東京都内はソメイヨシノの花が見ごろを迎え、満開の桜の下で写真を撮っている人も増えた。ウィズコロナからアフターコロナへと移行したことで、歓送迎会や友人とのお花見など桜の名所へと出向く機会も増えている。お花見と言えば、料理の手配や乾杯の挨拶など、幹事の仕事で一苦労したという経験がある人も多いのではないだろうか。

スクリーンショット共有ツール「Gyazo」やナレッジベース「Cosense」などを開発するHelpfeelは4月2日、AIエージェントがお花見をプロデュースし幹事を務める「AIお花見」を開催した。当日はあいにくの雨模様だったので屋内開催となったが、AIはどこまで人の業務を代替できたのだろうか。

  • Helpfeelオフィスで開催されたお花見

    Helpfeelオフィスで開催されたお花見

AIエージェント「Devin」がお花見の幹事を担当

今回同社がお花見の幹事に抜擢したのは、Cognitionが開発したAIエージェント「Devin(デヴィン)」だ。業務の効率化を支援する従来のAIエージェントとは少し異なり、同サービスは「完全自立型AIエンジニア」と呼ばれるようにエンジニアのタスクを遂行するよう設計されている点が特長的。

Devinは自然言語での指示を処理し、仕様策定から設計、実装、テストに至るまでソフトウェア開発の一連のプロセスを一貫して実施する能力を持つ。他のシステムやソフトウェアと連携し活用できる特長も持つ。

AIエキスパートエンジニアの寺本大輝氏は「Devinのシステムは、AIエージェントが自身のPCを持っており、そのPCを使ってさまざまな業務を遂行するようなもの」だと紹介していた。

  • マイクを持っているのが、Helpfeel AIエキスパートエンジニア 寺本大輝氏

    マイクを持っているのが、Helpfeel AIエキスパートエンジニア 寺本大輝氏

下の写真はDevinのインタフェース。画面左はチャットUIで、ユーザーとDevinの自然言語での会話が表示されている。右側がDevinが操作している画面。Devinはブラウザやエディタなどを操作して業務を遂行しており、その様子を確認できる。

  • Devinのインタフェース

    Devinのインタフェース

Devinが注文した料理は無事に届くのか?

お花見が始まる前に、寺本氏はDevinにUber Eatsで料理を手配してもらうことに。お花見会場となった同社日本橋オフィス近辺でデリバリーに対応しているお店探しから依頼した。ちなみに、Devinへの指示は音声で入力可能。

寺本氏が「オフィスに近いお店を教えてください」と入力すると、Devinは距離や混雑状況を把握して、到着時間が短い順に候補を提案した。

  • Devinが近隣の店舗を提案した

    Devinが近隣の店舗を提案した

寺本氏はその中から、おにぎりとサンドイッチの専門店を選択。続けて、予算と参加人数をDevinに伝え、「お花見らしいメニューを10人分くらい注文してください」と指示した。その結果、Devinはおにぎりやサンドイッチ、サラダなどを組み合わせてメニューを選択した。

筆者が驚いたのは、Devinが単に同じおにぎりを10個注文するのではなく、サラダやスープなど複数のメニューから組み合わせて注文していた点だ。これらのメニューをDevinは次々にカートへ入れていく。

  • Devinが選択したメニュー

    Devinが選択したメニュー

なお、上記の通り、Devinが操作しているブラウザのインタフェースはユーザーにも見えており、誤った操作や意図しない決済が行われそうな場合には、ユーザーが介入して阻止できる。

注文完了後に寺本氏がメニューを選んだコンセプトをDevinに尋ねた。するとDevinは「メニュー選定のコンセプトは『和と洋の調和』です。お花見には伝統的な和食(おむすび)と、オフィスでの取り分けのしやすさを考慮したサンドイッチを組み合わせました。特に季節感を意識し、さまざまな具材のおむすびで春の多様性の表現。また、ごぼうサラダは根菜の力強さで新年度の活力を象徴しています」と回答した。

  • Devinの自己採点とメニュー選択のコンセプト

    Devinの自己採点とメニュー選択のコンセプト

注文が完了してからしばらく待つと、無事にUber Eatsで料理が届けられ、Helpfeelはお花見を開催することができた。

  • Devinが注文した料理が届いた

  • 無事に乾杯できた

    無事に乾杯できた

Devinは幹事らしく、乾杯挨拶の原稿も作成。「春の陽気とともに美しい桜が咲き誇るこの季節。自然の素晴らしさを感じながら、共に時間を過ごせることを大変うれしく思います。(中略)株式会社Helpfeelの皆様が、この桜のように輝かしく、そして力強く成長されることを心より願っております」と、非常に自然な日本語だった。

  • Devinが作成した乾杯挨拶の原稿

    Devinが作成した乾杯挨拶の原稿

Devinはこの他にもお花見を盛り上げるために、「完全自立型AIエンジニア」らしくオリジナルのクイズゲームを作成していた。ゲーム内容は、さまざまな難易度で桜にまつわるクイズを出題するというもの。デザインや設計からデプロイまで、寺本氏と相談しながらではあるがDevinが担当した。

  • Devinが作成したクイズゲーム

    Devinが作成したクイズゲーム

AIも社会人も最初から完璧ではない

お花見の幹事としてのDevinは立派な活躍を見せてくれたが、寺本氏が個人開発でDevinを活用する中では多くの失敗も経験したという。その一例として、クラウド環境のセキュリティキーをうっかりDevinと共有してしまったところ、Devinがその一部を外部に送信しそうになるミスが発生したそうだ。幸いにも漏えいは未然に防げたものの、事故につながりかねないミスだったと、同氏は振り返っている。

  • あわや大事故だったというミス

    あわや大事故だったというミス

他にも、Devinにランチを注文するよう指示をしたところ、モバイルオーダーで牛丼が2つ届くミスも発生した。原因は注文サイトのカートの操作ミスで、一度牛丼をカートに入れた後になぜか一度戻り、またカートに商品を入れていたという。この経験から、寺本氏はDevinが注文する前に個数の確認を徹底するよう調整している。しかし、後日ハンバーガーが2つの店舗から1つずつ届くというミスも発生。

  • ランチの注文に失敗した例

    ランチの注文に失敗した例

こうした複数の失敗を経て、そのたびに寺本氏はDevinのミスが減るよう調整や指示(プロンプト)の出し方を工夫してきた。

「AIエージェントも、意外と人間と同じようにうっかりミスをする。また、最初から人間の指示を完璧に理解して意図通りに動くわけではない。事前にルールを決めておくことでミスを減らす工程は、人間のマネジメントにも通じるような気がする」(寺本氏)

これからの季節、歓迎会や懇親会の幹事を任される若手社会人も増えてくる。AIでも最初から幹事をうまくやれるわけでないようなので、若手社員もぜひ先輩やAIの力を頼りながら素敵な会を成功に導いてほしい。

  • AIエージェントが幹事を務めたお花見は盛り上がっていた

    AIエージェントが幹事を務めたお花見は盛り上がっていた