
急速に進む高齢化。それに伴って深刻な孤独・孤立状態に陥るケースが増えています。ご近所づきあいも希薄化し、移動する手段を失い、話し相手もいないという状況が当たり前になってきています。
心身の虚弱化の最大の要因の1つは孤独・孤立状態です。この状態に陥ると、メンタルはもちろん、フィジカルの面でも健康リスクが高まってしまいます。誰でも年を取れば虚弱化します。しかし、それをいち早く察知して遅らせたり、孤独・孤立化を改善することは可能です。
そこで当社はスマートウォッチによって取得したバイタルデータを基に、医療従事者が個人の健康状態をモニタリングし、深刻な孤独・孤立化の状態に陥る前に、医療機関受診や社会的処方といった適切な介入を行うことで、この状態の改善を試みる取り組みを行っています。
公益財団法人PwC財団の助成事業2024年度ウェルビーイングにおいて当社の取り組みが採択。高齢独居世帯率が高く、医療過疎地である千葉県白子町の住民を対象に「大多和医院」を拠点として臨床研究を行っています。バイタルデータは主に運動・睡眠関連指標、心拍数などで、行動によって自律神経がどう働いているかといった細分化されたデータも取得することができるようになっています。
去る1月18日、白子町でPwC財団の助成のもと「スマートウォッチを使った健康サポートプロジェクト」の住民説明会を開催しました。ここには1つの縁がありました。それは、かかりつけ医として大多和医院の森德郎院長が地域の社会的なつながりに注力して健康づくりに尽力されていたことです。
私自身、経営者であると同時に医師なのですが、以前は家族で代々100年以上、白子町の方々の健康を支えてきた大多和医院でも診療をしていました。地域医療の志高い森先生と出会い、医院を託しました。森先生が抱いていたことは「社会的処方につながる活動を加速させよう」ということでした。
その後、森先生は院内にセラピー犬を取り入れ、医院の裏の森を開拓する取り組みを通じて子どもの居場所を作り、さらにカフェ運営を行うなど、地域づくりにも取り組んでいきました。
一方の私は慶應義塾大学でIoTやデジタル技術を医療に活用した研究開発を経験し、19年に当社を創業。デジタル技術を活用し、病気や治療の変化を可視化する指標となるデジタルバイオマーカーを診療に取り入れることで単なる〝点のデータ〟ではなく日常的かつ連続的、長期的な〝線のデータ〟として、一人ひとりに合わせた最適な医療が可能になると感じたのです。
一人ひとりの生体指標の経時的なビッグデータを蓄積すると同時に、病気や症状の情報も記録し、両者の関連を明らかにできれば、ウェアラブル端末のデータから体の状態を予測することが可能になります。特にウェアラブル端末はスマートウォッチのみならず、指輪型、眼鏡やイヤホンなど様々な種類が登場し、自分の健康づくりに役立てられる可能性が広がっています。
医療現場では「3分診療」ということも少なくありません。しかし、院外の日々のデータがあれば容易に自身の状態を医師に共有でき、病状の変化を予測できるかもしれません。それは医療現場にとってもプラスです。
本プロジェクトも、将来は対象とする症状や疾患領域を拡大し、様々な見守りにも応用していきたいと思っています。データを活用することで、一人ひとりに合った適切な医療を提供できる世界を目指していきます。