「社内の危機感の醸成はまだまだ」パナソニックHD・楠見雄規が抱える苦悩

パナソニックHDは何で稼ぐ会社なのか?

「雇用に手を付けることは忸怩たる思い。本当に申し訳なく思っているが、ここで会社の経営基盤を変えなければ、10年後、20年後にわたって、この会社を持続的に成長させていくことはできないと判断した」

 こう語るのは、パナソニックホールディングス(HD)社長グループCEO(最高経営責任者)の楠見雄規氏。

 5月9日、パナソニックHDは2026年度までに1万人規模の人員整理を行うことを発表した。国内・海外5千人ずつを想定。グループ全体で従業員は約20万7千人(2025年3月末)だから、5%近い人員削減となる。

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 楠見氏は2月に「25年度は経営改革に集中」すると宣言。かつての花形だったテレビ事業も場合によっては売却も辞さないとし、製造・物流・販売拠点の統廃合を実施。構造改革を進め、26年度には24年度比で1500億円の収益改善を進めるとの考えを示していた。

 パナソニックHDの25年3月期の連結業績は、売上高8兆4581億円(前年同期比0.5%減)、営業利益4264億円(同18.2%増)、最終利益3662億円(同17.5%減)。一見すると、まだ赤字になったわけではなく、黒字で人員削減に踏み切るのは早いような気もする。それでも、「同業他社と比べて販管費が5%くらい高い。ここの固定費構造にメスを入れなければ、再び成長に転じることはできない」(楠見氏)。

 こうした従来型の経営のやり方を変えようと、楠見氏は近年、経営のキーマンに外部出身者を複数人起用。副社長の玉置肇氏はP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)、執行役員の木下達夫氏はGE(ゼネラルエレクトリック)出身だ。

 楠見氏は「GEはあれだけ会社を分割したけれども、プリンシプル(行動原理)は徹底されていて、プリンシプルベースで一人ひとりが活躍するようなカルチャーになっている。それを聞いて木下に来てもらった」として、海外の先進企業のエッセンスを〝日本型経営〟の代表格であるパナソニックHDの経営に落とし込もうとしている。

 パナソニックHDは何で稼ぐ会社なのか─―。

 ここ数年、多くの市場関係者が抱く疑問である。要は、何で稼ぐかが見えてこないということではないか。

 前述した通り、同社の25年3月期の売上高は8兆4581億円。ソニーグループ(G)は12兆9570億円で、5月15日時点の時価総額はパナソニックHDが約3.9兆円。ソニーGが約22.6兆円と、大きな差をつけられている。

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 2008年のリーマンショック後、巨額赤字に陥ったのは両社とも同じ。ただ、その後の構造改革を経て、ソニーGはゲームや音楽を中心としたエンターテインメントに経営資源を集中し、成長してきた。パナソニックHDにはこうした旗印がイマイチ見えてこない。

 同社は今後の注力分野にデータセンター向け電源やサプライチェーン・マネジメント(SCM)ソフトウェアなどの「ソリューション領域」を設定。それを支える収益基盤として車載用二次電池などの「デバイス領域」、家電などの「スマートライフ領域」を位置づけた。

「快適であるとか、安心であることの価値をさらに深めていく。ただ、今までの延長線上でやっていくのでは競争力が上がってこないので、データやAI(人工知能)を活用して中身を変え、提供する価値をもっと高めていく」と楠見氏は語る。

 ただ、車載電池では主要顧客である米テスラが、今年1~3月期の営業利益が前年同期比で約7割減となるなど不振。パナソニックHDの米ネバダ工場はフル生産に近い引き合いがあるというが、足元で電気自動車(EV)の需要が鈍化しており、同社にとっては気がかりなところである。

持ち株会社制移行から3年の成果とは?

 2021年5月の社長CEO就任以来4年が経つ楠見氏。最初の2年は「競争力強化の2年」とし、成長のための基礎体力づくりに注力。22年4月からは持株会社制に移行。傘下に個々の事業会社を置く形で競争力強化につとめたが、思うような成果は上げられていない。事業会社の独立性を尊重するあまり、かえって楠見氏のグリップが効かない面はないのだろうか?

「うまくいっているところと、そうでないところがあって、モノの見方の違いによって意思決定のスピードが遅くなりがちなところがあったのは否定しない。持ち株会社制というのは支援すべきところは支援する、課題があれば手を入れる。〝任せて任さず〟を基本にせざるを得ないので、任せた上で望まざる方向に言っているのであれば修正する。経営のモダナイズ(近代化)のスピードが遅いことについては、グループを上げてやっていく」(楠見氏)

 そこへきての今回の人員削減だが、楠見氏は事業部長やビジネスユニット長クラスまでは危機感を共有できているとしつつも、「社内の危機感の醸成はまだまだ。なんで今それをやらなあかんの? と感じている社員も多いと思う。危機感の共有を各事業に落とし込んでいく作業をこれからやっていく」と語る。

 トップダウンとボトムアップが両立しないと、経営はうまく回っていかない。経営のトップとして、グループ21万人弱の危機感をいかに醸成していくか。楠見氏の実行力は今後も問われ続ける。

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