キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は12月1日、同社の「西東京データセンター」で液冷方式のサーバ冷却サービスを開始した。同13日に同データセンター(DC)を報道陣に公開した。同社では、今年7月に液冷方式のサーバ冷却サービスを12月から開始すると発表していた。

  • 「西東京データセンター」の外観

    「西東京データセンター」の外観

データセンター事業は重要な成長ドライバー

キヤノンITSのDC事業はITプラットフォーム事業部門に属し、ITインフラの企画、設計、構築、運用に加え、セキュリティなど包括的なソリューションで顧客のさまざまな事業をサポートしている。また、ITプラットフォーム事業部門に紐づくグループ会社としてクオリサイトテクノロジーズが沖縄のデータセンター(DC)でサービスを提供している。

同社は2025年までのありたい姿を「VISION2025」として掲げ、「先進ICTと元気な社員で未来を拓く共想共創カンパニー」をキーメッセージとしており、7つの重点事業領域に定めている。そのうち「データセンター」と「クラウドセキュリティ」としてITプラットフォーム事業部門は、ITインフラサービスのトータルブランドとして「SOLTAGE」を提供。

  • 「SOLTAGE」の概要

    「SOLTAGE」の概要

キヤノンITソリューションズ 取締役 常務執行役員 ITプラットフォーム事業部門担当の吉田啓氏は、SOLTAGEについて「クラウドやネットワーク、システム運用・保守、セキュリティ、DCを展開し、お客さまのビジネス拡大を支援している。直近、3年間で10超の新サービスをリリースするなど、急速に拡充している」と述べた。

  • キヤノンITソリューションズ 取締役 常務執行役員 ITプラットフォーム事業部門担当の吉田啓氏

    キヤノンITソリューションズ 取締役 常務執行役員 ITプラットフォーム事業部門担当の吉田啓氏

ITプラットフォーム事業部門では、2022年~2025年の4年間におけるCAGR(年平均成長率)を10.8%を見込んでおり、特にDC事業は重要な成長ドライバーとして事業部門全体の売上高40%を担っているという。

特別高圧の電力を2つの変電所から受け入れる西東京データセンター

次に、キヤノンITソリューションズ ITサービス技術統括本部 統括本部長の郡田江一郎氏がDCサービスと、現状における課題について説明した。

  • キヤノンITソリューションズ ITサービス技術統括本部 統括本部長の郡田江一郎氏

    キヤノンITソリューションズ ITサービス技術統括本部 統括本部長の郡田江一郎氏

同社は西東京と沖縄の2カ所にDCを展開。これまでの同社におけるDC事業の変遷としては、1997年にKDDI大手町ビルでサービスを開始し、2012年に自社DCとして西東京DCを開設、その後は順調に利用が伸びたため2020年に2号棟を開設した。

  • データセンターサービスの概要

    データセンターサービスの概要

西東京DCは両棟合わせて受電能力が40MVA、ラック数は5180、BCPオフィスとして利用可能なスペースが2000平方メートル。DCが立地している東京都西東京市は武蔵野台地の中央部にあり、地盤も強固なことに加え、都心から20kmと利便性を兼ね備えている。日本データセンター協会が定めるファシリティスタンダードで最高レベルのティア4、あるいはそれを超える仕様で整備されている。

  • 西東京データセンターの概要

    西東京データセンターの概要

電気設備は特別高圧の電力を2つの変電所から受け入れており、2号棟の熱源・空調設備は現在の大型DCでは一般的な空冷モジュールチラーを使用するが、独自の工夫として屋上のチラーを覆う形で消音パネルを設置。防音効果に加え、チラーに直射日光が当たることを防ぐとともに廃棄が吸気側に回り込むことも防ぎ、高効率を実現しているという。

  • 熱源・空調設備の概要

    熱源・空調設備の概要

  • 屋上に設置されたチラー

    屋上に設置されたチラー

また、入退出ゲートに空港などで使用される3DボディスキャナやX線検査装置を設け、ゲートを通過するためには顔認証とICカードが必要となり、強固なセキュリティ体制を整備。さらに、DC運営品質を目に見える形で示すため各種認証も取得している。

一方で、課題もある。郡田氏は「まず、IT機器の消費電力は増加傾向にあることに加え、設備が増えて管理に難を抱えることがある。また、情報漏えいなどセキュリティの強化も必要」と指摘する。

消費電力への対応に関しては、空調効率の最適化として空調機の運転を台数制御から周波数制御に変更し、細かく調整することで空調機の電力を30%削減したという。加えて、冷却効率の最適化ではメインの熱源機器であるターボ冷凍機の冷却水温度の設定を1度下げて、効率改善を図ったことで熱源機器電力を10%削減している。

