【厚生労働省】患者団体や与野党が懸念 高額医療費引き上げは白紙に

石破茂首相が、手術などで高額となった医療費の患者負担を抑える「高額療養費制度」見直しを巡り、今年8月に予定していた患者負担上限額の引き上げ見送りを表明した。25年度予算案は同制度の引き上げを織り込んだものだが、患者団体や与野党の懸念を踏まえ、患者団体との面会後に異例の3度目の修正に踏み切った。

 高齢化と高額薬剤の普及で高額療養費制度の利用件数や支給額は伸び続け、保険財政の圧迫要因となっている。こうした中、厚生労働省は昨年末、25年8月から27年8月まで3段階で上限額を引き上げる改革案をまとめた。

 しかし、患者らの実態を十分把握することなく審議会や与党内の短期間の議論で方針を決めたため、患者団体から「当事者を無視して決めた」「大幅な負担増で治療を断念せざるを得なくなる」と強い反発を招いた。

 国会審議で野党から追及を受けた政府は長期治療者の負担据え置きや、26年以降の対応を再検討する方針を決めたものの、患者らの納得が得られないままだった。省内でも「最初から意見を丁寧に聞いていれば、これほど混乱しなかった」と手続きの甘さを批判する声も漏れる。

 政府サイドには、「今年8月の中間層で10%の上限額引き上げは物価上昇分を反映したもので当然実施すべき。その上で26年以降の在り方を再検討すれば患者団体も納得してくれるはず」という目算があった。

 しかし、高額な薬を服用し続けなければならない慢性疾患の患者を中心に反発は収まらず、夏に改選を迎える参院の与党議員からも引き上げ凍結を求める声が噴出。首相は予算案が衆院を通過した異例のタイミングで引き上げ断念を決断した。

 負担上限額の在り方は参院選後に再検討する見通しだ。40年に高齢化のピークを迎える中、厚労省幹部は「制度を維持するには上限額引き上げは不可欠」と強調。医療費を支払う保険者側も引き上げ見送りに慎重で、決着点は見通せていない。

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