Broadcomによる買収後、VMwareは大胆な製品ラインアップの統合を断行した。この動きは顧客離れを加速させるのではないか――そんな懸念の声もある中、BroadcomバイスプレジデントVCF事業部 プロダクトチームのPaul Turner(ポール・ターナー)氏は、顧客へのコミットメントを強調する。同時に、今回発表した「VMware Cloud Foundation 9」については「既存顧客であれば、その優位性を理解していただける」と自信をのぞかせる。

  • BroadcomバイスプレジデントVCF事業部 プロダクトチームのPaul Turner(ポール・ターナー)氏

今後、VMwareはどのような戦略でプライベートクラウドを訴求していくのか。「VMware Explore 2024」の会期中、ターナー氏は日本メディアのグループインタビューに応じ、その戦略について語った。

プライベートクラウド VS. パブリッククラウドの議論ではない

--VMware Explore 2024の基調講演で、CEOのHock Tan(ホック・タン)氏は「プライベートクラウドはパブリッククラウドよりもイノベーティブだ」と主張しました。ターナーさん自身も同じ考えですか。そうであれば、その根拠を教えてください--

ターナー氏: 最初に「プライベートクラウド」の定義を明確にする必要があります。プライベートクラウドとはデータプライバシー、セキュリティ制御、信頼性に焦点を当てたコンセプトであり、必ずしも物理的なプライベートデータセンターだけを指すものではありません。例えば「VMware Cloud Foundation(以下、VCF)」は、主要なパブリッククラウドプロバイダーや300以上のパートナーが提供する環境で動作します。

プライベートクラウドの優位性は、一貫した運用環境を提供できることです。お客様はクラウドであれ自社のデータセンターであれ、単一のプラットフォーム上で同じセキュリティポリシーを適用し、シームレスなアプリケーション移動と変わらない操作性で運用を維持できます。通常、クラウド間のアプリケーション移行は大規模な作業を伴いますよね。

そうした点を考慮して各機能に焦点を当てると、NSXは他のベンダーのクラウドネットワーク機能よりも優れており、より強力なランサムウェア保護とセキュリティ保護を提供しています。また、vSANはクラウドベンダーのブロックストレージよりも優れたストレージプラットフォームです。vSphereは、パブリッククラウドのどのコンピュートプラットフォームよりも優れています。

これらの優位性は、VMwareが25年以上にわたりこのプラットフォームを構築・改良してきた結果だと自負しています。

--では、パブリッククラウドはVMware(Broadcom)にとってどのような存在になると考えますか--

ターナー氏: パブリッククラウドプロバイダーはBroadcomにとって競合相手ではなく、重要な戦略的パートナーであり友人です。なぜならお互いがそれぞれの強みを生かし、顧客により多くの選択肢と価値を提供することを目指しているからです。

例えば「Google Cloud VMware Engine(GCVE)」や「Azure VMware Solution(AVS)」は、それぞれのパブリッククラウドプラットフォームでVMware環境を実行できるサービスです。また「VMware Cloud on AWS(VMC on AWS)」は、AWSクラウド上で動作するVMwareのソリューションとして展開されています。ですから、対立する関係にありません。実際、「VMware Explore 2024」の期間中も、彼らとは密にミーティングをしています(笑)。

VCF 9のリリース時期とアップデートサイクルは

--今回発表した「VMware Cloud Foundation 9」は、「vSphere 8.0 Update 2」「vSAN 8 Update 2」「NSX-T 4.1.1」をはじめ、ネットワーク、セキュリティを単一のプラットフォームとして統合しています。VCF 9の統合で、最も強化した部分は何でしょうか--

ターナー氏: 主な強化点は、俊敏性と高速性の向上です。Software-Defined Data Center(SDDC)によるコンピューティング、ストレージ、ネットワーキングの統合で自動化と管理機能を強化しました。さらに、クラウド自動化レイヤーも備わっていますから、アプリケーションをより迅速に提供できる環境を実現しています。

  • VMware Cloud Foundationに包含される製品・機能群

また、製品間の連携強化にも重点を置きました。NSX、vSAN、ESXを含むvSphereをはじめ、管理製品群の統合に注力し、ID管理、ログ管理、診断機能、ライフサイクルとアップグレード、セキュリティ、プロファイリング、構成管理などの要素を統一しています。

さらに、CNCF(Cloud Native Computing Foundation)準拠のネイティブKubernetesを完全に統合したことで、OpenShiftなどのサードパーティ製品を使用せずにVCF上でKubernetesを直接実行できるようになっています。

--ちなみにVCF 9はいつ頃提供予定ですか。また、リリース後のアップデートサイクルはどのような形態なのでしょうか--

ターナー氏: リリース時期は法務担当部門からチェックを受けますので(笑)、具体的な日付を公表できません。「現在開発中」とだけコメントさせてください。

ただし、リリースサイクルについては、多少お話ができます。まず脆弱性修正プログラムなど、セキュリティ対策を主な目的とした更新は四半期ごとに実施します。また、新機能の提供や改善を目的とした機能強化のトップレベルバージョンアップ(例:9.1、9.2、9.3など)は、9カ月ごとに実施する計画です。

なお、メジャーバージョンアップは6年ごととなります。さらに有償の延長サポートも提供していきますから、お客様はITインフラに求められる長期的な安定性と一貫性を確保できるのです。

--今回、VCF 9のほかに「vSphere Foundation」も発表しました。こちらは小規模環境向けとのことですが、2つの製品ラインのすみ分けについて規模の基準はありますか--

ターナー氏: 単純に仮想化の機能を求めているだけであれば、「vSphere Foundation」で十分です。一方、VCFは多くの顧客、特に中堅規模以上の企業に適していると言えます。具体的な規模感としては、50台から100台程度のサーバを持つ企業は、VCFの主な対象になると想定しています。とはいえ、これは厳密な基準ではなく、むしろ顧客の要求する機能や将来の拡張性によって、お客様が決定することです。

--最後に、他社製品への移行を検討している既存顧客に対して、どのような言葉で引き留めますか--

ターナー氏: まず、顧客と直接対話し、VMwareの製品ロードマップと将来のビジョンを共有します。そして、VMwareの製品がOpenShiftやNutanixよりも多くの優位性があることを具体的に説明します。VMwareの強みは、単に優れた製品を提供するだけでなく、顧客の長期的な成功にコミットしていることです。VMwareの既存顧客であれば、この点を十分に理解してくださると確信しています。