ガートナージャパンは5月21日~5月23日の3日間、都内のホテルで「ガートナー データ&アナリティクス サミット」を開催した。3日目の23日には、三井住友カード 執行役員 マーケティング本部 データ戦略ユニット長/金融データ活用推進協会(FDUA) 理事の白石寛樹氏が登壇。同社が目指す「金融と非金融の融合」へ向けたデータ活用の取り組みを紹介した。

  • 三井住友カード 執行役員 マーケティング本部 データ戦略ユニット長/金融データ活用推進協会(FDUA) 理事の白石寛樹氏

三井住友カードは、年間50億件を超えるキャッシュレスデータを活用した企業のマーケティング支援サービス「Custella(カステラ)」を2019年に立ち上げ、提供価値の向上に努めている。その後、2023年には決済機能と銀行口座が一体となったサービス「Olive(オリーブ)」を、今年の4月にはTポイントと統合した新Vポイントの提供を開始した。

同社では、こうしたプロダクトを展開して、「金融と非金融の融合」へ向けたデータ活用の取り組みを推進している。

「Custella(カステラ)」とは

「Custella」は、社長から「データやAIを使った科学的アプローチで、全く新しい価値をつくることにチャレンジしなさい」という指令を受け、誕生した。Custellaとはカスタマーを照らすという言葉を合わせたという。

同サービスでは、三井住友カードが保有するキャッシュレスデータを、個人・加盟店が特定できないよう統計化された顧客属性データ(新規、リピーター、インバウンド等)や、顧客行動ごとに集計し、統計化された購買実績データ(平日、休日、時間帯、エリア等)など、さまざまな切り口で集計し、データを「見える化」する。

また、取引先企業の課題やニーズに合わせ、キャッシュレスデータと取引先企業が保有するデータのほか、天候データなどの外部データも掛け合わせ、分析やAI等のテクノロジーを駆使した将来売上予測などの分析手法、サービスを個別に提供する。

「データを統計処理することによって、お客さまの解像度を上げ、弊社のサービス会員にアプローチして、仮説通りに反応してくれるのか、コンテンツを買ってくれるのかを検証するPDCAを回していきます」(白石氏)

Custellaでは、衣、食、住・生活、健康美容などの消費区分に分け、さらにそれぞれの区分を業種別に分割している。

この4年間で、結婚や出産などの分かりやすいものだけではなく、転職、ペットを飼い始めたといったイベントのマーケティングでも利用できるようになってきているという。

また、新規出店では、人流データを見て出店地域を決めることが当たり前になっているが、Custellaでは、消費が強いか弱いかということも重ね合わせ、新規出店の判断材料として利用することも行っているそうだ。

「キャッシュレスデータやAIを活用することで、さまざまな事業でのデータ活用に新しい価値をつくる場面を増やしたいということで挑戦を行っています。クレジットカードは、以前は持ち歩けない現金の代替として高額なものを買うための手段でしたが、現在では毎日、何度もクレジットカードに紐付いた決済をコンビニやサブスクリプション、動画配信サービスなどの自分の趣味嗜好の分野で行うことで、お客さまの解像度が上がっています。(クレジット決済データは)非常に正確で、長期にわたり蓄積することで、その人の5年前、10年前の消費傾向が分かり、POSデータや電車の乗車情報と結び付けることもできるのです」(白石氏)

そして白石氏は、自身のクレジット決済のデータを見せながら、明細データから、江東区周辺で生活していて、家族とペットがいて、ペットには惜しみなく消費をするタイプで、年末は地方都市や海外をよく訪れるといったことが分かると解説した。

「ここまで分かってくると、旅行業界やEC業界の方といろいろなマーケティングが一緒にでき、ライトタイムにライトコンテンツをライトチャンネルから届けることが可能になってきます」(白石氏)

生成AIで効率化

最近は生成AIを使うことで分析の効率を大幅に上げることや、人間では限界があるような取り組みにチャレンジしているという。その1つが「ジョブ理論」だ。

ジョブ議論とは、顧客が商品やサービスを購入するデータを明らかにすることで、顧客の課題やニーズを把握する。そして、顧客が成し遂げたいことを「ジョブ」とし、その進歩を実現するための商品やサービスを利用すると考える。例えばスマートフォンを買うということは、コミュニケーションや情報収集がジョブとなる。

「本当に即興で(分析結果を)出してくるので、生成AIの可能性は高いと思っています。キャッシュレスデータは非常に解像度が高く、ポテンシャルが大きなものとしてある中で、その読み解き方として生成AIが非常に楽しみな状態になっているのです」(白石氏)

Oliveや新Vポイントの狙い

三井住友カードは昨年、金融サービスとしてOliveというプロダクトを出している。

最近は、新NISAがスタートし、投資がブームになっている。一方、情報が膨大にあって、投資した方が良いと言われても、一体何をすれば良いのかなど、意思決定が難しい社会になってきている。

Oliveの発想は、あくまでもシームレスに1つのアカウントで金融というイベントを統合し、個人のモヤモヤを解決できるようにすることだという。

また同社は、「Vポイント」を「Tポイント」と統合し、新「Vポイント」を誕生させた。その狙いについて、白石氏は、「クレジットカードデータは、単体でも読み解くべきインフォメーションやインサイトがたくさんあるが、他のデータと組み合わせていくことで、そのデータ価値を引き出すことができる。科学的にいうと、触媒のような存在であると思っている。例えば、その商品を買う人の背景やその駅に行く理由、なぜそこに何時間も滞在するのかなど、情報データと組み合わせることで、解像度が上がる。今はカスタマー・データ・ブラットフォームという言葉が世の中で言われるようになっているが、我々とコラボレーションすることで、消費者に新しいアプローチができると考えている」と述べた。

最後に同氏はあまり遠くない未来において、決済事業者に留まらず、多くの企業とコラボレーションを行って、生活産業サービスと言えるような位置付けで、金融/非金融の区別なく、消費者の生活を豊かにするところで役立てられるようにしていきたいと語った。