トランプ・ショック下、なぜトヨタは「国内300万台体制」を維持できるのか?

1台当たり限界利益は4年で1.6倍に

「我々にとって最も大事なのは、軸をぶらさず、ジタバタせず、しっかりと地に足をつけ、できることを重ねていくことだ」─。トヨタ自動車社長の佐藤恒治氏はこう強調する。

 トランプ関税が発動された最中での2025年3月期の同社の業績は増収減益となった。売上高は過去最高の前年度比6.5%増の48兆367億円で、営業利益と純利益は2年ぶりの減益となったが、いずれも4.7兆円を超える水準を維持。肝心のトランプ関税の影響は4・5月の2カ月で1800億円の営業減益になると明らかにした。

 26年3月期の営業利益は約2割減の3.8兆円を見込むが、その中で同社がこだわりを見せたのが国内生産台数だ。トヨタは1980年に達成した「国内生産300万台」を1つの目安にしている。約6万社に上るサプライチェーン(供給網)を維持し、その雇用を守るためだ。

 実際、09年のリーマン・ショック後でも279万台を生産した。当時、社長だった豊田章男氏(現会長)は「石にかじりついてでも守り抜く」と強調し、他の製造業が海外に続々と移転して国内の産業の空洞化が進む中でも「日本のモノづくりを守りたい」と語っていた。

 この思想をその後も貫いた。東日本大震災が起こった11年は276万台、コロナ禍で半導体不足に陥った20年も292万台と300万台レベルをキープ。今回のトランプ関税下の25年3月期でも323万台を生産し、「国内生産が持っている意味を忘れてはいけない。揺るがずに守っていきたい」と佐藤氏。

 その佐藤氏には国内で自動車を生産し、それを輸出することで外貨を稼ぎ、それがエネルギーなどの日本国内に必要な取引に応用されるという考えがある。同社が日本で生産するクルマのうち米国に輸出しているのは54万台。他社に比べても多い。

 それでも1台売る度にどれだけの利益が出るかを示す限界利益は21年3月期比で1.6倍となっており、副社長の宮崎洋一氏も「足元の収益構造からすれば、ジタバタしなくてはならない状態にない」と話す。4年間で利益率を高めてきた。

 それに対して、国内生産の比重が低い他社は生産移管を講じる。24年度の日本からの米国輸出台数が1万台にも満たないホンダは米国向け「シビック」のハイブリッド車(HV)の生産を国内から米国に切り替える。

 また、国内生産約64万台のうち、米国への輸出台数が約15万台の日産自動車も北米向け「ローグ」の一部生産を日本から米国に移す。同社に至っては、国内外で2万人の人員削減と7工場の閉鎖を決めている。

 なぜトヨタはジタバタしないのか。1つ目は米国依存度の低さが挙げられる。トヨタの販売台数のうち北米市場の割合は3割弱ではあるが、2割超の日本や2割弱のアジア、1割超の欧州と特定の地域への依存度が低い。一方、ホンダの北米の販売台数は約4割に及んでおり、日産は北米での販売不振が経営危機を招いている。

 2つ目は新車1台当たりの〝稼ぐ力〟の高さだ。営業利益を販売台数で割った1台当たり利益はトヨタが約51万円と首位。ホンダや日産は1桁万円。依然としてトヨタのHVの競争力は高く、20年以上にわたる原価低減で、今や1台当たりの利益はガソリン車をしのぐ。トヨタのHVの販売台数の比率は全体の4割超。宮崎氏が「関税があるから値上げをするという場当たり的な対応は取らない」と語る裏付けにもなっている。

 また、社内で「AREA(エリア)35」と呼ぶ開発・生産・販売が一体となった正味率(付加価値を高める作業の割合)の改善プロジェクトでは、国内10工場で部品種類を最大80%削減し、在庫スペースを35%削減することに成功。生産可能台数が年間で8万台増加し、フルモデルチェンジ3回分に相当する開発工数も捻出するなど生産性向上も進めている。

1.5億台の保有台数を活かす

 最後の3つ目が「新車の販売台数に左右されない安定収益構造」(伊藤忠総研エグゼクティブ・フェローの深尾三四郎氏)だ。実は今のトヨタは新車を販売した後の架装品などの販売や保守点検、販売金融、中古車販売などの「バリューチェーンビジネス」で営業利益が2兆円規模にまで成長している。26年3月期は2兆円超の水準まで拡大する見込み。1.5億台という保有台数が生きている。

 深尾氏は「バリューチェーンビジネスの基盤は安心・安全。トヨタ車の顧客はここに価値を見出している。販売することに必死な中国勢では、「この領域でトヨタを捉えることはできない」と指摘する。

 電気自動車(EV)ではBYDをはじめとした中国メーカーの破竹の勢いが目立つが、中国の家電メーカーで自動車事業に参入した小米(シャオミ)が販売したEVが死亡事故を起こすなど、安心・安全の面で消費者から疑問符がつく。

 とはいえ、刻一刻と変わるトランプ政権の関税政策が不透明感を与えていることは確か。単純計算すれば、今期の関税影響は1兆円を超える。また、関税の影響はサプライヤーにも及ぶため、その手当も求められる。加えて、電動化や知能化に伴う設備投資や「人への投資」も緩めることはできない。

 佐藤氏は「トヨタにとってのSDV(ソフトウエア定義車両)の真髄は安心と安全」と語る。新車販売でコツコツと積み上げきた経営資源を活用し、地道なモノづくりを講じる現場力が試されることになる。

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