以前、リコーが取り組む独自の新卒フォローアップ研修について紹介した。この取り組みで特に独自性があるのは、新卒研修の一環として有志の2年目社員がブランドワークショップを企画し、新卒社員は社内を巻き込みながらプロジェクトを進める点だ。
2年目社員が考案したFY24研修の目玉イベントが、全社向けに公開されるピッチコンテスト「Yolo Pitch 2024(よろピッチ2024)」。新卒社員全員が参加したワークショップの中から6チームが選抜され、PoCを含めた社内実践を通じてアイデアを具体化してきた。
本稿では、フォローアップ研修の決勝戦的な位置付けとなる集大成イベント「Yolo Pitch 2024」の模様についてお届けしたい。
「"はたらく"歓び」実現に向け創造力を発揮する「Yolo Pitch」
同社の育成施策は、入社前に行われる「内定者学習会」、入社後の4月に行われる「新入社員研修」、1年目の冬頃に行われる「フォローアップ研修」に分けられる。フォローアップ研修の中でブランドワークショップを実施する意義や、入社2年目の若手社員が研修を企画するようになった背景については、以下の記事で紹介した通りだ。
「リコーの新卒研修を2年目社員が企画- 若手が全社を巻き込む実践型の研修に迫る」
2024年12月に実施されたブランドワークショップには、同年春に入社した147人の1年目社員が参加した。1年目社員は20人ほどのグループに分かれ、グループごとに別日程で「創造力の発揮」をテーマとしたワークショップに挑戦。各日程の中でさらに4~5人ずつのチームに分かれ、「チームの創造力発揮を促す社内向け企画」のアイデアを発表した。
すべての日程が終了した時点で、全グループの中から選ばれた6チームが「Yolo Pitch 2024」への出場権を獲得。その後はアイデアの再検討やテーマの深化、関係者へのヒアリング、社内実践など、各チームがプレゼン大会の準備を進めてきた。
ピッチコンテストの開催に先立ち、会長の山下良則氏が以下のようにビデオメッセージを送った。
「『"はたらく"に歓びを』をリコーのミッション&ビジョンに設定してから約2年が経った。1977年に当社がOA(Office Automation)を提唱してから、『機械にできることは機械に任せ、人はより創造的な仕事をすべきだ』という考えが脈々と醸成されている。今回、入社1年目社員の中から選ばれたチームの皆さんが、創造力の発揮について試行錯誤しながら一生懸命考え、準備してきたと聞いている。また、入社2年目の有志社員がイベントを企画し実行してくれたことに対し、私自身が今まさに『"はたらく"歓び』を感じている。(当日は別件があり会場で参加できないため)後日すべてのアイデアを見る予定なので、頑張って発表してほしい」
入賞チームが白熱のプレゼン
それでは、「Yolo Pitch 2024」に出場した6チームによる「チームの創造力発揮を促す社内向け企画」の中から、視聴者投票により見事優勝を勝ち取ったチームと、リコー はたらく歓び価値創造室による「はたよろ創室賞」受賞チームのプレゼン内容を紹介しよう。
「今話しかけてもいいよ!」という合図を可視化
全6チームの中で最も多くの視聴者投票を獲得し優勝に輝いたのは、勤務中の感情が仕事の成果にも影響を与える可能性に着目した「Talk to Me」。せっかく出社しても会議以外では誰とも話さずに帰るような状況から抜け出し、社内の人と気軽にコミュニケーションを取れるアイデアの創出を目指したという。そこで、チームでの創造力を発揮するために、ポジティブな気持ちを生み出す仕掛けを考えた。
同チームが社内で実施した調査によると、フロア内でのコミュニケーション不足を感じている人が67%に上るという。そのうち「もっとコミュニケーションが増えるべきだ」との回答が54%、「業務に必要な範囲で増えるべきだ」との回答が25%あった。
ポジティブな気持ちになるために必要な要素はいくつか考えられるが、同チームは「一緒に活動する人をちょっと好きであること」が重要であると設定。対面でのコミュニケーションを生み出す仕掛けとして、話しかけても良い合図を可視化するとともに、会話のきっかけを提示するアイデアを考案した。
具体的には、ドリンクカップに装着するスリーブをオリジナルで作成し、そのスリーブを付けている人には話しかけて良いことを可視化した。話しかけられたくないタイミングでは、スリーブに付箋を貼るなどして作業に集中していることを示す。作成したスリーブには「あなたを動物に例えると?」と質問欄がデザインされており、ここに書き込むことで会話のきっかけとして活用できる。
ドリンクのカップにスリーブを付けただけで、本当に対面でのコミュニケーションは生まれるのだろうか。同チームが実施した社内検証の結果、検証参加者の81%が「話しかけやすくなった」と回答した。また、51%が「用意された話題(あなたを動物に例えると?)が話のきっかけになった」と回答した。「会話のきっかけにならなかった」と回答した人でも、そのうち78%は「話題次第では会話のきっかけになる」と回答した。これらの結果から、スリーブを活用したコミュニケーションの創出には効果がありそうだ。
