生成AIの進化によって市場のルールは大きく変化しつつある。新しい競争環境に向けて経営や事業では何をすべきなのか。
6月25日に開催されたWebセミナー「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+サミット DX 2024 June. イノベーションの競争戦略」にて、Kaizen Platform代表取締役 須藤憲司氏が、生成AIが経営に与える影響と活用方法について解説した。
急速に実用化が進む生成AIの最新動向
須藤氏は、生成AIの登場によりビジネスの競争ルールが大きく変わりつつあると指摘する。特に2022年11月にChatGPT3.5がリリースされて以降、AIの実用化は急速に進んでいる。
「実用に足るところにまで達しています。競争の焦点は、AIツールをつくることから使うことに移ってきているのです」(須藤氏)
特定のタスクに特化した「狭いAI(ナローAI)」も次々と登場しており、画像生成、音声合成、プログラミングなど、さまざまな分野でAIが人間の能力を上回りつつある。こうした状況を踏まえて同氏は「そのAIが、何が得意で何ができないのかなど、それぞれの特性を理解したうえで適切に業務をあてはめて考えていかなければ、AIを使いこなすことはできない」と説明する。
この1年で劇的に進化した領域の1つが、テキストから画像や音声を生成する「Text to X」だ。例えば、ノーコードでWebアプリケーションを開発できる「Create.xyz」というツールでは、「Twitterを再現したようなサイトをつくって」などと自分がつくりたいサイトについてテキストを入力するだけで、Webサイトを生成できる。また、音楽生成AIツール「Udio」を使えば、テキスト入力だけで歌詞付きの楽曲を作成することが可能だ。
さらに、須藤氏は、マルチモーダルAIの進化についても言及した。例として、ビデオ生成プラットフォーム「Hey Gen」を使った動画生成のデモンストレーションを紹介。同ツールを使えば、別撮りの音声を既存の動画に合わせて自然な口の動きとともに合成できるという。同じ音声から別の言語に翻訳できる機能もあり、同氏はこうした技術が映像コンテンツのグローバル展開を大きく変える可能性があると指摘した。
「人にしかできないことは何か」という発想でビジネスプロセスを変革する
続いて、AIの活用によるビジネスプロセスの変革について、須藤氏は顧客体験の向上と業務効率化の両面から説明した。
「流入(商品検索)、獲得(申し込み/購買)、顧客管理(CRM)などで利用するコンテンツやクリエイティブはAIで生成可能です。また業務プロセスにおいては、顧客とのやり取りをSFAツールや契約手続きに入れ込むということもできます。顧客管理を業務プロセスに接続するところをAIによってサポートすることもできるのです」(須藤氏)
AIの活用方法については、まず業務をタスクレベルに分解し、AIに任せられる部分を見極めることが重要だと須藤氏は話す。具体例として営業業務を挙げ、「見込み顧客のアポイントを取る」「業界のリストアップ」「その業界に属する企業のリストアップ」「コンタクト先の調査」「提案内容のメール作成」などの個別タスクはすでに生成AIで実行可能だと指摘。そのうえで、人間にしかできない能動的な業務に注力すべきだとしている。
「『どこがAIに置き換えられるのか』ではなく『人にしかできないことは何か』を考えて業務をAIに置き換えていく発想が求められています」(須藤氏)
ユースケースの発想法
須藤氏は、ユースケースの発想法として「WHEN(いつAIを使うとよいか)」、「WHY(AIで何を解決したいか)」、「HOW(どうやって使うか)」の3点を考慮することの重要性を強調。ドメイン知識とマーケティングの観点×AIリテラシーでユースケースを考えていけると言う。
転職サイトの「ビズリーチ」では、ユーザーの職務経歴書の文章生成にAIを活用している。職務経歴書の質によってスカウト数が増え、スカウト数が増えると収益が増えるという構造になっており、各ステークホルダーにメリットのあるユースケースだと言える。
「AIを使えば使うほど良い状況が生まれる"AI活用のヘソ"を探すことが重要です。進め方としては、ユースケースをアイデア出しして、AI活用のヘソを探し出し、投資対効果を考えていくというステップとなります。何が何でもAIを使おうと手段を目的化するのではなく、どういう課題を解決したいか、新しい価値をどう生み出せるかという観点が必要です」(須藤氏)
AIの導入においては、不確実性が高いプロジェクトにおいて柔軟性を評価する「リアル・オプション戦略も重要」だと語り、その理由を次のように説明した。
「2000万円を投資して50%の確率で3800万円の売上が見込めるが、失敗すれば投資が無駄になるケースを考えてみます。単純な期待利益計算では-100万円となり、実行すべきではないように見えます。しかし、もし100万円で実験を行い、プロジェクトの成否が判断できるとしたら、期待利益は800万円にまで改善します。こうしたリアル・オプション戦略を設計できるか否かがAI導入では重要となるのです」(須藤氏)
AIがもたらすビジネスインパクト
須藤氏は、AIがビジネスに与える影響として、人件費の大幅な削減可能性を挙げた。特に人件費率の高いサービス業においては、AIで業務を代替することで競争力強化につながる。
「同じ業界で誰かが生成AIを使いこなし始めると、ゲームのルールが劇的に変わってしまいます」(須藤氏)
さらに、AIの活用により、人的資本の重要性が相対的に下がる可能性があるとも述べた。同氏は「社長一人しかいない会社」の可能性に言及し、「これまでは多くの人を雇ってスケールさせていくビジネスが多かったが、AI活用によって人を採用しなくてもビジネスができるようになってきている。こうした知的資本が重要な世界では、人のひらめきで差別化を実現し、業務設計とAIのチューニングによってオペレーショナル・エクセレンスを実現するという考え方になる」と指摘した。
こうした変化に対応するため、経営者としてはAIを中心に据えた経営へのマインドチェンジが必要だ。経営者にとってAIリテラシーが最重要スキルになっていくと主張する須藤氏は、今後5年程度で有望なビジネスモデルとして、以下の4つを挙げた。
須藤氏は自身の会社でも、AIでビジネスプロセスを最適化するコンサルティングを始めているという。
経営者にとって、AIをどのように活用し、競争力を高めていくかが今後の重要な課題となる。須藤氏は「AIが仕事を奪うのではなく、AIを活用する人が仕事を奪う。AIによって効率化が進むと利益率が向上し人材の採用が進む」というNVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏の言葉を引用し、「AIが人員削減を招くわけではなく、AIを使いこなせない経営者が人員削減に走ってしまう」と述べたうえで、AIへの積極的な取り組みの必要性を強調していた。