「日本の農業を世界で勝負できる一大産業へ!」Oishii FarmCEO・古賀大貴の日本発グローバル産業創出構想

「将来的には植物工場システムを日本の一大産業として世界に輸出していきたい」こう語るのはOishii Farm CEOの古賀大貴氏。ニューヨーク近郊でイチゴの植物工場をいち早く設立。その成功を収めたのちに日本で支社および研究開発を強化するためのオープンイノベーションセンターを来年内につくることを発表した。日本国内の農業は企業が参入しづらいという産業構造の中で、日本の農業の潜在力を掘り起こす古賀氏の挑戦である─。

植物工場の知の集結地を日本に

「メガファームが稼働し、一般の方が買える価格まで落とすことができたことで、ある種踊り場にきた。次はこれをどう世界中にコピー・ペーストできるかというフェーズに入った」─。こう語るのはアメリカ・ニューヨーク近郊で約2.2万平米のイチゴの植物工場を運営するOishii Farm(以下Oishii社)CEOの古賀大貴氏。

 アメリカでは通常イチゴは5ドル程度で売られているが、同社の販売する日本品種のイチゴは発売当初1パック(8個入)50ドルの高価格でもNYのセレブがこぞって購入。量産化に成功した現在は10ドルで販売できるようになり、一般市民にも手が届く範囲になった。しかしそれもあってか、高い需要に対して供給量が全く追い付いておらず、米国の多くのスーパーマーケットではいまだ〝入荷待ち〟状態。

「日本で当たり前に食べているイチゴは、米国民にとってこんなに美味しいイチゴは食べたことがないと衝撃を覚えるくらい、全く違う食べ物なのです」と古賀氏。6万店ある米国スーパー全てを網羅するまでまだ道のりは遠いが、着実にブランドを育てていきたいと語る。

 そのOishii社の日本支社設立が決定した。NYで成功したイチゴの植物工場の研究開発を進めていく場としてオープンイノベーションセンターを2025年内に開設する。なぜ本社のある米国ではなく日本での設立なのか?

「植物工場は施設園芸と工業の技術の掛け合わせ。その分野の世界トップは日本企業が占めており優秀な技術者が日本にはたくさんいるので、研究開発の最適な場は日本」と古賀氏。それとともに古賀氏の起業当初からの志は、日本の潜在力を掘り起こし、自動車産業に次ぐ新たな日本発のグローバル企業をつくること。日本進出、世界進出を視野に入れ、マーケットの優位性とグローバルスタンダードのチームをつくるために米国で起業しビジネスを育ててきたが、いよいよ次のフェーズに入り日本進出に踏み切った。

 現在のNY近郊にあるメガファームは、個々の最先端技術を組み合わせカスタマイズしてつくられた非常に複雑なものであり、世界に拡大するためにはこれを標準化することが必要だという。古賀氏の描く長期的な構想はこうだ。

 今回日本に設立するセンターを拠点に、アカデミアと高い技術を持つ各分野の企業と、植物工場に必要な研究開発を重ね、世界最先端の植物工場をつくる。最終的にはその植物工場をどこの国に展開しても稼働可能な再現性の高いパッケージ化を行い、その後世界での急速拡大を狙う。日本の農業技術を輸出できれば、農業界の活性化につながる。

「世界に輸出できる一大産業にしていくには多くの領域と協働が必須。空調、水処理、種苗、生産技術、物流、ロボティクス、エネルギー、不動産、金融…などあらゆる分野での知をこのセンターに集結させたい。再現性のある工場が完成できれば、日本各地の農業を元気にし、地方創生にもつなげることができる」と古賀氏。

 植物工場の技術が確立され、世界中で同じ農作物が生産可能となれば、その市場規模は200兆円規模になるといわれる。同社はその市場でのリーディングカンパニーを目指し、研究開発を急ぐ。現在NTTを始めとした各産業界大手との連携を進めている。政府関係者も「植物工場は我が国のイノベーションを様々な形で発揮しうる分野」とし、国としても積極姿勢である。

若者から応募が殺到

 長らく続く和食ブームをみても世界において日本の食の価値は世界に十分認められている。しかしそれを縁の下の力持ちで支える一次生産者の年収は低く、利益がほとんど出ない経営で倒産も少なくない。農林水産省の「令和4年農業経営体の経営収支」によれば、農業所得は98.2万円。円安、原料高で飼料費や動力光熱費等が増加し前年比で21.7%減。コメ不足が騒がれる中でも、24年1月から8月のコメ農家の倒産は34件と昨年23年を大幅に上回る(帝国データバンク)。

 農業は儲からない、体力的にきついといった点で、普通の仕事に比べると勤務条件が悪く後継者不足が問題視されている状況だが、現在Oishii社で働く220名の社員の多くは20~30代前半だ。最近では古賀氏がX(旧Twitter)で日本からの農業研修生を募集したところ、説明会だけで20~30代前半の若者から数千名の応募があった。しかもほとんどが農業未経験者で、わざわざ米国まで行き就業しなければいけないにもかかわらずエントリーは数百名あった。

「わたし自身も驚きました。十分な給料、1日8時間労働で通常の仕事と同時間帯、サステナブルに世界の食に貢献できるやりがいといった、良い労働環境さえ整えば、若い人たちはこの業界に対してすごく希望を持っている。Z世代やその下の世代は、地球や人類のため、人の役に立つ仕事に就きたいと本気で思っている人が実に多い」(同氏)

 説明会会場は当初20名枠で押さえていたが、応募者が膨らみやむなくオンライン開催となったという。来年内に開設するセンターにもこの勢いで若者の応募が殺到するのだろうか。古賀氏が描く日本発のグローバル産業創出には、志をともにする人材がどれだけ集まるのかが今後の明暗を分ける。

 日本企業がこれまで培ってきた叡智を集結し、それを世界市場に生かしていく─。古賀氏の挑戦は続く。