横浜市教育委員会と横浜市立大学は11月21日、共同研究契約を締結し、横浜市の教育ビッグデータを医療の専門的知見に基づいて分析し、子どものこころの状態に応じたケアにつなげる「横浜モデル」の構築に向けた取り組みを進めていくことを発表した。

  • 横浜市教育委員会と横浜市立大学 共同研究契約 締結式の様子の様子

    横浜市教育委員会と横浜市立大学 共同研究契約 締結式の様子

本稿では、横浜市立大学と横浜市教育委員会の共同研究契約締結式の模様、横浜教育データサイエンス・ラボで語られた「横浜St☆dyNaviでの健康観察 現時点でのデータから見えること」について紹介する。

また「子どものこころの変化をとらえ安心な学びの環境をつくる『横浜モデル』の試行にあたっての期待や課題」をテーマに行われたグループディスカッションの様子をレポートする。

  • 横浜教育データサイエンス・ラボ 集合写真

    横浜教育データサイエンス・ラボ 集合写真

子どものこころの不調を可視化する「横浜モデル」

横浜モデルは、横浜市立大学・学校・区役所や児童相談所、地域療育センターなどの関係機関の三者が協力し、「横浜St☆dyNavi」でつながることで、子どものこころの不調を可視化し、軽減する取り組み。

「横浜St☆dyNavi」は、横浜市の市立小・中・義務教育・特別支援学校がICTを活用することで日々蓄積されるデータを利用した学習支援システム。これを活用することにより、AIチャット相談やメタバース空間内でアバターを活用したバーチャル相談が行える環境を提供する。

これにより、子どもには「医療未満の児童生徒への相談機能でケア」「早期の精神科医療などの受診の助言」が行われ、また、教員や保護者には「医療診断が必要かどうか専門的に助言し、メンタルヘルスリテラシーの向上」をもたらす。

  • 横浜モデルのイメージ

    横浜モデルのイメージ

横浜モデルの特徴としては、以下の3点がある。

  • データで子どものこころの変化を捉え、こころの不調を軽減する日本初の取り組み(先行事例としてイギリスやオーストラリアなど)
  • 約26万人の児童生徒を対象に、リアル・オンライン・バーチャルの三層空間で行われる取り組み
  • 横浜St☆dyNaviでつなぐことで、どこにいても同じように見守り、支援ができる仕組み

なお、11月から獅子ケ谷小学校(鶴見区)、瀬谷中学校(瀬谷区)の2校をモデル校に指定し、22日から施行が開始されている。

「横浜St☆dyNavi」で健康観察

横浜モデルの発表に伴い行われた横浜市立大学と横浜市教育委員会の共同研究契約締結式に加えて、「子どものこころの変化をとらえ安心な学びの環境をつくる『横浜モデル』の開発」をテーマに、「第2回 横浜教育データサイエンス・ラボ」が開催された。

横浜市は、児童生徒約26万人の教育ビッグデータを活用し、教員、大学、企業との共創により分析を行い、エビデンスに基づく学びの実現や、教育内容の充実を図ることを目指している。

この取り組みの一環として、若手から中堅の教職員、専門的な知見をもつ大学研究者、データの分析・加工の専門的な技術をもつ企業で形成される研究の場である「横浜教育データサイエンス・ラボ」が開催されている。

9月には「子どものこころの不調を軽減する『横浜モデル』の開発」をテーマに、教職員、大学、企業が一堂に会し、学校にとって有効な「教育データ」についての議論を繰り広げた第1回が開催された。

今回の第2回では、「横浜St☆dyNaviでの健康観察 現時点でのデータから見えること」と題して、横浜市立大学研究・産学連携推進センター特任講師である雨宮愛理氏から「これまでの横浜St☆dyNaviからみえること、みえないこと」が語られた。

雨宮氏は「みえること」として「全体として、こころの調子が悪い子どもがどれくらいいるか」、「みえないこと」として「誰に対して、いつ、どのような支援を行うべきか」、「みたいこと」として「地域や学年、日や月によって、こころの調子がどう変わるのか」「なぜこころの調子が悪くなってしまうのか、その症状はどのようなものか」「どのような支援につなげるべきか」といった点を挙げた。

また、グループディスカッションでは「子どものこころの変化をとらえ安心な学びの環境をつくる『横浜モデル』の試行にあたっての期待や課題」をテーマに、集まった学校関係者やシステムの関係者が「実際にどんなデータが現場では求められているのか」という議論を重ねていた。

  • グループディスカッションの様子

    グループディスカッションの様子

最後に登壇した横浜市教育委員会 学校教育企画部長 山本朝彦氏は、今後の横浜教育データサイエンス・ラボについて、「もういちど『月曜日が楽しみな学校』をつくりたい」というビジョンを語り、すべての教育データを子どもたちのために活用していくと語っていた。

  • 横浜市教育委員会 学校教育企画部長 山本朝彦氏

    横浜市教育委員会 学校教育企画部長 山本朝彦氏