NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)とTXP Medicalは10月に資本業務提携に関する契約を締結し、NTT Comに対してTXP Medicalが第三者割当増資により新株式を発行することを発表していた。両社はこのほど、連携の具体的な内容と今後の取り組みについて、説明会を開いた。
TXP Medicalの企業概要
TXP Medicalは、救急科の専門医でもある園生智弘氏が急性期データシステムの提供と医療データ関連事業の実現に向けて、2017年7月に創業。シリーズCの資金調達において、NTT Comとの資本業務提携に至ったという。
同社は救急・集中治療・救急隊向けの医療データシステム「NEXT Stage ERシリーズ」や、がん診療支援研究データシステム「NEXT Stage Oncology」の開発と提供などを手掛けるほか、臨床試験のデータ記録や症例登録をオンライン上で行うEDC(Electronic Data Capture)構築サービスなどを提供する。
NEXT Stage ERシリーズをはじめとする医療プラットフォーム事業では、急性期疾患やがん、希少疾患などが集積する大規模病院向けや、自治体向けのサービスを展開。これまで構造化されていなかったデータの構造化と適切な利活用を支援する。
医療プラットフォーム事業において収集されたRWD(Real World Data)は、治療・処方箋実態分析、施設フィージビリティ調査、論文作成支援など、医療データ事業として製薬・医療機器メーカー向けのさまざまなサービス開発に応用される。
同社は約800床以上の大学病院や地域の中核病院を中心に、36の病院と連携してデータ利用を可能としている。急性期だけでなくがんや難病など複数領域のデータについて、約900の検査値項目を保有しているという。
同社の医療データの特徴として、連携する病院の全診療科の全患者のデータを単一の研究用データウェアハウスで保有している。また、救急集中治療の領域では自社プラットフォームで実務を支援するサービスも展開するため、患者の基礎疾患やバイタルサインなどのデータを自動で利活用しやすいフォーマットに構造化している。
園生氏によると、現在の大学病院や地域中核病院においては、医師の働き方改革などを背景に救急医療がひっ迫しているという。こうした状況を踏まえ、TXP Medicalは救急医療の現場を支援するデータシステムなどを提供し、少しずつ導入する病院を拡大。そこから信頼を得て大規模病院と連携し、研究に使える質の高いデータベースの構築に至ったとのことだ。
NTT ComのSmart Healthcareビジョンと秘密計算サービス「析秘」
NTT Comは企業や自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を目的に、ICTで社会課題の解決を目指すコンセプト「Smart World」を掲げている。スマートシティやスマートインダストリーなど各産業向けにソリューションを展開するSmart Worldの一環として、スマートヘルスケアプラットフォームを手掛ける。
スマートヘルスケア事業においては、日本の医療ヘルスケアを取り巻く社会課題の解決を促進するため、予防・治療・ケアなどさまざまなステージにおいてメディカルデータやヘルスケアデータの収集と分析に向けたデジタルヘルスケアサービスを展開する。
その中で、データの蓄積段階を支援するために開発したのが、Smart Data Platform for Healthcare(SDPF for Healthcare)だ。このサービス基盤は認証認可同意管理や秘密計算、匿名加工など機微なデータを取り扱うための機能を備える。同意管理やID連携など、安全なデータ管理と活用をサポートする。
秘密計算クラウドサービス「析秘(SeCIHI:Secure Computation and Information Handling Interface)」は、機密性の高い情報を秘匿化したままの状態でデータ分析が可能。データを断片的に分散して秘密化された情報を復元せずに演算処理可能なため、企業や組織の情報漏えいを防ぎながら、組織をまたいだデータの連携や横断的な分析に利用できる。
析秘は秘密化されたデータを復元することなく統計処理が可能で、データ分析をする人は計算結果のみを取得する。データそのものは誰から見ても断片化された状態で計算されるという。
NTT Comの執行役員でスマートワールド推進部の部長を務める福田亜希子氏は「当社の弱点は、析秘が出力する統計情報が意味することを分析し解釈できる医療の専門家がいないこと。ここがポイントとなり、今回の業務提携に至った」と説明。
両者の今後の取り組み
TXP Medicalは医療機関との連携により、構造化され分析に利用可能なデータの保有を強みとする。また、医療者によってデータ分析の結果に専門的な知見で意味付けできる点も強み。一方で、スタートアップ企業ならではの課題として、人材や資金、技術、病院からの信用が不足しているという。
「当社にはデータを保持する際のアイデアがあり、セキュリティを担保できる場さえあれば医療機関を巻き込んで拡大できるはず。しかしそこまでの技術は社内になく、さらにまだ病院からの信用が厚いわけでもない。ここが課題となっていた。今回の業務提携ではNTT Comの析秘を活用し、当社が続けてきたデータコンサルや医療者によるアセスメントを組み合わせることで、製薬企業・医療機関向けの質の高いサービスが生み出せるだろう」(園生氏)
園生氏はさらに、「NTT Comは析秘という確立された技術を持ち、このサービスは万が一にも一部のサーバがサイバー攻撃を受けた場合でも元データが分からないようになっている。これは当社が医療機関・製薬企業に営業活動をする際に最も大きな後ろ盾となる。双方の強みを組み合わせて、これまでになかった医療データサービスを展開したい」とした。