6月12日と13日の2日間、「TECH+フォーラム 働きがい改革 2024 Jun. シナジー創出のカギとなる従業員エクスペリエンス向上」が開催された。13日には、データを活用する、コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービスのキャリア開発の取り組みについて、ネオアーク コーポレート管理部 チェンジマネジメント課 課長の石井裕美子氏が講演した。

全世界のコカ・コーラ ボトラーの中で有数の規模を誇るコカ・コーラ ボトラーズジャパンの100%子会社として、2019年1月コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービスが発足。同社はグループの経理、総務、人事などの間接業務を行う企業で、社員数は2022年時点で2,500人ほどだという。本講演では、2019年当時、人材開発立ち上げメンバーとして参画し、2023年までプログラムを推進していた石井氏よりコカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービスにおける変革型リーダー育成プログラムについて説明がなされた。ネオアークは2024年1月、コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービスから分社化により新設された企業だ。

育成プログラムを開始した背景

コカ・コーラ ボトラーズジャパングループは、企業理念「Paint it RED! 未来を塗りかえろ。」の下、変革を推進しており、メンバーシップ型からジョブ型へと人事制度を統一する過程において、社員に求められる役割・成果も変化したと石井氏は話す。また、新しい組織に適応するため、社員はスキルチェンジが求められ、特に組織変革を牽引するための変革型リーダーの育成が急務だったという。そこで、コカ・コーラ ボトラーズジャパンビジネスサービスでは、2020年から一般職選抜社員を対象とした変革型リーダー育成プログラムを開始した。

変革型リーダー育成プログラムとは

このプログラムでは、10か月の間に2つの研修と6回の面談を実施し、一人一人に合わせたキャリアパスプラン・育成計画の立案・実行を行う。この取り組みを通じて、社員が専門領域を超えて自律的に成長し、変革の実現に向けて挑戦できる状態を目指している。

  • 一般職選抜社員を対象とした次世代リーダー育成プログラムの全体像

プログラムの中の「部門横断タレントレビュー会議」では、ポテンシャルの高い人材をひとつの部門で抱え込むのではなく、組織全体で育てていくという考えの下、社員の経験やスキル、キャリアプラン等の情報を部門横断的にレビューして、社員の特性を活かすジョブアサインや育成プランの策定につなげている。

石井氏によれば、育成プログラムには、3つのポイントがあるという。

1つ目は組織変革を実現するため、リーダーシップ開発とキャリア開発をセットで導入し、優先度高く推進していけるようなプログラムにしていることだ。

2つ目は、組織変革を実現するためのリーダーシップケイパビリティーズを定義し、それに即して社員の強みや成長課題をフィードバックしたことである。新しい組織で求められる役割・能力を社員がしっかり理解した上で、組織変革の実現に向けて自ら挑戦できるように支援している。

3つ目は面談や研修、各施策を通じて、社員の経験やスキル、キャリアプラン等の情報をデータベース化し、データを活用しながら、部門責任者、上司、キャリアコンサルタントが一体となって、部門の壁を越えた適材適所の実現を支援したことだ。

プログラム実施の効果

施策実施の効果として石井氏が挙げたのは、2021年のプログラム参加者の場合、キャリア自律意識行動の全スコアが向上していることだ。このスコアは、研究論文を参考に、キャリア満足度につながるキャリア自律意識行動を指標として、5段階でスコア化している。論文では、4.0以上がキャリア自律群と定義されているが、施策を通じて総合スコア4.1ポイントとなり、キャリア満足度が向上。参加前の社員は、得意分野ややりたいことが分からないまま仕事に取り組んでいたため、成長実感や満足度が得られにくい状況だったが、面談を通じて、約90%の人の自己理解が深まるともに、キャリアビジョンが明確になったという。

「施策を通じて社員は自ら変化することの重要性を実感し、組織への貢献意欲が向上したと考えております」(石井氏)

  • キャリア自律意識行動の全スコアが向上 ※引用・参考文献:堀内泰利(日本電気株式会社)岡田昌毅(筑波大学大学院)キャリア自律が組織コミットメントに与える影響. 産業・組織心理学研究2009,第23巻,第1号,15-28/堀内泰利 岡田昌毅(筑波大学)キャリア自律を促進する要因の実証的研究. 産業・組織心理学研究 2016,第29巻,第2号,73-86

同氏は、キャリア開発において大切にしていることとして、「自律」と「持続可能性」の2つがあると語る。

自律では、プログラムの最初にアセスメントを行い、自分が今、どのレベルにいるのかを認識し、その後、研修の中で参加者同士が何度も話し合う機会を設け、部門や年齢が異なる人から客観的なフィードバックを得ることで、自ら変化することの必要性に気付いてもらったという。

また、強みに焦点を当て、上司、部門責任者、キャリアコンサルタントから多角的なフィードバックを提供。その結果、社員は自分の特性を理解し、自分の意識や行動に変化を起こすことができるようになっていくそうだ。

持続可能性では、組織全体で変革型リーダーの育成を推進できる体制を構築することに注力した。

「キャリアコンサルタントとの面談という一過性で終わらせない状態をつくるということが大切です。部門責任者やキャリアコンサルタントは、上司では支援が難しい領域である中長期のキャリアプランニングの支援を行っています。この取り組みを通じて、上司の負担を減らすことも可能になります」(石井氏)

また、持続可能性を高めるために、定量・定性データを活用することを意識して取り組んでいる。人や組織がどう変わったのかを数値で示すことで、賛同者を増やしていくことにつながるのだ。

「組織から継続的に投資してもらえる状態をつくり出すために、データを活用してきました」(石井氏)

  • 定量・定性データの活用

さらに同社は、実際のキャリア実現につなげていくために、OJTプログラムである「キャリチャレ」(キャリアチャレンジプログラム)を導入している。この制度は、現所属に席を置いたまま、専門領域を超えて希望する部門の業務にチャレンジすることができるものだ。その目的は、一般職社員にチャレンジングな仕事の機会を提供することで、リーダーとしての早期活躍を支援することだと石井氏は説明した。

例えば、財務部門の社員が自分の稼働の約20%を活用して人事業務にチャレンジするようなことが可能となる。このプログラムを通じて社員のキャリア規模とポジションをマッチングすることができるようになり、適材適所の人材配置につなげることができる。

最後に石井氏は、持続可能性を高めるための最も重要なポイントを説明し、講演を終えた。

「持続可能性を高めるために、データを基にしてPDCAアクションを繰り返してきました。活動・成果を『見える化』することで、外部専門機関や有識者、社員からフィードバックを得ることができるようになります。フィードバックを活用しながら、課題を具体化し、改善アクションにつなげていきます。これを実直にやり続けることが、キャリア開発の持続可能性を高める秘訣です」(石井氏)