ベネッセホールディングスは12月17日、「生成AI:教育現場での活用の効果と課題」をテ―マにした記者説明会を開催した。

教育現場で生成AIに関する試行錯誤が続く中、ベネッセでも生成AIの活用に関する研究や実践に取り組んでおり、今回の会見では、約2年間のベネッセでの生成AIを活用した教育の実践例と、そこから見えてきた知見や課題が紹介された。

説明会には、ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター長の小村俊平氏、ベネッセ教育総合研究所 教育イノベーションセンター 主任研究員の庄子寛之氏、ベネッセホールディングス Digital Innovation Partners データソリューション部 部長の國吉啓介氏が登壇した。

世界トップレベルの日本の教育を生成AIで強化

教育現場における生成AIの活用を巡る動きとしては、昨年に文部科学省から「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」が発表され、近く改訂版が発表される見込みとなっている。

この2年で生成AIパイロット校が約100校指定され、授業や校務面(テスト作成など)での活用検証が進んでいる。一方で、安全な活用にあたっては、教師の生成AIのリテラシーや理解の違いによる、学校間格差などの懸念も生まれている。

また、家庭でも利用に対する賛否が分かれており、べネッセが今年6月に小学生を持つ家庭を対象に実施した「生成AIの利用に関する調査 2024」では、生成AIを知っている保護者のうち66%が利用に肯定的、24%が否定的という結果が出ている。

最初に登壇した小村氏は、そのような中で生成AIに着目する理由について、「国際調査の結果が示すように、日本の教育は世界トップレベル。一方、今後も教育の質を維持していくためには、いくつかの課題を乗り越えていく必要がある。そのために、生成AIが役に立つ」と説明した

  • 「PISA2022」と「TIMSS2023」の結果

    「PISA2022」と「TIMSS2023」の結果

「コロナ禍以降、不登校・不登校傾向の児童・生徒が増加しました。また『特別支援教育』『日本語教育』など、教育的支援を要する児童・生徒が顕在化しています。その中で、生成AIを活用することで、教員に負荷をかけず、個別対応がしやすくなります」(小村氏)

教員不足問題を生成AIで解決

一方で、小村氏は日本の教育課題として「教員のなりて不足」を挙げた。

教育の質向上への期待は高まるが、教員が働きやすい環境づくりは道半ばであり、教員志望者が減少し、採用倍率が低下。年度途中の欠員補充も困難になっている。そこで生成AIを使うことで、教員の業務負荷の削減、児童・生徒の学習の質の向上に期待ができるという。

具体的な生成AIの教育現場での活用法としては、教員側は「整理・分析」「編集・制作」「個別」「対応」「試行」「錯誤」、生徒側としては「編集・制作」「試行錯誤」が考えられる。

  • 生成AIの教育現場での活用方法

    生成AIの教育現場での活用方法

また生成AIを教育現場で活用する際には、文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」に示されるような情報モラル教育を行うことを大前提とする一方で、AIを高度に使いこなすための人間ならではの資質・能力を見出し、育んでいく必要がある。

「『何を問うか?』のセンス、『どう問うか?』のスキル、『なぜ、問うか?』の意欲といった問う力と、『正しいか?』がわかる見識、『善いか?』がわかる倫理、『美しいか?』がわかる感性、『新しいか?』がわかる知識といった見極める力を育むことが重要です」(小村氏)

次に登壇した庄子氏は、「生成AI活用を授業で使う場合の注意点」について、次のように語った。

「生成AIを授業で活用する場合の適切でないと考えられる例として『情報モラルや活用能力が育っていない段階で自由に使用』『読書感想文やコンクールなどで、生成AIによる生成物をそのまま自己の作品として使用』『創作・表現・鑑賞など、感性や独創性を発揮させたい活動で最初から用いること』『教師が答えるべき場面で安易にAIに回答させること』が挙げられます」(庄子氏)

一方、活用が考えられる例としては、「誤りを含む生成AIの回答を教材に、その性質や限界を生徒に気づかせる活動」「グループの考えをまとめたり、アイデアを出したりする際、足りない視点を見つけ、議論を深める目的で活用」「英会話の相手/より自然な発音を習得するのに活用」「生成AIを用いた高度なプログラミング」がある。

  • 生成AI活用を授業で使う場合の注意点

    生成AI活用を授業で使う場合の注意点

ベネッセでは、生成AIを活用したサービスとして、子どもの興味をもとにアイデアやテーマを見つけることができる、小学生親子向けの「自由研究お助けAI」をリリースしている。

同社が今後も生成AIを活用したサービスを活用して、子どもの教育をサポートしていく構え。