第一生命経済研究所 主席エコノミスト・熊野英生が解説「石破政権を待ち受ける難関」

 石川県小松市の安宅住吉神社には、難関突破のお守りがある。この神社は、源義経が頼朝の追手を逃れて、奥州に落ちのびようとするとき、通過した。石破茂首相は、「安宅の関」の如く、日米首脳会談をうまく切り抜けた。トランプ関税が各国に広く課されなければ、春闘の動向よりも前向きな成果を導けるだろう。春闘の山場は、3月半ばの集中回答日にやって来る。昨年度の5.10%(連合最終集計)の賃上げ率にどこまで近づけるだろうか。

 難関は、その直後にもある。2025年度の政府予算案を国会で通過できるかである(3月4日、予算案は衆院を通過)。野党は、予算案の具体的な修正案を提示して、与党に修正を飲ませようとしている。過去、当初予算案が修正されたことは、戦後4例しかない。もしも、予算案が通らなければ、場合によっては衆議院の解散という選択肢もあり得る。選挙の予想はできないとしても、春闘の結果が良ければ、日米首脳会談の無事通過と併せて、内閣支持率を引き上げて、与党有利の環境をつくっていける。

 実のところ、石破首相の難関はもっと別にもある。4~10月には大阪・関西万博が開催される。事前の評判は芳しくない。「始まれば、それなりに人気は高まるだろう」という楽観論はよく耳にする。しかし、期待が大きく裏切られると、公費負担の増加が批判されることになる。想定入場者数2820万人をクリアできるのか。

 この期間と重なるのは、7月の参議院選挙である。7月中旬が投票日となる観測がある。前哨戦となる東京都議選(6月22日投票日)と併せて、石破首相の求心力が試される。おそらく、選挙は、石破首相が春闘などでどこまで成果を得られるかにかかっている。日米首脳会談を無事通過できたことは、選挙にもプラスに働くだろう。

 この1年間、G7各国の首脳が交代(あるいは交代予定)する事態が相次いだ。各国でトップが交代する背景には、物価上昇に伴う国民の不満がある。日本の消費者物価は、24年12月の全国平均で前年比+3.4%、25年1月中旬の東京都区部同+33.4%と跳ね上がっている。ドル円レートも前年比でまだ円安なので、当面、輸入物価も上がっていくだろう。石破政権にとっても、円安が進めばそれは選挙に不利な要因になり得る。

 不幸中の幸いであるが、トランプ関税は対中国の10%に止まり、カナダ・メキシコは協議中である。各種トランプ政策がインフレ圧力を高めるシナリオは今のところ限定的である。石破政権が夏の参院選というクライマックスを乗り切れるかどうかの隠れた要因として、物価上昇圧力を日銀と協力しながら減圧していくことも挙げられる。筆者は、次の利上げは7月とみているが、それまでに1ドル=160円を目指すような円安の再燃が起きる可能性はある。