「生成AI活用にフォーカスしている日本企業は多いが、分析AIの礎となるデータを活用できる環境が整っていなければ、価値創造や収益性につながらない」と指摘するのは、コスモエネルギーホールディングス 常務執行役員 CDOのルゾンカ典子氏だ。では、環境を整え、データドリブン経営につなげるためにはどうすればよいのか。
2月18日~20日に開催された「TECH+ EXPO 2025 Winter for データ活用 データを知恵へと昇華させるために」に同氏が登壇。生成AI時代に、データ活用の環境を整え、データドリブン経営を実現するために必要なことを説いた。
データ活用重視のビジネス戦略を策定し、DX活動の好循環を構築する
講演冒頭でルゾンカ氏は「データ活用の重要性はビジネス戦略の中で語られているべき」だと述べ、コスモエネルギーホールディングスが策定している「Cosmo's Vision House」を紹介した。このビジョンハウスでは、DX戦略においてはデジタル・ケイパビリティを上げることが重要であり、そのためにデータ活用基盤の構築が必要であることが示されている。ここで言う基盤の構築とは、システム上の話だけではない。
「全員がデータ活用できるような知識やスキルを身に付けることも重要です。仕事をしている皆さんのレディネスを上げ、分析しやすい環境をつくることも、構築すべき基盤なのです」(ルゾンカ氏)
こうした戦略を実践に活かすために重要なのが、DX活動の好循環サイクルを構築することだ。同社では、人材育成からコミュニティの創出、そしてDX案件の実現支援という順で循環するサイクルを構築している。具体的には、全社員へのアンケートで誰が何に困っているのかを可視化し、次にリテラシー向上のためのDX研修を実施、そこでフォーラムを構築して成功事例の情報を共有、そして現場での実装支援というサイクルだ。
「好循環をつくることで、DXのプロジェクトは一気にスピードが上がります」(ルゾンカ氏)
データエンジニアリングチームを構築
次に考えるべきは、データエンジニアリングチームを構築することだ。プロジェクトの開始時だけでなく稼働中も伴走し、全社をサポートする専門のチームだが、ITとビジネスの間に位置するため、両者の基礎的な知識が必須となる。そしてこのチームには長期的な戦略も必要だが、完璧を求めていると動けなくなる。長期的な目線を持ったうえで「今はこうしておこう」という短期的な課題解決を考えて進めていくことが重要なのだ。
データガバナンスの文化を浸透させることもこのチームの役割である。ルールを整備し社内トレーニングを実施するほか、ビジネスのデータオーナーにコンサルティングも行っていく。「データエンジニアリングチームが、社内コンサルのようなかたちでビジネスオーナーとコミュニケーションをとれるようになれば、会社全体が上手くいく」とルゾンカ氏は説明する。
データ整備については、全てのデータをきれいにしてから進めようとすれば時間がかかる。まず部分的にきれいにして、そこから広げていくことを考えるべきだ。ただしモニタリングと最適化は必要である。ここだけはきれいという確実な部分をデータエンジニアリングチームがしっかりモニタリングし、徹底的にきれいな状態で運営できるかたちを保つ。そしてデータが貯まってきたら、重要なデータを選り分けてシステム負荷を軽減させることも必要になる。
「データエンジニアリングを社内できちんとコントロールできること、これが生成AIの時代におけるデータドリブン経営の肝になります」(ルゾンカ氏)
サンドボックスとBIプラットフォームの活用で市民開発を促進
サンドボックスの活用も重要だ。ルゾンカ氏は、サンドボックスはデータを自由に扱える場、つまり「遊べる場」だと表現する。データに何が入っていてどういう癖があるのかをビジネス部門が実感できる場であるし、データが使えるかどうかを試す場にもなる。それゆえ、データサイエンティストやデータエンジニアリングチームがこういう場をつくってビジネス側に権限を委譲し、サポートする体制も整えなければならない。そうすることで市民開発を促進でき、ビジネスの最適化につなげることができるのだ。
サンドボックスツールの選択にあたっては、セキュリティの強固さに加え、自由度も重要な要素だ。ツールによってデータを簡単に加工できるものもあるし、生成AI環境で大きなモデルをつくってビジネスにつぎ込むことができるものもある。
「サンドボックスからそのまま大きなプロジェクトにつながることもあります。将来性を見極め、チームと一緒に環境をつくっていくことがマネジメントの役割です」(ルゾンカ氏)
市民開発を促進する目的で、さらにデータに触れる場として同社が実装しているのが、ビジネスインテリジェンス(BI)のプラットフォームだ。AI時代の今は、各部署が必要なデータをそれぞれ整備し必要に応じてツールを導入するといったやり方では遅すぎる。BIツールによってオートメーション化し、全社で共通のデータを共有すれば時間の効率化を測れるのだ。
同社ではこれをアジャイルに動かすため、最初に可視化を実現するBIツールを導入している。そこからどんどんと市民開発を進めるわけだが、実はその裏でITチームとデータエンジニアリングチームがデータ整備を行っているという。市民開発を促進しつつ、データの整備にかかる時間を短縮しているのだ。
「ITとエンジニアリングチームの負担は大きくなりますが、ここでしっかりとつくり込んだ自作のレポート、KPIがそのままきちんと使えるようになれば、各部署がしっかりオーナーシップを持てるようになります」(ルゾンカ氏)
データオーケストレーションで全データを連携し、ビジネスを最適化
BIプラットフォームを導入しても、データが部署ごとにサイロ化されていては意味がない。そこで必要になるのがデータオーケストレーションだ。ルゾンカ氏は「生成AI、分析AIをフル活用してビジネスで結果を出すために、今もっとも必要なのがデータオーケストレーション」だと指摘する。
同社ではデータオーケストレーション実現のため、ロボットやドローンからのデータや設備管理システムのデータ、エンジニアリングドキュメント、帳票システム、入出荷データなど全てのデータを連携させる、デジタルツインによるデータ統合基盤をつくり始めている。こうした基盤の構築は、データを活用するビジネスの現場がオーナーシップを持って進めるべきだが、ITやデータエンジニアリングが適切にサポートすることも必要だ。実際に同社ではIT、データエンジニアリングのメンバーがサポートに入り、PMO(Project Management Office)も協力するなど、最初から皆が連携して動いたためうまくいったそうだ。
「こういった部分が整ってくると、社員のモチベーションが上がり、スピードもアップします。それがビジネスインパクトを与えられるデータドリブン経営につながるのです」(ルゾンカ氏)
最終段階はDataOpsのアプローチ
ここまでのことを実現させれば、DataOpsのアプローチが可能になってくる。ルゾンカ氏は「データをビジネスフローに埋め込み、データドリブン経営をビジネスのDNAにすることがもっとも重要」だと話す。必要なのは、さまざまな部署から来るデータの関連付け(Contextualization)をしっかりと行って、どこの部署でもデータを活用できるようにすることだ。
オペレーションにデータを埋め込めば、誰もが高度な分析やビジネス解析を日々の業務の中で簡単に行えるようになる。つまりBAU(Business as usual)化が可能になり、分析AIや生成AIもシームレスに活用できる。こうなれば、開発と実装はスピードアップする。さらに全員がデータを理解したうえで動けるようになるため、ERPの刷新などのプロジェクトの成功確率も向上する。つまりデータドリブン経営によるリスクの回避も可能になるというわけだ。
「DataOpsの考え方で進めていけば、ビジネスを動かす皆さんが自信を持って前に進めるようになります。それがデータドリブン経営の礎なのです」(ルゾンカ氏)
