『わたしの「対話人生」』国際社会経済研究所理事長・藤沢久美「メディアが伝える真実とは」

2003年から3年間、NHK教育テレビ『21世紀ビジネス塾』という番組で、キャスターを務めた。

 毎週、全国の企業に赴き、現場ロケを行い、スタジオでは大学教授を招いて、その取り組みを解説する番組だ。私にとっては、毎週が現場取材付きのMBAコースのような学び多き仕事だった。

 ある時、今治(愛媛県)のタオルメーカーを取材した。

 創業者であった父親の急逝を受けて、大企業に勤めていた息子が後継者として社長となり、これまでのタオルの常識を覆す、徹底的に安全基準に配慮し、肌触り良く、かつ斬新な色使いをしたタオルを開発した。

 日本では全く販売先が見つからなかったが、アメリカの展示会に出したところ、グランプリを獲得し、一気に日本の大手百貨店などから引く手数多になった会社だ。

 現地の取材で感じたのは、新しい挑戦をする社長に対する地域の同業者たちの少し距離のある発言と社長の言葉に垣間見られる孤独感だったが、スタジオでは、中国では作れないタオルを開発した社長の発想の素晴らしさや付加価値に価格をつけるという、日本の先を行く米国の現状の解説をゲストの先生がしてくれた。

 放送から数カ月が経った時、その社長から民事再生法を申請したと連絡があった。実は、高付加価値のタオルの生産は、売上の数%であり、9割は父親が導入したジャガード織機を使った高級ブランドのタオルハンカチの下請け製造だった。

 その発注元である卸売企業が破綻し、同社も道連れになった。数十人の従業員に会社を離れてもらわざるを得なくなった。

 人を解雇した社長は、少しでも贅沢をしているように見える行動をすると、地域で噂になる。質素な生活を心がけた。社長の孤独感はさらに大きなものとなった。社長は必死で活路を見つけようと動いた。

 高付加価値のタオルをオンラインで購入していた顧客から複数の声が届いた。「他では同じタオルが買えない。会社がなくなったら困る。何枚買えば、会社は潰れないのか教えて欲しい。みんなで買います」。

 同様の声が、海外のバイヤーからも届いた。「世界に同じタオルを作れる会社はない。発注時入金に対応するから作って欲しい」。そんな顧客や取引先の声に支えられ、小さな売上だった高付加価値タオルに全集中し、数年かけて、社長は会社を立て直した。

 当時、テレビのプロデューサーから言われた言葉が忘れられない。 「テレビでは、針の穴ほど小さな真実をどれほど大きくわかりやすく伝えるかだ」。メディアの素晴らしさと恐ろしさを学ぶ経験でもあった。

冨山和彦の【わたしの一冊】 『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』