トランプ・米国が世界に波紋を投げかける中    今こそ新しい国のカタチをつくる時!

世界をつなぐという使命を

 ウクライナ戦争の停戦問題が暗礁に乗り上げた。今後、世界はどう動くのか──。

 2月28日に行われた米トランプ大統領とウクライナ・ゼレンスキー大統領との首脳会談が決裂し、世界全体に暗い影を落としている。

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 トランプ氏は昨年の大統領選以来、「大統領に再選されたら直ちに停戦を実現させる」と豪語していただけに、今後の停戦協議も流動的で先行き不透明。トランプ氏自身の〝威光〟にもクエスチョンマークがつき始めた。

 今回の両氏の決裂には、二つの反応がある。

 ゼレンスキー氏が言うように、「侵略したのはロシアで、多くの市民が殺され、子供も連れ去られた」ということで、英国、ドイツ、フランスを中心とした欧州勢もウクライナへの支援を堂々と言明。

 一方、米国内も真っ二つに分かれる。政権を握る共和党内では、ウクライナへの武器支援を停止すべきという強硬論も強まる。他方、「大国としての米国の品位を傷つけた」という民主党関係者の反応もある。

 昨年の大統領選で、共和党候補のトランプ氏と民主党候補のハリス氏とは、世論調査でもほぼ半々。まったくの接戦で、米国内はまさに分断・対立の真っ只中にある。

 今のトランプ・米国はロシアのプーチン寄りではないか? という危惧もあり、もしウクライナの東部4州をロシア領に認めるような形で停戦協議が行われるとすれば、これからの世界秩序づくりにも重大な影響を及ぼしかねない。

 こうした先行き不透明さに株式市場もすぐさま反応。ニューヨーク市場や東京市場も株価の下げ局面を迎えている。さらにトランプ政権の追加関税策が世界貿易を縮小させ、ひいては世界経済を冷やすという見通しが強まっている。

 トランプ大統領が今後どう反応してくるのか。ゼレンスキー氏の「米政府の支援には感謝している。今後ともトランプ大統領とは協議したい」という言葉に米政府は今後、どう対応してくるのか。

 こういう状況下、日本に求められる使命と役割も重い。同じ自由主義、民主主義、そして、法の支配を基盤に生きる国同士として、EU(欧州連合)やASEAN(東南アジア諸国連合)、さらにはカナダ、豪州、ニュージーランドなどとも手をつなぎ、価値観の違いを超えて、世界をつなぐという使命と役割である。

米中対立の中で

 戦後しばらくは、米国を盟主とする自由主義・民主主義陣営(西側)と旧ソ連・中国を中心とする社会主義陣営(東側)の対立が続いた。

 旧ソ連が1991年に崩壊し、ウクライナやバルト三国、さらにはウズベキスタン、カザフスタンなど、中央アジア各国が独立。その中で、今、米中対立が起きている。

 米中双方とも経済は成長し、米国はGDP(国内総生産)で世界一、中国は二位である。その米中両国とも、国内では経済格差が広がり、摩擦や対立も起きている。

「共産主義や社会主義下では、中間層はできない」という指摘がある。

 中国は今、不動産不況が深刻で、若い世代の失業も深刻な社会問題となっている。「中国は国営企業を中心に、何とか経済を立て直そうとしているけれども、これはうまくいかない」という声もある。

 社会主義市場経済、つまり、国家資本主義ではなく、公益資本主義に変えるという模索も始まっていると言われる。

 自分の国の統治は自分の力でしっかりやり抜く―─。

 これは国の国力の源泉となり、経済運営はもちろん、外交・安全保障にも当てはまる。

 国の基本軸をどうつくり上げていくかという点で、『国のカタチ』である憲法を自分でつくり上げる、そして、国民は日本の歴史をしっかり学び、自分たちの国が危機を迎えた時に、「日本を守る」という気持ちで生きていくことが大事ということである。

 トランプ氏が「米国は世界の警察官ではない」として、欧州や日本に対し、防衛・安全保障面での協力にも限界があると言明していることは、その意味で筋道が立っている。そして、経済面で言えば、企業は何のためにあるのか? という根本論議である。

「会社は株主のものだということを今の会社法はあまりにも強調しすぎている」という指摘もある。

 利益を出し、税金や配当を払い、残ったものを剰余金(内部留保)として資本に組み入れ、その中から、株主への配当や自社株購入の原資にするということは、昔はできなかった。

 今、賃金を上げ、個人消費を増やし、国内景気を活性化させるという動きが続く。株主だけでなく、従業員、顧客、そして地域社会など、全てのステークホルダーを念頭に「会社法を、しっかりと国民を守るための会社法に変えると。ファンドを守るためではなく、国民を守るための会社法にしよう」と提案する動きも現れている。

 日本も国の基本軸をしっかり構築する時を迎えている。

東レ会長・日覺昭廣の公益資本主義論 『人を大切にして育て、良質な製品を適正価格で』