セブン‐イレブン・ジャパンは、Google Cloud上に生成AI基盤「セブン-イレブン AI ライブラリー」を構築し、全社員による活用に乗り出している。
Google Cloudが3月13日に開催したイベント「Google Cloud AI Agent Summit ’25 Spring」において、セブン&アイ・ホールディングス/セブン‐イレブン・ジャパン 執行役員 最高情報責任者 (CIO) 兼 グループ DX 本部長 執行役員 システム本部長の西村出氏が同社の生成AI活用について講演を行った。
同社は生成AIを活用する上でどのような課題に直面し、それをどうやって乗り越えたのか。また、どんな業務に生成AIを活用しているのだろうか。西村氏の講演から、同社の生成AI活用の実態を明らかにしていこう。
創業以来、浸透しているデータドリブン経営
セブン‐イレブンでは、全国2万1000店舗で消費者に必要な商品を届けるため、加盟店の経営を支えるため、さまざまなシステムを活用している。
消費者向けにはスマホアプリ、7NOW(スマホで注文を受けて最短20分で商品を届けるサービス)を提供している。また、加盟店には次世代店舗システム、AI発注、セルフレジなどを提供している。共同配送センターや製造工場では物流管理システムや受発注管理システムを提供しており、本部では会計システムや建築システムを利用している。
こうしたシステムで生成された大量のデータはすべて活用されている。西村氏は「当社では翌朝には売り上げの詳細が見られるようになっており、しかも社長を含めすべての従業が同じデータを見られる。このように、もともとデータドリブンで、データを活用する風土があり、創業以来のDNAとして培われている」と語った。
データ利活用基盤を構築するも、データの民主化には至らず
セブン‐イレブンのデータ活用を支えているのが、データ利活用基盤「セブンセントラル」だ。
店舗システム、基幹システム、Salesforceなどからデータを収集し、Google Cloud上のBig QueryやCloud Spannerなどでデータを加工している。そのデータ量は1.2PBにも上るとのことだ。加工したデータは、BIツールやアプリを介して、従業員、加盟店、取引先が使える。
西村氏は「これまで翌日の朝までかかっていたところ、北海道から沖縄まで各地のデータが1分で反映される。実にすごいことだと思っている」と語った。
「セブンセントラル」は守りのデータ活用、攻めのデータ活用、イノベーションとさまざまな業務に貢献している。例えば、「セブンセントラル」によりリアルタイムでのデータ活用か可能になったことで、コンビニの宅配サービス「7MNOW」という荒R棚ビジネスが創出された。
しかし、西村氏は「高性能なデータ利活用基盤を整えたが、ビジネスの意思決定に使える形にデータを加工・分析でいる社員は限られており、データの民主化が実現されなかった」と、データ活用における課題を示した。
進まないデータの民主化を生成AIで解消
何とか全社員がデータを使いこなす状態にしたいと考えたところ、白羽の矢が立ったのが生成AIだ。
データを整備し、AIもそろえたが、全社で活用するにはリスキリング必要だが、それには負荷もハードルが高い。しかし、「生成のAIに登場によって、データ活用のハードルが劇的に下がると考えた」と西村氏。
そこで、同社では全社員が生成AIを使いこなすための取り組みを開始。どのベンダーの提案も実務経験に基づいていないことから、早期から自社の目的で使い倒すよう、舵を切ったという。
「ハルシネーションは気になったが、社内では使い切るために、いいことを見るようにした」(西村氏)
2023年11月から役職者およびシステム本部員の活用を開始し、翌年の9月には他本部でも利用が広がった。西村氏によると、生成AIを使ってもらうために、UIの工夫、設定などを工夫したそうだ。
生成AI活用基盤「セブン-イレブン AI ライブラリー」を構築
そして、同社はGoogle Cloud上に生成AI基盤「セブン-イレブン AI ライブラリー」を構築した。同基盤は、「セブンセントラル」をはじめとする社内外のデータと適切なAIをセキュアな環境下で安全に接続している。
現在、さまざまな生成AIが提供されているが、同社では適切に評価を行ったうえで、GoogleのGeminiを中心に、1つのプロンプトから複数の生成AIを利用することができる。データもRAGを活用することで、自社のデータ、SNSのデータ、GISのデータなどをミックスして分析が行える。
西村氏は生成AIの活用例として、「商品開発」と「リスク分析のレポート生成」「IR資料の要約・比較」を紹介した。
例えば、商品開発においては、「分析からのコンセプト検討」「商品開発」「商品情報の伝達」のプロセスで生成AIが役に立つ。
分析からのコンセプト検討においては、生成AIがSNSの声を分析して改善が提案され、それを反映させる活用が始まっている。また、商品開発においては商品化以前のイメージを自動生成する。「マルチモーダルに問いかけるとイメージが生成される。イメージを見ると見ないでは、開発のスピード、確認のレベルが異なる」と西村氏。
さらに、加盟店に商品情報を伝達する際、生成AIが企画書から正確に転記ミスもなく商品情報を生成するので、迅速に情報を伝えることができる。
このように、SQLを書かなくても、誰でも生成AIによってデータを抽出できるウようにすることで、「データの民主化」を実現している。
企業として生成AIを使いこなすうえで直面した課題
もっとも、こうした生成AIの活用がすんなり進んだわけではない。西村氏は生成AIが身近になってきたと感じる一方で、業務において使いこなすには工夫が必要と指摘した。
具体的には、「UIと操作性」「アウトプットの信頼性」「LLMごとの特徴」「最新プロンプトの提供」において工夫が必要だという。「AIはポンと私だけでは使えない」と西村氏は話した。
例えば、UIについては、発想や目的を絞って、コマンドプロンプト風のUIやできることを限定したスマホアプリ風のUIを提供することで、利用を促している。
また、プロンプトについては「限界までやろうと考えて、いろいろな要素を組み込んでいる」と西村氏。学術論文などを参照しながら、要望にできる限り応えるため、プロンプトの限界に挑戦しているそうだ。
西村氏は、「Googleのフルマネージドサービスを活用してインフラの呪縛から解き放たれ、AIの活用を進めていく。人と人が話すように、データを活用できる状態を作り出す」と語った。
同社の企業理念は「明日の笑顔を 共に創る」だが、西村氏は「これはIT部門にとっても目指す姿。使いやすいシステムじゃないと笑顔でいられない。最新の技術を活用して、明日の笑顔をともにつくることに貢献したい」と講演を締めくくった。