
人気急上昇のバーチャルヒューマンとは
昨今、世間で少しずつ露出が増えてきた〝バーチャルヒューマン〟は一体何者なのか─。その代表格ともいえる日本発のキャラクター『imma』は、ピンクのボブヘアで実際居てもおかしくない外見のモデル。もちろん、デジタルであるのでこの世に実在はしないが、『imma』のSNSのフォロワーが既に100万人を超え、若い世代を強く惹きつけている。
バーチャルヒューマン(VH)はCG技術を駆使して制作され、画面上では人間と区別がつかないほど精度が高い。TiKTokで踊る姿は人間のようになめらかだ。
『imma』は既にBMW、ポルシェ、COACH、BURBERRY、P&G、IKEAなどの企業で広告モデルとして起用され、海外では有名アイコンとして認知されている。
日本企業では野村證券が2023年から起用している。一般的に堅いイメージの金融機関がVHを広告起用したことは、大きなギャップでインパクトを残した。同社関係者は、「資産形成層に新NISAをアピールするために従来とは全く違う刷新感を要した。『imma』は未来感を表現するのに最適。実際ポジティブな反応が多く手応えを感じる。いろいろな種類のポスターがある中で去年各店舗から一番発注があったデザインだった。お客様からの反応も良かったのでは」と話す。
AIの最先端技術という未来感をもつことに加え、Z世代に人気のアイコンで若年層にリーチしやすい。VHは人間のタレントとは違いスキャンダルがなく安心だという点も、企業からの支持急上昇の理由の一つ。
そういった実益の面もあるが、なぜこの『imma』というキャラクターがそんなにも人気を得られたのか。生みの親であるAww CEO守屋貴行氏は「キャラクターを流行らせたい場合、世界観とストーリーテリングが肝。『imma』にはバーチャルの女の子に構築しSNSで発信していった」と話す。
「特にZ世代と海外から、見た目や新しい存在、発信する活動内容が面白いといって、『imma』のSNSにコメントしてくる人が多い。バーチャルヒューマンでスターをつくりたい」(同)
守屋氏は20代からマッチングアプリ『ペアーズ』を友人と起業し、売却。第96回アカデミー賞®視覚効果部門を受賞した『ゴジラ-1.0』の映像制作などを手掛けた制作会社ロボットに就職し、映像製作、CG制作のキャリアを積んでAwwを創業。これまでのクリエイティブコンテンツが重なり、バーチャルヒューマンが誕生したという。
同社はAIを駆使した映像製作やコンテンツ制作能力には高い評価を得ており、AIチップ事業を行う米NVIDIAとも提携をし、今後共同開発を進める。現在社員20名と小さな会社であるが、世界に存在感を放っている。
日本のIP(知的財産) キャラクターに世界が注目
「日本はIP大国。漫画やアニメ文化が根付き、キャラクターをつくることを得意とする。われわれは生まれた頃から身近でたくさんのキャラクターに馴染んでいるが、海外ではその多様性が珍しく映っている。ポケモンやマリオ、ゲームのキャラクター、鬼滅の刃などが世界中で人気を誇る理由は、キャラクターの世界観とストーリーテリングの作り込みが緻密で得意だからだと思う」と守屋氏は分析する。VH『imma』も同じ論理で作り込み、2018年にデビューしてから新しい存在として世界60カ国でニュースとなった。
今年2月にアラブ首長国連邦のドバイで行われた世界政府サミットにもAwwが招かれ、守屋氏も登壇。同サミットには、30人以上の国家元首および政府首脳、120以上の国の代表や経済界で影響力を持つリーダーたちを主に、60000名が参加した。守屋氏は、サントリーホールディングス社長の新浪剛史氏や楽天会長の三木谷浩史氏、虎屋18代目社長の黒川光晴氏らとインナーの会にも出席した。
今年2月開催の世界政府サミット 守屋貴行・Aww CEO(前段右)
同サミットに参加していた国々は自国の観光強化にVHを積極活用していきたいと考えている。そういった意図もあり、守屋氏の事業に世界から注目が集まっているのだろう。VHに言語や対応を覚えさせ、世界中の空港や観光地に入れて人の代わりに接客をさせれば、教育・維持コストを抑え、スピード感をもって観光立国に向けて整備を進められる。
同社のVH事業のビジネスモデルは、通常の人間タレントと同様の広告契約。現在は人と違和感なく会話ができる技術革新を進めている段階だ。観光だけでなく、例えば金融機関の窓口業務や、役所などでも今後導入の可能性は高まっていくことが推測される。
日本経済は〝失われた30年〟脱却のため、企業は生産性を上げ新陳代謝を高めるのが喫緊の課題。VHに任せられる仕事は任せ、人は人でなければできない仕事に専念できるよう、労働資本の移動が現在地球で起きている社会課題解決に向けての第一歩。VHをハンドルするのはあくまで〝人〟。使う側の倫理観次第で、人類の未来の良し悪しは左右される。
世界が興味深々の日本発VH『imma』は、世界中の人々をつなぎ、人類が抱える課題を解決していくことができるか。日本の得意技であるIPと最先端技術を掛け合わせた事業で、世界に挑む守屋氏である。