みずほ証券チーフマーケットエコノミスト・上野泰也が指摘する「『インバウンド消費』に陰り」

 マスコミの報道ではあまり大きく取り上げられていないものの、好調一辺倒に見えていた訪日外国人観光客による消費、いわゆる「インバウンド消費」に、陰りが出ている。

 4月25日に日本百貨店協会が発表した3月の全国百貨店売上高で、インバウンド(免税売上)は前年同月比▲10.7%(店舗調整後)になり、36カ月ぶりにマイナスを記録した。付随して発表された3月の免税売上高・来店動向(速報)によると、一般物品売上高が約357億円(前年同月比▲16.4%)になる一方、消耗品売上高(化粧品、食料品等)は約85.2億円(同+25.0%)で、一人あたりの購買単価は約8万5千円(同▲21.3%)。来店客数は過去最高を更新したが、客単価が下がったわけである。

 これより前、4月16日に観光庁が発表した1―3月期のインバウンド消費動向調査(1次速報)で、訪日外国人旅行消費額は2兆2720億円になった。前年同期比で+28.4%だが、前期比では2四半期ぶりマイナス。一人あたり旅行支出は22.2万円で、昨年10―12月期の23.6万円から減少した。観光庁の秡川(はらいかわ)直也長官は、米国の関税政策の影響について「現時点ではない」と述べつつ、「為替の影響などを注視していきたい」とした。

 また、ある大手百貨店の社長は4月14日の決算発表記者会見で、「円高傾向やトランプ関税などをうけ、コロナ禍前に比べて中国の団体客が来ていない」「この傾向は継続するのではないか」と述べ、警戒感をにじませた。

 為替が円高方向に動けば、訪日外国人観光客が買い物する際の「割安感」は、値の張るブランド品を中心に薄れる。ドル/円相場がドル安円高方向へとさらにシフトする場合、日本経済を少なからず支えてきた「インバウンド消費」の弱まりを警戒する必要性が増大するだろう。24暦年の実質GDP(国内総生産)は前年比+0.1%で、これに対する非居住者家計の国内での直接購入を含む「サービスの輸出」の寄与度は+0.6%ポイントという大きさだった。

 なお、為替の円高や「トランプ関税」とは全く別の話として、香港で広がった「7月大地震説」が、外国人の訪日動向に部分的に影響を及ぼしているとの見方がある。

 仙台と徳島に飛ばしている定期便を、香港の航空会社が5~10月にそれぞれ1往復減便することを報じた産経新聞の4月25日の記事は、「香港で日本の漫画などを根拠に『7月に日本で大地震が起こる』との『予言』が広まり、利用客減少につながっている」「香港の有名な風水師も『6~8月に日本の地震リスクが高まる』と発言したという」とした。

 内閣府は4月24日、SNSの防災アカウントに「日時と場所を特定して地震を予知することは、現在の科学的知見からは困難」と記し、「予言」の打ち消しを図っている。