競争が激化する市場環境において、ビジネスの成功は戦略的な意思決定にかかっています。製品開発から市場拡大に至るまで、すべての意思決定には明確なロードマップが必要です。どんなに優れたアイデアであっても、明確な目的と目標がなければ、やがて埋もれてしまう可能性があります。この原則は、生成AI(GenAI)のような急速に進化する技術を導入する際には特に重要です。

McKinseyが2024年に実施したAIに関する調査によると、生成AIを定期的に活用する企業の数は、2023年の調査と比較してほぼ倍増しています。一方で、KPMGの「2023年 生成AI調査レポート」では、企業が直面する課題の上位5つのうち2つが、「生成AIの具体的な活用方法の不明確さ」と「経営層の理解不足および戦略の欠如」であることが指摘されています。

企業が生成AIの持つ革新性と生産性向上の可能性を理解していることは明らかですが、真の価値を引き出すためには「意図」を持って取り組むことが不可欠です。

ビジネス目標とAI戦略の整合性を図る

生成AIの可能性はもはや疑う余地がありません。しかし、この技術を単に導入するだけでは成功は保証されません。企業が明確な目標、期待値、目的を持たずに導入すると、さまざまな課題に直面することになります。

AI戦略と企業のコアビジネス目標が一致していなければ、リソースの浪費や機会損失につながる可能性があります。Accentureの調査によると、企業の4分の3が、従業員の生産性や体験の向上につながる包括的なAI戦略を持っていないことが明らかになっています。

そのため、企業の経営者はエンタープライズAIの導入を加速させるために、より積極的かつ具体的なアクションを取る必要があります。「意図」を持ってAI導入を進めることで、投資対効果(ROI)を最大化する道筋を明確にすることができます。

成功の鍵となる3つのステップは以下のとおりです。

データ戦略の確立

企業は、データを戦略的な資産として扱い、ビジネスの優先事項と連携させることで、生成AIの力を活用して業務を最適化し、ビジネスに不可欠なインサイトを獲得できます。

リーダーシップによる学習文化の醸成

経営層が率先してAI戦略と目標を明確に伝えることで、組織全体でAI技術を信頼し、効果的に活用する文化を形成できます。

従業員のスキル強化

適切なトレーニングプログラムを通じて、従業員に必要なリソースやスキル、知識を提供することで、急速に変化するAI技術の進化に対応できる体制を整えます。

AI戦略を支える最新のインフラ

従来型のレガシーなインフラは、データを分散管理していることが多く、これがデータの分断や非構造化データの蓄積を引き起こし、AIモデルが活用できる実用的なインサイトの抽出を阻害します。

AIの成功には、高品質かつ多様なデータへのアクセスが不可欠です。そのため、データ活用の最適化に取り組む企業は、AIを活用して業務を効率化し、IT投資のリターンを最大化し、新たなビジネスチャンスを創出できます。一方、データ基盤を近代化しない企業は、競争に取り残されるリスクを抱えることになります。

レガシーシステムから脱却し、AIモデルが生み出す膨大なデータワークロードを支えるスケーラブルでセキュアかつ堅牢なデータアーキテクチャへの投資が不可欠です。リアルタイムのデータ処理、ストレージ、統合機能を活用することで、AIの可能性を最大限に引き出し、業務の自動化やコスト最適化を実現できます。

例えば、インドネシア中央銀行(Bank Negara Indonesia)は、生成AIを活用し、生産性向上、信用メカニズムの強化、トランザクションバンキングプラットフォームの改善を図っています。これにより、同行はグローバルな顧客基盤の多様なニーズに対応し、より高い価値を提供できるようになります。

さらに、最新のデータプラットフォームはデータドリブンな企業文化の醸成を促進します。AIモデルから得られたインサイトは、製品開発、マーケティング戦略、カスタマーサービスの向上に役立ちます。ハイブリッド環境を活用すれば、データがどこにあっても一貫したセキュリティとガバナンスを維持しながら、AI活用を促進できます。

OCBCインドネシアは、このアプローチを採用し、データレイクと統合するハイブリッドデータ戦略を実践しています。同社は、テクノロジーとカスタマーエクスペリエンスを不可分のものと考え、顧客ニーズを先取りするためにパーソナライズされた推奨を提供しています。この戦略により、生成AIプロジェクトを推進し、銀行業界における競争力を確保しています。

信頼できるデータがAI活用のカギ

AIシステムの根幹をなすのは、大量のデータです。そのため、信頼できるデータの確保が、企業がAIを活用する上での最重要課題となります。

セキュアでアジャイルなプラットフォームを構築し、AIモデルが確実に価値あるインサイトを抽出できる環境を整えることで、迅速な意思決定とデータドリブンな戦略を実現できます。AIの基盤をしっかりと築くことで、企業はデータ駆動型社会の変化に適応し、確信を持って成長を続けることができるでしょう。

明確な目的を持ち、透明性を確保し、堅牢なデータ基盤を構築することこそが、生成AIを責任ある形で導入し、持続的な成果を生み出す鍵となります。

この取り組みは、経営層、技術チーム、従業員の協力を必要とする長期的なプロセスです。倫理的な側面を考慮しながらAIを適切に活用し、ビジネスの発展に貢献するために、「意図を持ったAI戦略」を推進していくことが求められます。

著者プロフィール

吉田 栄信 ソリューション・ エンジニアリング・マネジャー Cloudera株式会社
クラウド、ビッグデータ、データガバナンス、PaaS、Webアプリケーションなどのアーキテクトとしての設計や実装の経験を持つソリューションエンジニア。2019年6月より現職。以前はDXCテクノロジー・ジャパン株式会社でチーフ・テクノロジスト、ヒューレット・パッカード エンタープライズでビジネス・ディベロップメントを担当。