  • 空調機の電力を30%削減したという

    空調機の電力を30%削減したという

増加する設備の管理については、ダイハツディーゼルと協業して非常用発電機の故障予兆検知システムの実用化に向けた実証実験を今年9月から開始。第1段階として、振動データとAI技術を用いた故障予兆検知の基本的な技術を確立している。

郡田氏は「AIに振動を学習させることで正常・異常を判定できるようにした。判定手法も独自に開発し、データ空間上で正常データのクラスタで判断する仕組みとなっている。非常用発電機を対象としているが、さまざまな機器に拡大していく」と話す。

  • AI技術で故障予兆検知

    AI技術で故障予兆検知

セキュリティは前述のように、ICカードに加え、生体認証として顔認証を取り入れている。従来は指静脈認証だったが、コロナ禍の影響もあり2号棟から顔認証に変更しており、キヤノンが開発した技術を活用している。

GPUサーバなどの発熱量に対応するために液冷方式の設備を設置

そして、今回の目玉でもあるIT機器の消費電力増大や高負荷化への対応として冷却方式によるサーバ冷却サービスについて、キヤノンITソリューションズ ITサービス技術統括本部 データセンターサービス本部 D2プロジェクト プロジェクト長の武田智史氏が解説した。

  • キヤノンITソリューションズ ITサービス技術統括本部 データセンターサービス本部 D2プロジェクト プロジェクト長の武田智史氏

    キヤノンITソリューションズ ITサービス技術統括本部 データセンターサービス本部 D2プロジェクト プロジェクト長の武田智史氏

まず、同氏は国内におけるAIインフラ市場について、IDC Japanの調査結果を引き合いに出した。これによると、2023年の国内AIインフラ市場の支出額は前年比46.1%増の1094億円となったほか、2022年~2027年の6年間における支出額のCAGRは16.6%、2027年の支出額は1615億円と予想されている。

武田氏は「各社はGPUサーバやHPCサーバに注力しており、その発熱量は従来の空冷方式では処理しきれない領域に達している。通常のIAサーバの消費電力は0.6~1.0kW程度だが、GPUサーバは10kWと10倍以上。次世代モデルとして発表されているGPUサーバは14kWと、一層の高負荷化が見込まれており、サーバ冷却方式として液冷方式が必須になっている」との見立てだ。

  • GPUサーバやHPCサーバの発熱量は従来の空冷方式では処理しきれない領域に達しているという

    GPUサーバやHPCサーバの発熱量は従来の空冷方式では処理しきれない領域に達しているという

そのため、同社ではこれまでスーパーコンピュータなど特別な機器に用いられ、研究機関など一部の専用建屋で運用してきた液冷方式の冷却サービスを提供することで、AI活用の広がりに加え、今後は一般企業が液冷サーバを利用する時代への変化に対応していく。

液冷方式は複数あるものの、同社はDLC(Direct Liquid Cooling:直接液冷方式)に対応。同氏は「リアドア方式やサイドカー方式などの方式もあるが、今後もGPUサーバやHPCサーバの計算能力は向上するものと考え、実用化されている液冷方式の中で最も効率が良いとされるDLC対応の設備を構築した」と説く。

  • 液冷ラックの設置イメージ

    液冷ラックの設置イメージ

DLC方式は、最も発熱の高いCPUやGPUの直上に取り付けたコールドプレートまで冷却液のホースを引き込み、直接サーバを冷やすというもの。冷却液で回収された熱はCDU(Coolant Distribution Unit:冷却分配ユニット)でDC設備側の冷水と熱交換し、屋外に排出される。サーバ排熱の70~80%をDLCで回収し、残り20~30%は通常の空冷方式で冷却する。

  • DLC方式の概要

    DLC方式の概要

既存の液冷設備は、冷水を生成する空冷モジュラーチラーがN+3の冗長構成とし、冷水配管は2Nの冗長構成となり、漏水が発生しても冷水供給を継続。また、空調機もN+1の冗長構成でサーバルームに冷風を供給し、DLCで冷却しきれない排熱を回収する。

今回、追加した液冷設備も冗長構成を維持しており、サーバルームの床下に設置した液冷配管はループ構成とし、漏水が発生した場合でも障害点を止水して冷水の供給を継続する。すでに、12月1日からDLCを搭載した高密度型サーバ「HPE Cray XD2000」の運用を開始している。

  • DLC方式の概要

    既存設備と追加設備を含めた水冷設備のイメージ

最後に、武田氏は「DLC方式に対応したサーバであればラックあたり100kWまで冷却が可能。これまでのDC建設・運営のノウハウで『お客さまのシステムを止めない』をコンセプトをもとに、細部まで安全性に配慮した冷却設備を提供する。また、DLCと従来の空調のハイブリッドで冷却を行うとともに、24時間365日お客さまをサポートしていく」と力を込めていた。