
厚生労働省は、厚生年金の積立金などを活用して基礎年金(国民年金)の給付水準を底上げする方策を法案から削除する修正案を自民党に示した。厚生年金の積立金を活用する手法が「流用だ」との強い批判を党内から受けて法案の国会提出が大幅に遅れていたためだ。
ただ、全ての人に共通する基礎年金の底上げは、将来世代の低年金対策につながる今回の改革の「目玉」だっただけに同省幹部は「2年前から綿密に制度設計してきただけに無念」とうなだれている。法案の国会提出後に与野党でさらに内容が修正される可能性もあり、別の省幹部は「低年金対策が復活する可能性もある」との見方も示す。
基礎年金の底上げ策は、少子高齢化の影響で将来世代が低年金に陥るのを防ぐのが狙い。財源としてサラリーマンが納めた厚生年金保険料の積立金と国費を投入する半面、高齢世代が受け取る厚生年金が一時減る他、将来的な増税の可能性もある。自民党内で新たな国民負担と受け止められ、今夏の参院選への影響を懸念する声が党内に広がった。
ただ、基礎年金底上げ策は、立憲民主党などの野党は必ずしも反対していない。むしろ、国会提出を参院選後に先送りする「争点隠し」だとして国会で堂々と議論することを望んでいる。立民幹部は底上げ策のない年金法案は「目玉焼きの黄身だけ取るような話」だと批判している。消費税率引き上げのトリガーになりかねない改革にも関わらず、今のところ野党から国費投入を強く問題視する声は聞こえてこない。
こうした事情から、基礎年金底上げ策はいったん法案から削除されても、国会審議の過程で与野党の合意で修正されることも考えられる。厚労省も「再検討できるような仕組みは法案に残す」(冒頭の幹部)と明言している。とはいえ、制度が非常に複雑になるのは避けられない。別の省幹部は「最終的に一般国民が受け入れられるよう、丁寧に説明を尽くす必要がある」と強調していた。