さらに、社内検証後のアンケート調査には「この企画がきっかけで会話できた人もいる」「チームがいつもより話しかけやすい雰囲気だったような気がする」「コミュニケーションのきっかけ作りとなり、出社日の良さを改めて感じた」といった声が参加者から寄せられたという。
一方で、「付箋は次の出社日までに無くしてしまいそう」「その人の部署や業務などプロフィールも分かればよりコミュニケーションが取りやすくなるのでは」など、今後の改善につながる意見も出されたとのことだ。
Talk to Meのリーダーを務めた伊藤有佐氏は「本業と並行しながら多くの時間を使って準備を進めてきたので、そのパッションが会場・視聴者に伝わったと思う。企画を通じて『"はたらく"に歓びを』について真剣に考えたことで、当社がお客様に届ける価値まで考えられるようになった」と振り返った。
その他にも、チームメンバーからは「社内実践を通じて、先輩や上司とも仲良くなれたと感じる。6人全員で会議をする時間がなかなか取れず、情報共有がうまくいかずに手戻りが発生する場面もあった。円滑な進行管理が今後の課題」などの意見も挙げられた。
なお、新入社員研修としてのフォローは「Yolo Pitch 2024」で一区切りとなるが、今回惜しくも優勝を逃したチームも含めて、企画継続の意思があればリコーはその挑戦をサポートするという。
企画・営業・顧客をつなぐバーチャルUX共創空間
はたよろ創室賞には2つのチームが選ばれた。まず1チーム目は、新商品の開発時に顧客の潜在ニーズを探るアイデアを考案した「Uni-Ty」。同チームは一つの目標に向かって誰かと一緒に共創する充足感を「"はたらく"歓び」と定め、多角的な視点でアイデアを広げることで創造力の発揮を促した。
商品企画の場面では、ユーザーの使用環境が分からないこと、ユーザーの潜在ニーズがつかみにくいこと、企画部署だけに閉じたアイデア創出になってしまい共創しにくいことが課題となる。そこでUni-Tyは、企画、営業、顧客の三者のつながりを強化し、顧客視点での商品企画に資するアイデアを考案したという。
その具体的なアイデアが、バーチャルUX(User Experience:顧客体験)共創空間。ARやVRを使って顧客理解を促し、共創につなげるという。商品の使用感をAR・VRでユーザーに体験してもらうことで、よりリアルな顧客の要望や感想を企画にフィードバック可能だ。
これには、メタバース空間制作サービス「リコーめちゃバース」、VR空間再現サービス「バーチャルワークプレイス」、360度カメラによるVR空間「Theta 360 biz」など既存サービスを活用する。例えば、VRでリコージャパンの共創空間「RICOH Smart & Innovation Center」を再現すれば、現地へ行かずとも施設に展示される同社のソリューションを体験できるようになる。
AR・VR技術を活用して企画、営業、顧客の三者がつながることで、企画は顧客の具体的な声やニーズを次の商品に反映できるようになる。顧客は実際の商品をイメージしながら的確な説明を受けられ、実際のユースケースを想定できる。営業はユーザーに商品理解を促すとともに、強固な関係性を構築できる。まさに「三方良し」を実現し得る手法として今後の発展が期待できる。
業務記録にとどまらず新たな価値創出につなげる「交換日報」
はたよろ創室賞2チーム目は、技術系や設計開発系の組織向けに「交換日報」を提案した無尽着想。交換日報は、単に日々の業務を自主的に記録する従来の日報ではなく、記入内容をメンバー同士で交換する仕組みとした。他者の考えを読むことで、半強制的に相互にポジティブな視点を獲得することを目指す。
また、業務記録ではなく、AIによる「今日はどこまで進める?」「会議のハイライトはどの瞬間だった?」といった問いかけに返答することで、コーチングのように目標値設定うや内省をサポートする。
無尽着想は交換日報により、既存の事業領域をコアにして新しい価値を生むアイデアの創出を狙う。また、社会や顧客の課題を解決する手ごたえを実感することで、創造性発揮による「"はたらく"歓び」を実現する。
無尽着想が社内実践を行った結果、交換日報の活用により考える量と頻度が増え、即効性のあるアイデアや長期的にチームに重要となるアイデアが膨大に得られることが分かったという。その一方で、1回のフィードバックだけではアイデアはブラッシュアップされず、具体的な段階までは届かないことも明らかになった。アイデアが具体化されるまでサポートする機能が求められる。
また、他のメンバーの日報を読むことで相互理解が深まり、モヤモヤしたレベルの課題感の共有など副次的な効果も期待できることが分かったそうだ。