ONODERA USER RUN・濱田久雄専務執行役員に聞く「人手不足が課題の介護業界で外国人材の可能性と今後」

介護業界における 人手不足について

 日本の介護業界は、超高齢社会の進行に伴い、その需要が急速に拡大しています。総務省の統計によると、2023年時点で日本の65歳以上の高齢者人口は3600万人を超えており、2040年には3900万人を超えると予測されています。

 一方で、厚生労働省が令和6年7月に公表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、2026年度には約240万人(2022年度比+約25万人)、2040年度には約272万人(同+約57万人)が必要とされており、毎年数万人規模の人材確保が求められており、介護職員の確保は需要に追いついていないのが現状です。  ※( )内は2022年度(215万人)比

     厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」を参考に作成

 

 この課題に対応するため、政府は以下のような包括的な介護人材確保対策を推進しています。(1)介護職員の処遇改善、(2)多様な人材の確保・育成、(3)離職防止・定着促進・生産性向上、(4)介護職の魅力向上、(5)外国人材の受入環境整備といった多角的なアプローチが講じられています。

 今回は、特に(5)外国人材の受入環境整備に焦点を当て、介護業界における外国人材の採用と職場定着に向けた実効的な取り組みについて解説していきたいと思います。

介護業界における 外国人材の採用の仕組み

 日本には、外国人材が介護分野で就労するための在留資格として、次の4種類が存在します。(1)介護福祉士の資格を所有している外国人が業務を行う在留資格「介護」、(2)EPA(経済連携協定)に基づき、日本の介護施設で就労・研修を行いながら、最終的に介護福祉士の資格取得を目指す在留資格「EPA介護福祉士候補者」、(3)開発途上国等の経済発展を目的とし、日本国内で技能・技術・知識を習得し、母国への移転を図るための在留資格「技能実習」、そして、(4)2019年に創設された、日本国内の深刻な人手不足を補うため、一定の技能と日本語能力を有する外国人材が就労可能な在留資格「特定技能」です。

 弊社はこの「特定技能」に特化し、慢性的な人手不足に直面している介護施設および病院等へ向けた外国人材の採用支援を行っています。

「特定技能」は、前述の通り一定の技能や知識、日本語能力を持つ外国人向けの在留資格で、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類に分類されます。特定技能1号は最長5年間、就労が可能です。熟練した技能を要する特定技能2号へ移行し、要件を満たすことで配偶者や子の帯同が認められ、更新を続ける限り日本で就労することが可能となります。

 尚、介護分野では、特定技能2号ではなく、介護福祉士を取得し、在留資格「介護」に切り替えることで、日本での長期的な就労が可能となります。

ONODERA USER RUNの取り組み

 弊社は「特定技能」に特化した事業を展開しており、その大きな特徴の一つが独自スキームの「OUR ストレートスルー」です。これは、海外4カ国(フィリピン、ミャンマー、インドネシア、ラオス)の自社教育拠点「OUR BLOOMING ACADEMY」における人材募集、無償教育からはじまり、国内企業への人材紹介、入国後の生活支援、定着支援までを一貫して自社グループ内で完結し提供するものです。

 弊社では、無償教育を提供することで、家庭の経済状況にかかわらず、学習意欲のある人材に教育の機会を提供し、若者が借金を抱えることなく日本での就労を開始できる環境を整えています。これにより、初任給から家族への仕送りが可能となります。

 また、無償であるからこそ、学習態度が芳しくない学生には退校措置を講じるなど、厳格なスクリーニングを実施。その結果、意欲的で学習熱心なOUR BLOOM(OUR人材)をご紹介することができ、人材の質の向上につなげています。

 また、弊社の無償教育拠点「OUR BLOOMING ACADEMY」で学ぶ学生の多くは、海外の地方出身者であり、日本への渡航経験がない方が大半です。そのため、日本の地方部での就労を希望するケースも多く、近年課題になっている、交通の利便性や給与水準を理由とする外国人材の都市部流出の抑制にもなっています。

 さらに、入国後の「定着支援」として、外国人材のハウジングを強化しています。現在、日本国内では外国人材の住宅確保が依然として大きな課題となっています。そこで、受入れ先企業に代わり住居手配を行う「ハウジングサービス」を展開し、安定した住環境の提供を支援。直近では、地方創生の観点から、自治体所有の空き家を活用し、住居として貸し出す取り組みを開始しました。これは、外国人材の住居問題と自治体における空き家増加問題の解決に寄与するものとなっています。

 加えて、日本での生活基盤をスムーズに整えられるよう、携帯SIMの販売や弊社専門スタッフによる学習支援プログラムを実施し、外国人材の長期的な就労と定着を後押ししています。

 弊社の外国人材に関する一貫したスキームは国内外で高く評価され、2024年6月にはフランス・パリで開催されたOECD国際会議に日本企業代表として出席し、「国際労働移動(SMPs)」の前進に向け、弊社の事業や「OURストレートスルー」の取り組みを紹介しました。各国の関係者からも好事例として高い関心が寄せられ、特定技能外国人材の定着における受入れ側の責任(来日前の準備や来日後のサポート)や、弊社の定着支援について、活発な質疑応答が行われました。

