建築費高騰の余波、 「中野サンプラザ」再開発が白紙に

ゼネコンの見積が 900億円増加

 建築費の高騰が、不動産開発の今後に暗い影を落としている。

 2025年3月11日、東京都中野区は、これまで推進してきた複合施設「中野サンプラザ」跡地の再開発の見直し、事実上の「白紙撤回」を発表した。

 これまで、野村不動産を中心とする事業予定者が再開発を進めてきた。当初はサンプラザと旧区役所を解体した跡地にオフィスや住宅、商業施設が入る超高層ビル、その隣に約7000人収容の多目的ホールを整備する計画で29年度までに開業する予定だった。

 だが、24年8月、施工を担当する清水建設が工事費の見積もりを当初見通しから引き上げ、総事業費約2639億円だったものから900億円上がることが明らかになった。人手不足や資材価格高騰が直撃した形。

 この状況を受けて、野村不動産は当初予定通りの着工は困難だとして、施工認可申請を取り下げ。収益性を上げるためにオフィス部分の割合を減らしたり、ツインタワーにする計画見直し案を提示した模様。だが、このツインタワー案は、再開発提案時に次点だった東京建物を中心したグループが提案したのと似通っていた。

 中野区は区長の酒井直人氏が、この見直し提案を受けて「現時点で事業成立性の見通しが明らかでなく、公簿時における当初提案から大きく変更されたもの」、「区民の利用する施設の魅力が十分に踏襲されていない」として計画見直しを発表。

 今後は事業者の選定から、再度やり直すことになり、再開発は当初計画から大幅に遅れることになる。

 建築費高騰の影響を受けているのは、中野サンプラザだけではない。あるデベロッパーの首脳は「他社と話していても、計画を遅らせるという話を聞く。我々も再開発への取り組みそのものを見直さないといけないかもしれない」と危機感を示す。

 過去とは違い、ゼネコンも採算が取れない工事を請けたり、コスト増の負担を被る余裕はない。発注者とゼネコンとの価格転嫁を巡る環境は、法律面も含めて変わり始めている。今回の白紙撤回の影響は今後、日本全国でも見られる可能性が高い。