KDDIは5月30日、スタートアップと大企業が連携して、宇宙を活用しながら地球上の課題解決を目指す共創プログラム「MUGENLABO UNIVERSE(ムゲンラボ ユニバース)」を開始することを発表し、説明会を開いた。

同プログラムでは、宇宙空間を再現したデジタルツイン・デジタル空間や、低軌道上などの多様な実証環境、宇宙領域の有識者によるメンタリング・ネットワーキングの機会を提供することで、企業が宇宙事業に挑戦しやすい環境を支援する。

  • KDDIはMUGENLABO UNIVERSEを発表した

    KDDIはMUGENLABO UNIVERSEを発表した

MUGENLABO UNIVERSEは何をするのか?

KDDIは2011年に、インキュベーションプログラムである「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」を開始、同プログラムの下、2013年に国内大手企業複数社を束ねたパートナー連合を組成した。「KDDI ∞ Labo」は2018年には事業共創プラットフォームへと形態を変え、大企業とスタートアップの事業共創につながる活動を推進している。

2023年度はパートナー連合によるスタートアップの事業支援件数が年間900件を超えるなど、大手企業とスタートアップとの事業共創を目指した活動が続いている。同社は昨今の宇宙領域への期待の高まりを受けて、宇宙を活用した事業を手掛けたいスタートアップを支援するため、今回MUGENLABO UNIVERSEを開始する。

  • KDDI ∞ Laboの活動

    KDDI ∞ Laboの活動

同プログラムでは、宇宙事業に取り組むスタートアップをはじめ、異業種のスタートアップ、大企業、有識者などが宇宙事業を共創し、また、宇宙技術を活用して地上の課題解決を目指す。

宇宙空間は微小重力や真空、極低温/高温、宇宙放射線の存在など、地球上とは異なるさまざまな特長を持つ。プログラムでは、こうした極限環境を利用して食糧問題やエネルギー問題、災害対策などに取り組みたい企業を支援する。

  • 宇宙環境を利用した事業の創出を支援する

    宇宙環境を利用した事業の創出を支援する

KDDIの取締役執行役員常務 CDO(Chief Digital Officer)の松田浩路氏は「地球上で起こる問題のうち、地球上だけで考えていても発想が生まれにくい問題に対して、あえて宇宙の厳しい環境でテストしてみることで新しい発想の創出を促せたら」と語っていた。

  • KDDI 取締役執行役員常務 CDO 松田浩路氏

    KDDI 取締役執行役員常務 CDO 松田浩路氏

具体的には、ElevationSpace(エレベーションスペース)の小型低軌道衛星や、デジタルブラストの重力発生装置、スペースデータのデジタル空間「宇宙デジタルツイン」、ルナテラスが鳥取砂丘に構築した月面実証フィールドなど、さまざまな実験環境を提供して共創を促す。例として、以下の2社のデモが公開された。

デモ1:回収可能な宇宙環境利用プラットフォーム「ElevationSpace」

ElevationSpaceが提供するのは、地球低軌道上を周回する無人小型衛星を使ったプラットフォーム。回収可能な小型衛星の区画を貸し出すことで、宇宙環境での実証を支援する。機体の外側には暴露部を設けており、微小重力だけでなく放射線への耐性や極低温/高温環境での実験も可能。

回収可能なプラットフォームにより、真空環境下でも育成可能な苗の検討や、無重力環境を活用した創薬、新素材開発の検証などが可能だという。

  • 先端の白い部分が回収可能な機体

    先端の白い部分が回収可能な機体

デモ2:重力再現環境を提供するデジタルブラスト

デジタルブラストは、回転を利用してさまざまな重力環境を再現する機器を提供する。回転の速度を変えることで、月や火星などさまざまな惑星を再現した重力環境下における細胞培養や植物科学実験が可能となる。

  • 機器の中に回転する部分が3カ所設置されている

    機器の中に回転する部分が3カ所設置されている

なぜ、KDDIが宇宙事業を手掛けるのか?

宇宙市場は2040年に1兆ドル規模へ拡大すると予想される中、政府が4月26日に1兆円の「宇宙戦略基金」の創設を発表するなど、宇宙事業は民間企業のビジネスチャンスとなりつつある。

月面を目指す「アルテミス計画」においても、宇宙船開発などを民間企業がけん引する。また、衛星の小型化やコストの低減により、民間による商業衛星の利用も増加している。国内の宇宙関連スタートアップは、過去20年間で約13倍となり累計で100社を超えるそうだ。

KDDIの宇宙通信事業を振り返ると、全身の国際電信電話(KDD)にさかのぼる。1963年に茨城宇宙通信実験所を開所し、日米間で初のテレビ中継受信に成功。1969年には山口衛星通信所(現・山口衛星通信センター)を開所した。

また、2024年からStarlinkとスマートフォンの直接通信サービスを提供開始している。同社は今後について、2028年をめどに月と地球の間における通信を実現し、2030年には月面で5G通信を提供するとの目標を掲げている。

  • KDDIの宇宙事業のマイルストーン

    KDDIの宇宙事業のマイルストーン

同社が宇宙関連の研究開発の中で培った技術や知見は、地球上のさまざまな課題の解決にも寄与する可能性がある。同社が2011年に開始したインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」のオープンイノベーションのフィールドを宇宙へ拡張しながら、スタートアップや大企業との共創を通じて宇宙開発を進めるだけでなく、その恩恵を地球の課題解決につなげようというのが、同社の狙いだ。

  • MUGENLABO UNIVERSEの構想

    MUGENLABO UNIVERSEの構想