  独自スキーム「OURストレートスルー」の流れ

登録支援機関から見た 外国人介護人材の受入れ事例

 日本国内における外国人材の増加に伴い、弊社は登録支援機関としてこれまで2500名以上の特定技能外国人材のサポートを行ってきました。その中で、「OUR BLOOM(OUR人材)」や受け入れ企業から、さまざまな相談が寄せられています。

 本項では、その具体的な事例として、九州地方の介護施設で勤務するランさん(仮名)と、首都圏の病院で看護補助者として勤務するナンさん(仮名)のケースをご紹介します。

  ・九州地方の介護施設で勤務するランさんのケース

 ランさんは、母国フィリピンから日本へ入国して約1年が経ちます。幼少期から「海外で働き、家族の生活を支えたい」という強い思いを抱いており、日本の食文化や伝統に関心があったことから、日本での就労を決意しました。

 また、すでに友人がOUR BLOOMING ACADEMYフィリピンで学んでいたことも後押しとなり、同アカデミーに入校。日本語と介護の学習を開始しました。

 その後、無事に特定技能「介護」の試験に合格したランさんは、九州地方の介護施設で勤務を開始しました。しかし、間もなく直面したのは「方言」の壁でした。学んできた標準語とは異なり、九州地方の方言を聞くこと自体が初めてだったため、職員やご利用者様とのコミュニケーションに苦戦する場面もありました。それでも、職員やご利用者様が方言の意味を丁寧に教えてくれたことで、それが自然と学習の機会となり、日本人との交流も深まるきっかけにもなり、今では、ランさん自身も日常的に方言を使うほどに日本語力が向上しています。

 介護業務では、食事・入浴介助、トイレ介助、口腔ケア、おむつ交換などを日本人職員とペアで担当。入職から約3カ月後には夜勤にも入り、現在では日本人職員と同様のシフトをこなせるほどまでに成長しました。さらに、受入れ施設では今後、外国人材同士でペアを組んで業務を行うことも検討されており、外国人材の育成強化と職場環境の整備が一層進められています。

      外国人材が介護の現場で活躍し始めている

  ・首都圏の病院で看護補助者として勤務するナンさんの事例

 幼少期、母国ミャンマーで数多くの日本製の丈夫な中古車が走行しているのを目にしていたナンさんは、「こんなに優れたものを生産する日本はどのような国なのだろう?」と興味を抱き、次第に日本で働くことを夢見るようになりました。その夢を実現するため、OUR BLOOMING ACADEMYミャンマーに入校し、介護と日本語の学習を開始しました。

 ナンさんが現在勤務している病院に入職したのは2022年4月ですが、内定を得たのはコロナ禍の2020年でした。入国制限の影響で、ミャンマーから日本へ渡航するまでに約2年を要しましたが、その間も日本語と介護の学習を継続。一方、日本国内では、多くの施設・病院がコロナ禍により外国人材の採用を延期または再検討する中、ナンさんを受入れることを決めた病院は、アフターコロナ時代の医療・介護ニーズの増加と人材不足を見据え、外国人材受入れに向けた職場環境や社宅などの生活環境の整備を進めていました。

 入国後、ナンさんが最も苦労したのは、日本語での日常会話でした。現地で学んだ日本語は主にテキストベースのため、日本人の話すスピードやイントネーションに戸惑い、特に朝礼の内容が聞き取れないことが課題でした。しかし、分からない部分をそのままにせず、積極的に職員に質問し、自宅でも日本語の学習を継続したことで、現在では問題なく日常会話ができるレベルに上達しました。

 さらに、業務面でも大きな成長を遂げ、2024年10月には副主任に任命されました。現在は、職員の業務分担表の作成や、新人職員(国籍問わず)の指導を担当し、チームをまとめる存在として活躍しています。

  ご紹介した2つの事例に共通する課題は、いずれも「コミュニケーションの壁」です。人材不足が深刻化する施設や病院においては、外国人材が即戦力としてスムーズに業務を遂行できる環境づくりが求められます。

 例えば、出入国在留管理庁と文化庁が近年の社会変化を踏まえて策定した「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」の職場での活用が挙げられます。このガイドラインは、多言語での翻訳・通訳だけではなく、外国人が理解しやすい簡潔で分かりやすい日本語を使用することが推奨されています。受入れ側がこうした配慮を意識することで、外国人材の職場適応が円滑に進み、結果として長期的な定着と活躍につながると考えられます。

最後に

 総合的な介護人材確保対策の一環として推進されている外国人材の受入れは、深刻な人材不足に直面している介護業界において、今後さらに拡大していくと予測されます。

 外国人材が安心して働き、能力を発揮できる環境を整備することこそが、日本における多文化共生社会の実現に寄与するだけでなく、介護業界の人材不足という課題を解決する重要な鍵となるでしょう。