
インド工科大学などから 優秀なエンジニアが集まる
「日本企業のIT予算の8割くらいが既存システムの運用に使われていて、新しい投資には2割くらいしか使われていない。日本のDXが遅れている原因はここにあると思っていて、攻めと守り両方の観点から日本のDXを進めていくことに貢献できれば」
こう語るのは、SMSデータテック社長の松原哲朗氏。
ネット炎上リスクにどう対処? エルテス・菅原貴弘が取り組む「ネット炎上」対策
様々なシステムの開発、運用、保守から、クラウド技術を活用したインフラ構築、ITコンサルティングなどを手掛けるSMSデータテック。コンサルティングから開発、運用までを一気通貫でサポートできる体制が整っていることが、同社の強みになっている。
同社は2001年、NTTデータグループの出資を受けて発足。官公庁や金融・流通・製造業界などに導入された基幹システムの運用・保守業務を担う会社として設立された。
創業者は松原氏の父で相談役の松原五夫氏。五夫氏が、NTTデータの事業部長、子会社社長を歴任した後に設立したのが同社である。
社名にある〝SMS〟は発足当時、システムを運用する「システムマネジメントサービス」という意味だったが、今は「セキュア・アンド・モダナイズド・ソリューションズ(安全な環境で近代化したソリューションを提供する)」という意味。
近年はAI(人工知能)やデータサイエンスなどの新事業を開拓。従来のシステム運用が主体だったビジネスモデルから、現在は開発や製品開発、サービスまで、事業領域が拡大していることから〝SMS〟の意味合いも変わってきたそうだ。
「当社にはインフラのシステム運用という非常に堅いビジネス基盤があって、今はその上に最先端技術を活用した新たなサービスをつくっている。そのために、10年ほど前から優秀なインド人のエンジニアにも来てもらっている」(松原氏)
約560人の社員のうち、新規事業開発に約20名が従事し、その半数がインド人のエンジニア。インド工科大学などから優秀なエンジニアが集まり、自社サービスの開発にも取り組んできた。自社サービスでは、2023年に日本IBMが主催する『DXチャレンジ・ビジネスコンテスト』で最優秀賞に選ばれるなど、技術的にも評価が高いことで知られている。
今年1月には東京証券取引所TOKYO PRO Market(以下、東京プロマーケット)へ上場した。
東証の機関投資家向け市場である東京プロマーケットは、一般的な株式市場と比べて、上場審査などの準備期間が短く、上場コストも少ないのが特長。一方で一般の投資家が参入できないことから、資金の流動性が低いという側面もある。
【サイバー攻撃にどう立ち向かうか? 】性悪説で脅威に備える「ゼロトラスト」戦略
5月26日時点で、3960社が東証へ上場しているが、東京プロマーケットは142社のみ。なぜ、松原氏は東京プロマーケット上場を考えたのか?
「現在、セキュリティ領域の新規事業に力を入れる当社にとって、対外的な信用力の確保は不可欠だ。これは対顧客のみならず、海外ベンダーとのアライアンス構築や、優秀な人材の採用においても極めて重要な要素となる。東京プロマーケットは、上場企業としての信用力を、低コストで獲得、維持できる点が大きな魅力だ」(松原氏)
一般的にはプライム、スタンダード、グロースなどへ行くためのステップとして東京プロマーケットを選ぶ企業も多いが、松原氏はそれだけが理由ではないようだ。資金の流動性は低いが、顔の見えない不特定多数の株主が入ってこないため、事業変革を進めている現段階においては、経営の安定性を保ちやすいという側面もあるのかもしれない。
「よく会社は誰のものかという議論があるけど、会社はものではないし、決して株主だけのものではない。社員やビジネスパートナーやお客様といった全てのステークホルダーのためにあるので、今後50年、100年、500年、会社が続くためにどういう形がいいのか、常に考え続けている」(松原氏)
『傍楽』という行動理念で
松原氏は1978年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部在学中に、メルカリ創業者の山田進太郎氏が立ち上げた学生起業家支援プロジェクトに携わったことから、卒業後はベンチャー・リンクに入社。フランチャイズ支援やマーケティングなどの事業に携わった。
SMSデータテックに入社したのは2009年。NTTデータなどからの仕事はあったため、同社は創業から24年間黒字を維持しているが、松原氏の中で徐々に違和感が出てきた。
「仕事をいただけるのは本当に有難いことだけれど、このままでは業界特有の多重下請け構造やピラミッド構造から一生抜けられない。下請け構造から脱却するためには新規の事業を作るしかないと考えた」(松原氏)
そこで入社後は新規事業の開発を担う事業開発室を設立。前述したインド人のエンジニア採用などを行い、近年は様々な製品開発に乗り出している。
21年5月から社長に就任。上場という一つの目標を果たした今は、2030年に現在の倍となる売上高100億円、エンジニア1000人体制を目指す。
「当社には『傍楽(はたらく)』という行動理念があり、われわれが働くことで周りにいる人たちを楽にさせてあげたい。理想かもしれないが、人間的にも、技術的にも、一生成長できて、楽しく働き続けることのできる会社にしたい」と語る松原氏。
会社は何のためにあるのか、そして、誰のためにあるのかを追求し続ける松原氏である。