日本酒×伝統工芸×あなたの感性~

見事に1位に選ばれたのは、AIによる日本酒レコメンド機能と工芸デザイン作成体験を組み合わせた「テックと盃」チーム。福島の伝統文化に詳しくない若年層やインバウンド観光客をターゲットに、日本酒と酒器を通じて福島県の魅力を発信することを狙った。

  • おすすめの日本酒と工芸デザインを体験できる

    おすすめの日本酒と工芸デザインを体験できる

日本酒レコメンド機能は、福島の日本酒データセットを学習しRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を実装したAIチャットで、ユーザーの好みや気分に合わせた日本酒を提案する。

工芸デザイン作成は、現地で会津漆器の絵付け体験ができるように、画像生成AIで好きなデザインの酒器を作れる。工芸デザインは日本らしい模様として家紋データを学習したStable Diffusionをベースに、Blenderで3Dデザインを実現した。

最終的にはAIがレコメンドした日本酒と、自身でデザインした酒器が1枚の画像として出力される。これと合わせて「市町村ウィーク」のコンテンツや番組内で紹介された店舗情報を提供することで、地域密着の情報提供を可能としている。

  • AWS構成
  • 日本酒レコメンドの仕組み
  • 画像生成の仕組み

    システム構成

ソフトバンク 専務執行役員 兼 CIOの牧園啓市氏は「日本酒には"辛口"や"甘口"だけではない非常に豊かな表現がある。これをデータとして集めてAIがレコメンドするというのは、AIの正しい使い方だと思う。今後も継続して開発と実装を進めてくれることを期待している」とコメントしていた。

GENE-SHIMA 福島県のオリジナルトレカ生成AIサービス

惜しくも入賞を逃してしまったが、「クリームボックスしか勝たんのだ」チームは生成AIを活用したトレーディングカード生成サービスを開発した。福島県は面積が全国3位と広い上に観光地が分散しているため、地域ごとの魅力の認知が低く、再訪率が低い課題があるという。そこで、福島の魅力をカードにして勝利を目指す地域活性化ゲームを考案した。

まず福島県を訪問して撮影した写真や、行ってみたい観光地の写真とその魅力を入力する。次に生成AIがカードを生成し、写真や説明文からカードの強さが決まる。59市町村に分かれてユーザー同士がカードバトルを繰り広げるのだが、その勝敗はLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)が決める。最も素敵な地域の魅力を発見したユーザーが勝者となる。

  • カードバトルによる魅力発信が期待できる

    カードバトルによる魅力発信が期待できる

福島県へ訪問すると実物のカードが印刷できるサービスや、地域の祭りなど特定のイベントに合わせたキャンペーン、多言語対応など、今後の発展が楽しみなサービスだ。

  • 全体の構成
  • システム構成

    システム構成

筆者は今回イベントを取材して、これまで知らなかった福島県の魅力を知ることができた。今夏はあぶきゅー(阿武隈急行)に乗るために福島に行く予定だ。各チームのサービスで福島県の魅力を感じた方は、ぜひ現地へあいばせ。