学校では、ICT支援員が教員のICT活用の支援を行っている。GIGAスクール構想の開始に伴い、ICT支援員に対する期待は高まっている。

日本規格協会(JSA)は今年1月、2021年に発行した「ICT支援員サービスに関する規格」が、GIGAスクール構想における1人1台端末の普及後に一定の役割を果たしたことを受け、改正を発表した。

そこで、同規格の改正に協力したウチダ人材開発センタの代表取締役社長の冨田伸一郎氏、営業本部 人材サービス1部 ICT支援1課 課長の大森智加子氏に、ICT支援員の業務内容や規格改正のポイントについて聞いた。

  • 左からウチダ人材開発センタの営業本部 人材サービス1部 ICT支援1課 課長の大森智加子氏、代表取締役社長の冨田伸一郎氏

    左からウチダ人材開発センタの営業本部 人材サービス1部 ICT支援1課 課長の大森智加子氏、代表取締役社長の冨田伸一郎氏

ICT支援員ってどんな仕事?

ICT支援員とは、学校における教員のICT活用(授業、校務、教員研修などの場面)をサポートすることにより、ICTを活用した授業などを教員がスムーズに行うための支援を行う外部職員だ。

主な業務として、日々のメンテナンスを行う「環境整備」、校内研修の企画・実施を進める「校内研修」、ICT活用事例の提案を行う「授業支援」、学校のホームページ作成を支援する「校務支援」の4点に加え、その業務を報告書としてまとめて学校や教育委員会に提出する「見える化」を行っている。

具体的には「機器・ソフトウェアの設定や操作、説明」「機器などの簡単なメンテナンス」「機器・ソフトウェアや教材などの紹介と活用の助言」「情報モラルに関する教材や事例等の紹介と活用の助言」「デジタル教材作成などの支援」などに取り組んでいる。

  • ICT支援員の業務内容

    ICT支援員の業務内容

ICT支援員は「ICTの効果的な活用」「校務の情報化」「情報活用能力の育成」の3点を推進するために設置が進められており、地方公共団体で配置されているICT支援員の数はウチダ人材開発センタによると、2024年度末の時点で約2500人。

「4校に1人を設置する」という文科省の目標には届いていないものの、2020年度からの「GIGAスクール構想」の実施により、ICT支援員は機器の操作やトラブル対応、研修会の企画・実施などで教職員をサポートし、教育のICT化に大きく貢献している。

ウチダ人材開発センタでも現在、全国で約600名のICT支援員が稼働している。内田洋行グループとして、2024年には川崎市、川口市、豊中市、尼崎市、吹田市などにICT支援員を配置し、東京都「TOKYO教育DX推進校におけるデータ活用研究支援」や「都立学校ICT運用コーディネート」などの事業も支援している。

冨田氏曰く、近年では退職した元エンジニアからの応募なども多く、より専門的で信頼感のあるICT支援員が増えてきているという。一方で、「教職員や児童生徒とのコミュニケーション能力も重要です。自治体に配属される前には、ICT環境だけでなく、支援体制やICT支援員のふるまいや気遣いについても研修を行っています」と述べている。

  • ICT支援員の業務内容を説明する冨田氏

    ICT支援員の業務内容を説明する冨田氏

規格改正の背景

このようにICT支援員の活動が求められている一方で、「ICT支援員の業務内容に変化が起きている」と大森氏は語る。

「教育現場では、導入されたタブレット端末でのアカウント管理や年次更新業務の増加、故障トラブルの多様化などにより、ICT支援員の業務負荷の的確なマネジメントも重要になってきています」(大森氏)

  • ICT支援員の設置における課題について語る大森氏

    ICT支援員の設置における課題について語る大森氏

授業においては、プログラミング教育、学習eポータルや教育ダッシュボードのデータ入力、文部科学省のCBTシステム(MEXCBT)への対応などが求められているのに加え、生成AIの活用など、2021年のICT支援員サービスの規格制定時には想定していなかった新たな業務支援のニーズが生じている。

実際にウチダ人材開発センタが開催する全国の「ICT支援員ミーティング」では、現場からの切実な声が寄せられているという。

このような背景を受け、ICT支援員の業務に関する課題や現場の声を反映し、NEXT GIGAでのICT支援員サービスの品質標準化と支援員の活躍を後押しすることを目的として、日本規格協会(JSA)は「ICT支援員サービスに関する規格」の改正を発表した。

今回発表された改正では、新たにNEXT GIGAに向けてICT支援員が求められる教育データ活用やGIGA端末管理、生成AIの活用など、最先端のICT授業の高度化に対応するための内容が盛り込まれているという。

規格改正の概要

主にICT支援員の業務(ICT活用支援サービス)と要件(知識・スキル、能力開発)などを中心に改正が行われており、概要は以下の通りだ。

(1)ICT活用支援サービスに関する用語の定義の見直し(ICT、ICT活用支援サービス、ICT支援員、管理責任者など)

(2)ICT支援員によって提供されるICT活用支援サービスの内容を追加

<ICT環境の整備>

  • 学校で利用しているOSや授業支援システム等のアカウント管理の支援
  • ICT機器・ソフトウェア・クラウドサービスの活用に必要な年度更新作業の支援(学習eポータル、各種アプリケーションを含む)
  • 端末管理台帳の作成・更新や台数確認等のタブレット端末管理支援

<教職員間の情報共有>
教職員間の情報共有や協同作業を目的としたグループウェア・クラウドサービスの操作方法についての活用支援など

(3)ICT支援員について(知識・スキル、能力開発)を追加

  • ICTの効果的な活用方法(生成AI・情報活用能力を含む)
  • 教育用アプリケーション(プログラミング教材を含む)の概要
  • 端末及びネットワーク障害トラブルの対応(一次切り分け)
  • 教育の情報化に関する文部科学省の最新情報(ガイドラインなど)

(4)管理責任者について要件や業務内容の見直し

  • ICT活用支援サービス事業者と教育委員会などとの間の契約に基づき、ICT支援員を積極的に支援し、ICT支援員業務全体を円滑に進めることを目的として業務を行うなど

今回の改正によって、教育ICT化に取り組む教育関係者、ICT活用支援サービスを提供する事業者がこの規格を指針として活用し、教育現場の一線で教職員を支えるICT支援員の重要性が再認識されることで、学校現場でのICT活用が推進されることが期待されているという。

  • 改正された「ICT支援員サービスに関する規格」のポイント

    改正された「ICT支援員サービスに関する規格」のポイント

最後に、大森氏は以下のように支援員の業務のやりがいを述べた。

「ICT支援員の最大のやりがいは『ありがとう』が飛び交う現場で働けるということです。ICTが必要な現場で生徒や先生、保護者の方の人生を変えられるくらいのサポートを自分ができるということは何事にも代えがたい喜びだと思います」(大森氏)