
トランプ米政権の関税政策を巡る交渉で、通貨問題への懸念がくすぶっている。
米国と各国との交渉で一時は日本が「先頭」(ベッセント米財務長官)だったはずが、5月に入ると、英国と中国が日本より先に合意にこぎつけた。成果を急ぐトランプ氏の焦りの表れとの見方もあるが、米政府高官は日本との交渉は「時間がかかる」とも語っており、分野別関税、非関税障壁の撤廃や緩和で早期妥結できなければ、対日貿易赤字解消の”本丸”ともいわれる為替が議題に本格浮上する可能性もある。今後、加藤勝信財務相の手腕が問われることになりそうだ。
加藤氏は5月13日の閣議後会見で、月内にカナダで開かれる主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議に合わせ、ベッセント氏との協議を検討中だと明らかにし、「引き続き、為替について協議を進めることも追求していきたい」と述べた。一方で、「まだ具体的な会談がセットされているわけでもない」とも語り、具体的な協議に関しては言及を避けた。
対米交渉を巡っては加藤氏の発言が国内外で波紋を呼んだ。2日のテレビ番組で加藤氏は「日本が米国債を持っているのは事実だ」とし、「交渉のカードになるものはすべて盤上に置きながら議論していくことは当然だ」と述べたのだ。
トランプ氏が関税交渉で中国などと合意し、”軟化”したのは米国債が米国株とドルとともに売り込まれるトリプル安が引き金になったとされる。
「米国の弱点は今も昔も米国債」(財務省幹部)なのが露わになる中で、米国債保有額1位の日本の財務相が売却に言及─―。
折しも日中韓プラス東南アジア諸国連合(ASEAN)財務相・中央銀行総裁会議がイタリアで開かれる直前で、日本が中国と米国債売却で足並みを揃えるかのように受け取られかねなかった。
4日、加藤氏は「米国債の売却を手段にすることは考えていない」と述べ、事実上、発言を軌道修正。財務省内では「戦略がない発言だったならば失言だ」(幹部)という声もある。
足元で対米交渉は厳しさを増しているだけに、ベッセント氏との協議で加藤氏が真価を発揮できるか注目されそうだ。