マネーフォワードは4月2日、都内で記者説明会を開き、AI戦略「Money Forward AI Vision 2025」を発表した。今後、「AIエージェント」「AIエージェントプラットフォーム」「AX(AIトランスフォーメーション)コンサルティング」を順次、提供していく。説明会には、同社 代表取締役社長 グループCEOの辻庸介氏が出席した。

“クラウドからAIへ”に切り替えるマネーフォワード

冒頭、辻氏は同社が会計業務などをクラウド化したことにより、データの自動取得・仕訳で経理作業の手間の削減、会計事務所とのコミュニケーションの円滑化、自動アップデートによる法令対応への心配が不要であることを実現してきたという。

  • マネーフォワード 代表取締役社長 グループCEOの辻庸介氏

    マネーフォワード 代表取締役社長 グループCEOの辻庸介氏

同氏は「これまで“アナログからクラウドへ”に取り組んできたが、今後は“クラウドからAIへ”に切り替えていく。DX(デジタルトランスフォーメーション)はITやクラウドで業務を効率化してきたが、次のフェーズはAX。AIが自律的に動いて業務を変革し、まさにデジタルワーカーという言葉に置き換えられる。人手不足に悩む中堅・中小企業に対して、AIを活用したデジタルワーカーを提供していくことで、当社はNo.1バックオフィスAIカンパニーを目指す」と力を込めた。

従来からの「マネーフォワード クラウド」のサービス群をはじめSaaS(Software as a Service)を主軸としてきたが、今後はAIにより事業成長の加速を実現していく。AI時代における同社の強みとして、辻氏は1660万人以上の個人ユーザー、40万社以上の法人顧客を抱える大規模なユーザーベース、BtoB、BtoC合わせて計60以上のプロダクトラインナップ、豊富なデータ資産、実用性の高いプロダクト改善サイクル、最先端技術の積極的な採用、40カ国以上のエンジニアが在籍する開発チームなどを挙げている。

  • AIにより事業成長の加速を実現するという

    AIにより事業成長の加速を実現するという

こうした強みを武器に、2028年の経営目標として1人あたりの売上高を2024年比2倍以上の3000万円以上を計画している。とは言え、AIの取り組みを進めるうえでは自社内の活用は必須だ。

そのため、同社ではAIの活用で社内業務の生産性を向上させている。カスタマーサポートでは年間業務量の4割となる12万789時間、セールスでは年間2万1600時間、エンジニアは有効コード生成量が36%増加し、同31万2400時間の削減効果を出している。また、セキュリティ・ガバナンスについては生成AIの利用ガイドラインを用意し、データアナリティクスガバナンス委員会を設置している。

  • マネーフォワード社内における実績

    マネーフォワード社内における実績

さらに、既存のプロダクトにもAIを活用し、ChatGPTとAPI連携している「マネーフォワード クラウド会計 Plus for GPT」やAI-OCRの「同クラウド契約」、指示を入力するだけで作りたい人事関連書類のテンプレートを自動生成する「同クラウド人事管理」などがある。

  • 「マネーフォワード クラウド会計 Plus for GPT」の概要

    「マネーフォワード クラウド会計 Plus for GPT」の概要

AIエージェント、AIエージェントプラットフォーム、AXコンサルティングの概要

AIエージェント

Money Forward AI Vision 2025では、マネーフォワード クラウドにおいてAIエージェントを提供する。2013年にサービスを開始したマネーフォワード クラウドは、経理財務や人事労務、法務領域のバックオフィス向けSaaSとして、40万を超える事業者(個人事業主・中小企業・中堅エンタープライズ企業)が利用し、クラウド化を通じて業務効率化を支援してきた。

しかし、データ入力やデータ整理といった反復作業、煩雑な部署間コミュニケーション、期日に追われる業務などは、依然として時間的、精神的な負担となっており、これらの課題を解決し、バックオフィス業務を次のレベルへと引き上げるために、AIエージェントを提供する。

  • AIエージェントでは統合データマートがカギを握る

    AIエージェントでは統合データマートがカギを握る

これは次に対応すべき作業の提案やシーンに合わせたリマインドなど、高度な情報処理による自動化を通して業務効率と意思決定を支援するというもの。バックオフィス業務、バックオフィスツールを利用する全従業員の業務負荷を軽減する。人間からの指示を待たずに自ら判断し、状況を分析して最適な行動を提案するという。

具体的には、経費、会計、HR領域などで活用可能なAIエージェントの開発を進めている。例えば経費領域では、従業員が「マネーフォワード ビジネスカード」で支払いを行うと、自動で経費申請内容の提案が通知され、内容を確認して申請を実行すると、自動で上長への承認依頼の確認通知を行う。

  • 経費領域のAIエージェント

    経費領域のAIエージェント

また、士業事務所向けには、必要な資料のリスト化とコミュニケーションツールを通じたリマインドを行う「資料回収エージェント」や、初めての取引でも精度の高い勘定科目をレコメンドする「勘定科目レコメンドエージェント」などの提供を検討。各領域におけるAIエージェントは、2025年中に順次提供の開始を予定している。

AIエージェントプラットフォーム

AIエージェントプラットフォームは、マネーフォワード クラウドの各領域で活用可能なAIエージェントのラインアップを拡大。さらに、最適なAIエージェントをスピーディー・効果的に組み合わせて活用するためには、外部サービスのエージェントも併用できる環境が必要だ。

そうしたことから、同社が提供するAIエージェントに加え、外部パートナーが開発したAIエージェントもインストール可能となり、ユーザーが最適な組み合わせで活用できる環境を提供。

  • AIエージェントプラットフォームでは外部パートナーのAIエージェントもインストール可能

    AIエージェントプラットフォームでは外部パートナーのAIエージェントもインストール可能

さらに、士業事務所、販売パートナー、BPOパートナーなど、多様なパートナーとの共創を通じて、効果的なAIエージェントの活用を提案できるAIエージェントエコシステムの構築を目指す。なお、同日から参画希望のパートナーの募集を開始している。

  • AIエージェントプラットフォームの概要

    AIエージェントプラットフォームの概要

AXコンサルティング

AXコンサルティングでは、これまでも企業のバックオフィス業務効率化を支援するため、SaaSの導入から運用支援まで、包括的なコンサルティングサービスを提供しており、最適なSaaSの導入・運用支援に加え、AIエージェントを活用することで、従来のシステムでは自動化が困難であった複雑な業務や、人間の判断が不可欠な高度な業務の自動化・効率化を実現するとしている。

具体的には、契約書や請求書に基づく複雑な経理処理の自動化や財務分析や将来予測といった業務の高度化を支援し、業務スピードのみならず、意思決定スピードの向上に貢献するとのこと。なお、サービスは同社グループの経営管理・コンサル領域を担う新会社であるマネーフォワードクラウド経営管理コンサルティングを通じて提供する。

  • バックオフィス向けAXコンサルティングの概要

    バックオフィス向けAXコンサルティングの概要

また、マネーフォワードエックスが提供してきた金融機関向けコンサルティングにも、AIエージェントを活用したAXコンサルティングを展開し、金融機関のあらゆる課題解決をサポートしていく考えだ。AIエージェントプラットフォームと同様にAXコンサルティングも同日から受付を開始している。

最後に辻氏は「当社の全サービスにAIエージェントを導入し、バックオフィス業務を自動化・自立化し、オープンなAIエージェントプラットフォームを提供することでバックオフィス向けのAIエージェントエコシステムを構築していく。加えて、中堅・エンタープライズ企業、金融機関にAXコンサルティングを提供する」と力を込めていた。