人が複数人いれば意見も感じ方も異なる。目標がある企業やチームにおいて、伝えにくい話が避けられない時もあるだろう。そんな時に相手を「あなた」「君」などの二人称で呼ぶのではなく「私たち」と一人称を用いることで、緊張を和らげることができるという。コロンビア大学経営大学院の研究者らが代名詞と受容性に関する論文を発表した。
「あなた」が入ったコメントは攻撃的で受容性を低下させる
この論文は、コロンビア大学経営大学院の研究者であるMohamed A. Hussein氏らが5つの調査をもとに作成したもので、調査の1つがRedditのディスカッショングループでのコメントだ。モデレーターが「あなた」と二人称を使っているコメントを検閲する割合は「私たち」の一人称のコメントよりも高いことがわかった。
別の実験では、移民問題や中絶といった論争になりやすいテーマについての意見を削除することができるオンラインフォーラムのモデレーターであると想定した場合に、参加者がどのようなコメントをチェックするかをみた。すると「あなた」が入ったコメントは「私たち」よりも3倍検閲の可能性が高いという結果になった。
この結果についてHussein氏は、「“あなた”が入ったコメントは攻撃的かつ敵対的で、読む側の受容性を低下させると考えているようだ」と述べている。このほかにも、法定飲酒年齢を下げることについての考えを尋ねる実験も行った。
各参加者は自分の意見とは逆の意見をとるスピーチを読んでもらうが、そこで「あなた」を使ったもの、「私たち」を使ったものと2つのバージョンを用意して読んでもらった。
例えば、飲酒年齢の引き下げに反対するスピーチでは「あなたは若年層の飲酒について自身の迷いが自分の判断を曇らせ、他人を危険にさらすようなことをすべきではない」というう二人称バージョン、「私たちは(以下、同文)……」と言う一人称バージョンだ。
結果は「あなた」で始まるスピーチを読んだ人は反対意見を受け入れにくく、「私たち」を主語にしたスピーチを読んだ人の方が反対意見を受け入れやすかったという。
「私たち」に代えれば心を開く?
フォローアップとして、職場でも同じような効果が出るかを調べた。自分の同僚がプロジェクトリーダーを務めるプロジェクトがうまくいっていない状況を参加者に想像してもらい、他の同僚がそのプロジェクトリーダーについて残したネガティブなフィードバックを共有するか否かを決定できるという状況を設定した。
そして、二人称の「あなた」か一人称の「私たち」のどちらのコメントを共有したいかを尋ねた。すると、「あなた」のフィードバックより「私たち」のフィードバックの方が、共有したいと思う可能性が16%高いという結果になった。
このような調査から何が言えるのか?リーダーが従業員やチームメンバーと深刻な会話をするときには、二人称の「あなた」よりも一人称の「私たち」の方が、相手が受け入れる可能性は高くなるとのことだ。
Hussein氏は「あなたがオープンなマインドを持つ人のように見えると、人々は自然とそれに応えたいと思うものだ」と述べている。自分が聞くと想定すると納得だろう。「あなたは……」と言われるより、「私たちは……」と言われた方が、確かに受け入れやすい節もある。
同氏は「代名詞を二人称の“あなた”から一人称の”私たち”に代えることで、相手はあなたの言葉に心を開くようになる。秘密のパワーのようなものだ」と語っている。