東日本電信電話(以下、NTT東日本)は1月21日、地域防災に関する新たな仕組みを研究する組織として「防災研究所」を4月に設置することを発表し、記者説明会を開催した。

澁谷社長「防災は社長着任以来、最もやりたかったこと」

説明会の冒頭、代表取締役社長の澁谷直樹氏が登壇し、研究所新設に向けた思いを語った。澁谷氏はネットワークをはじめ通信設備のエンジニアとして信頼性設計に携わりキャリアを積んだほか、2012年3月の東日本大震災発生時には福島支店長として、約1200人の社員を率いて現場の復興を支えた。

こうした経験が背景となっているのだろう、澁谷氏は「自分がこれまで設計してきたネットワークがズタズタになる経験をした。もっとできることがあったのではないか、もっと現地・現場・現物にそくしたネットワークを構築できたのではないか、そういった思いを抱えてきた。NTT東日本の社長に就任して以来、最もやりたかった仕事の一つが防災だ」と力強く語った。

  • NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏

    NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏

さらに同氏は「防災に取り組む以上は、企業として商売など甘い気持ちで取り組んではいけない。NTT法の中でも議論されているように、最終保障義務を法律の中で定められている当社だからこそ、地域の安心安全を守り続ける使命に取り組む意思を表明するために研究所を設置する」とも話していた。

こうした理由から、防災研究所は中立的な立場を取るとしており、NTT東日本グループ内に子会社を新設して防災に取り組むのではなく、NTT東日本直属の社長直下組織として設置する。グループ各社が保有する人材や設備などのアセット、地域通信事業で培った災害対応のノウハウ、各地域とのリレーションを活用して防災研究を推進する。

防災研究所は今後、災害対策のデータドリブン化に取り組むという。その際には、NTT東日本が各地域に根差して強化してきた現場およびフィールドでの実践ノウハウを大いに活用する計画だ。

「各地域のどこに弱点があるのか平時からデータ収集し、AIで解析することで災害発生時の対応を効率化していく。現場では発災時の避難訓練や人材育成にも取り組む。現場に出ていくスタイルの新しい実践型の防災研究を進める」(澁谷氏)

  • NTT東日本は防災研究所を4月に設立する

    NTT東日本は防災研究所を4月に設立する

防災研究所の最大のテーマは「いのちをまもる」研究

NTT東日本が実施した調査の結果によると、「避難所を開設してもすぐに避難する住民は少ない」「要配慮者(災害時に配慮や支援を必要とする方)の安否が分からない」など、避難に関する課題が多く挙げられたそうだ。避難所本部の運営や地域連携などよりも、その課題の影響は大きい。

そこで、防災研究所は研究テーマとして「いのちをまもる」を設定した。具体的には、逃げ遅れない避難情報発令、災害対応業務の最適化、要配慮者の支援を可能とする仕組みづくりに関する研究に、それぞれ取り組む。

住民と地域を支える自治体や民間企業を含めた各ステークホルダーをつなぐことで、「いのちをまもる」避難誘導プロセスを地域と伴走し、地域社会への実装までサポートする。発災時に、自治体はデータに基づく適切な避難指示と避難所運営を進めると同時に、民間企業や公共団体などのステークホルダーに支援を要請する。要請を受けたステークホルダーは自治体と連携しながら安否確認や避難誘導の支援にあたる。

この一連のサイクルのプロトタイプは、すでに2024年12月より山形県置賜地域にある3市5町の自治体職員向けに提供を開始している。職員からはおおよそ前向きなフィードバックが得られているという。

防災研究所の当面の主な研究テーマは、「データを活用した避難状況予測による避難情報発令や避難行動の支援に関する研究」「情報の整理による自治体本部運営の最適化の研究」「要配慮者の支援を可能とする仕組みづくりに関する研究」の3つだ。以下に各テーマの概要を紹介する。

  • 研究テーマの概要

    研究テーマの概要

研究テーマ1:データを活用した避難状況予測による避難情報発令や避難行動の支援に関する研究

地域活動は多様であり、オフィスへの出勤や旅行などで普段はその地域に住んでいない人が被災する可能性もある。実際に、能登半島地震の発生時は年始の帰省時期とも重なり、普段は生活していない人が被災するなど状況の把握が困難となった例もある。また、発災時の逃げ遅れや取り残されも懸念される。

こうした課題に対し、平時から収集する人流データや交通データ、地域が持つオープンデータを組み合わせることで地域活動を可視化し、さらには過去の被災データなども用いることで、被災対象者や避難状況を予測可能な仕組みを構築するという。ここではAIなども活用するそうだ。

  • データを活用した避難支援

    データを活用した避難支援

研究テーマ2:情報の整理による自治体本部運営の最適化の研究

発災時には自治体職員らが避難所の運営や物資の手配といった仕事を担当する場合が多い。しかし、特に発災直後などは情報が不足しており、迅速かつ適切な意思決定は困難だ。また、人や物の支援が届いたとしても、オペレーションが確立されていないために支援を有効に活用できない例もある。

そこで防災研究所は、災害規模や災害状況、地域特性に応じた情報整理と迅速な意思決定を支援する研究を進める。災害対応業務を標準化するなど、人や物の支援が適切に活用され早期の復旧に貢献するという。

  • 本部運営の支援

    本部運営の支援

研究テーマ3:要配慮者の支援を可能とする仕組みづくりに関する研究

3つ目の研究テーマは、高齢者をはじめとする要支援者・要配慮者のサポートに資する研究である。被災時における死傷者および行方不明者の約7割が高齢者だというデータもあるとのことだ。

平時においても、自治体職員が要配慮者を把握し見守りにつなげている自治体は多い。しかし発災時には自治体職員にも不慣れな支援対応が発生する上、要配慮者の確認漏れが発生するリスクもある。

これに対し、平時と有事を分断しない「フェーズフリー」な要配慮者の支援を可能とする仕組み作りを、山形県置賜地域の自治体とすでに開始しているそうだ。具体的には、地域に住む要配慮者を中心に、自治会や民生委員、福祉の専門職など関係者間の連携強化を図る。「地域支援ネットワークの再構築」とも呼ぶべき研究に取り組む。

  • 要配慮者に関する支援

    要配慮者に関する支援