
2月に入り、2025年度予算案の修正協議が本格化しても、加藤勝信財務相の〝存在〟が見えてこない。日本維新の会は政府・与党に対し教育無償化や社会保険料の引き下げを要求。国民民主党と与党は所得税の非課税枠「年収103万円の壁」を巡り、昨年末に「178万円を目指す」と幹事長同士の合意文書に明記した。いずれも歳出増を伴う政策で財源確保が最大の焦点だが、財政当局トップにもかかわらず、首相官邸や与野党協議との調整過程で加藤氏の存在感は薄い。
2月7日の閣議後会見で、予算案修正を踏まえた省庁別審査について加藤氏は「これまでにない取り組みで、国民に理解を深めてもらう有意義なものだ」と評価。25年度予算案について「賃上げと投資が牽引する成長型経済への移行を確実なものとし、わが国の社会が直面する構造的な変化に的確に対応するために不可欠だ」と強調したが、与野党協議の行方に翻弄される財務省職員は、加藤氏の対応を「淡々としすぎ」(主計局中堅)とため息をつく。
日銀の政策転換で金利は今後も上昇が続く見通しで、膨大な国債発行で政策経費を賄ってきたこれまでの放漫財政のツケが日本経済を直撃するリスクは高まっている。にもかかわらず、野党からの歳出圧力に関し、政府・与党の中で財務相である加藤氏が率先して財政規律の重要性を訴えないままでは怠慢というほかないだろう。
一方、9日、都内で大阪・関西万博のカウントダウンイベントに参加した加藤氏は、工事の遅延に関し「詳細は把握していないが(開幕に間に合うよう)努力はしてもらっている」などと参加者らと軽妙なやり取りを見せたが、財務省内には「大臣に発信してほしいのはそこじゃない」(幹部)とあきれる声も。
政府は1月、長年財政健全化の目標として掲げてきた25年度の国と地方のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標を断念した。財政環境の悪化に歯止めをかけるのが加藤氏の〝本業〟のはずだが、その気配さえないのはなぜなのだろうか。