
日米の貿易問題を取り巻く環境は大きく変わった
─ 米トランプ政権の関税政策によって世界が混乱しているわけですが、世界は今後どう動いていくと見ていますか。
齋藤 わたしは1990年代前半に、当時の通商産業省(現・経済産業省)で日米自動車交渉を担当していました。あの頃と比べて、今回がちょっと違うなと思うのは、米国政府のバックに誰がいるのかが見えないということです。
BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎が考える『トランプ関税の帰結』
当時は米国政府も求めていることが明確で、例えば、米国の車を売りたいので、車を販売してくれるディーラーをいつまでに、いくつ日本国内につくるかという数値目標を出せと。そして、その目標の実現を日本政府がコミットしろと。それを受け入れられないなら100%関税をかけると。
そういう交渉でしたから、米国政府のバックに自動車業界や企業がついていて、その人たちが米国政府を突き動かしていることが明確でした。
ところが、今回トランプさんは非関税障壁の例として、日本はボウリングの球を落として、ボンネットが凹んだら不合格になるなどと言っていますが、トランプさんの背後に何としても車の安全基準を緩和したいという米国企業なり、業界が突き上げているようには見えない。
背後に利害関係者が見えてこないという不思議な構図になっている。
つまり、トランプさん個人が満足できるものを交渉して、実現していかなければならないということで、日本にとっては非常にやりにくい交渉だと思います。
─ 不思議な構図だということですが、トランプ大統領は、貿易赤字を解消したいということを主張していますね。
齋藤 ええ。1990年代前半というのは、米国が世界に対して抱えている貿易赤字の約6割を日本一国が占めていました。当時は中国の経済はまだまだ小さかったですしね。
しかし、今は米国の貿易赤字で日本が占める割合は6%です。中国が26%、EU(欧州連合)が20%で、日米の貿易問題を取り巻く環境は大きく変わったということです。
─ それほど日本の影響は小さくなっていると。
齋藤 現在の日米貿易は、確かにモノの貿易においては8・6兆円の黒字ですが、デジタルでは6・6兆円の赤字です。そういう意味では、日米間の経済のインバランスは劇的に変わっている。
もう一つは、日本の企業がどんどん米国に進出していって、現地で生産をしているものを輸出しています。その輸出額はなんと10兆円を超えている。確かに日本はモノの貿易で8・6兆円の黒字ですが、日本から米国に進出した企業はそれを上回る10兆円以上、米国の黒字に貢献しているわけです。
要するに、今まで日本は40年以上にわたって産業界が米国経済に貢献してきたわけで……。