昨今、半導体不足に端を発した供給キャパ不足、紛争や災害など、さまざまな要因でサプライチェーン上のリスクが増大している。多くの企業のSCM構築を支援してきたサステナビリティ・コンサルティング 代表の石川和幸氏は「こうしたリスクに対応していかないとものが手に入らなくなってしまう」と指摘する。そこで重要になるのがサプライチェーンの強化だ。「用意したものしかつくれない、売れないという世界」(石川氏)なのだから、それを会社として売り切る力を持たなければならないのだ。2月6日に開催された「TECH+セミナー 製造業 - サプライチェーンマネジメント 強靭な『サプライチェーンマネジメント』」に同氏が登壇。SCMを構築して強靭なサプライチェーンをつくるために求められることについて解説した。
組織的、地理的、時間的スコープを拡大する
石川氏は冒頭、SCMは個別機能組織の作業改善のことだと誤解されていると指摘した。SCMは90年代にQR(クイックレスポンス)/ECR(効率的消費者対応)のことだと紹介され広まった。そのため商品補充や在庫管理などのオペレーションを指すものになってしまい、部材リスクや需要変動リスクなどに対応できるSCMが構築されなかったのだ。一例が、2008年のリーマンショックの半年後に在庫の山ができて生産が止まってしまったメーカーだ。連結子会社の海外販社や国内販社の状況も見ず、山のような在庫をサプライヤーに持たせていることも見ず、商品をつくり続けてしまった。
そうならないためには、組織的、地理的スコープを広げることが重要だ。例えば、SCMの組織的スコープが狭いと、製品をつくっている間に販売が減少しても生産を止められない。スコープを連結対象まで広げ、その状況を見て止めるべきは止めるという意思決定をするべきだった。
「可能であれば連結対象だけでなく販売店、小売店、供給業者までスコープを広げて、計画連携をしながら回していくのが理想です」(石川氏)
時間軸のスコープも重要だ。例えば、何か意思決定し、実行した結果が2カ月後に出てきたとしよう。“結果”に対して、何らかの対処をすることは必要だが、それはPDCAのアクションでしかなく、効果が薄く長続きしない。それよりもスコープをもっと先まで広げ、“結果”による“先々の影響”まで考慮して再計画すべきなのだ。具体的には、販売計画の立て直しや、調達の遅れを見越した生産計画や販売計画の変更、サプライヤーの供給能力を考慮した計画・調整など、時間軸スコープを数カ月単位、年単位などのもっと先まで広げ、プロアクティブな(先を見越した)手を打つことが求められている。
広範に渡るシステムを統合してつくる
石川氏は、SCMは作業でも単なるシステムでもないことを認識したうえで再構築すべきだと言う。サプライチェーンのネットワークの構想やデザインから始まり、計画業務や実行業務など、すべてをつくり上げるのがSCMであり、その目的は連結収益の最大化と経営基盤の強化だ。だから売り方、つくり方、在庫の持ち方など、全てにおいて連結で最も収益性の高い方法を採らなければならない。そのための意思決定を可能にするという意味で、経営基盤の強化もSCMの目的となる。
「販売計画の精緻化、購買機能の強化、さらには効率的な物流体制まで全てを考えながら、未来に対してどんな手を打つべきなのかを考える。これこそがSCMの目的です」(石川氏)
SCMのシステムはかなり広範に渡ることも理解しておくべきだ。計画管理のSCP(Supply Chain Planner)、生産管理システムのERP/MRP、さらに構成管理を伝えるPLM(Product Lifecycle Mgt.)も入れなければならないし、製造実行についてはMES(Manufacturing Execution Sys.)を入れて発注や入庫管理、進捗管理などを行う。さらに工場のインフラやファクトリーオートメーションとの接続も必要だ。ここで重要なのは、これらは統合してつくっていき、システム連携させるということだ。個別のシステムをそれぞれ追加していくのではなく、どこにどのピースをはめるかを考えてつくっていくことが重要だと同氏は説明した。
組織横断で意思決定するS&OPの構築が必須
SCMの中では、計画や購買は、販売から生産、購買・調達、サプライヤーまで連携して行う必要がある。特にB2Bにおいては、組織横断で提案から引き合い、見積もり、受注を管理する「パイプライン管理」を行い、各ステージでどの程度の確度があるか、アクションすべきかどうかを見極める。リスク判断は販売と生産、購買、調達で連動しながら行い、意思決定はマネジメント層を交えて行う。B2Bの場合は商談管理が必要なので、SFAでステージ管理を行い、その結果として生産や購買が動き出すという仕組みをつくっておくことも必要になる。
そのために必須となるのが、組織横断で計画とリスクを判断し、意思決定するS&OP(Sales & Operation Plan)を構築することだ。S&OPのプロセスは、企画・開発から商談管理、生産・調達計画、需給調整と進む。その際、資金や部材調達、生産能力の制約を見ながら需給調整をするが、その結果は財務に影響するため、最終的に必ずマネジメント層がレビューをすることが重要だ。
S&OPの目的は、製販購統合で売上、利益を最大化し、在庫の適正化を行うことにある。例えば、受注見込みが少なく予算を達成できない場合に、商談を積み上げるとともに、商談実現の歩留まりを考えた着地見込みを販売計画として営業が決め、さらにそれに基づいて調達、購買が責任を持って部材を用意するというように、各部門がそれぞれ責任を持って合意されたものを守ることが重要だ。販売計画が決まれば、そこから生産・部材計画に展開していくことになるが、計画とは異なる大きな変動があれば、サプライヤーと過去のフォーキャストとの差分を確認しながら調整を行う。だからその回答や合意供給枠をチェックできる仕組みが必要になるし、こうした計画連携のためには適材適所の品目構成情報も必要だ。
購買や調達、実行業務側も高度化する
S&OPをつくっていくうえでは、購買や調達の強化も必要になる。調達機能には発注、入庫予定管理、納期管理といった、ものを買って納期を追うという機能がある。購買機能はサプライヤー評価や価格交渉、フォーキャストローリングによるお互いのリスク共有など、ものを買うためのソーシングの決定を行い、S&OPにも参画するという違いがある。購買機能をさらに発展させた開発購買という機能もある。開発購買機能は、購買機能を開発側に寄せて、商品企画段階から参画して推奨部材の定義や部材の標準化、開発段階での価格交渉なども受け持つのだ。開発購買が企画段階から入ることで、調達リスクやコストの低減に貢献できるようになる。
計画をつくったら、実行業務側も高度化しておく必要がある。MESと呼ばれるシステムを導入することで、「製造工程管理を全体に見える化していくことが重要」だと石川氏は言う。生産管理やERPから製造指示や発注が来れば、それをMESに入れてそこから作業指示を出す。それに対して製造実績を上げてくることで工程進捗が把握できる。こうした仕組みによって、営業に対して高精度の納期回答ができるようになるし、顧客との調整もしやすくなる。またMESによって指示も統制できるし、実績を集めてERPにつなげば製造指図の消し込みもでき、原価計算するところまで自動でつなげられるなど、MESのメリットは大きい。
SCMで強靭なサプライチェーンマネジメントを構築するにはITのテクノロジーが必須だ。しかしITを使うのは前提であって、それだけでは十分ではないと同氏は話す。制約リスクを可視化して見込みや推定を使いながら、組織横断で意思決定するプロセスをつくる。これで初めて強靭なサプライチェーンになるのだ。
「さまざまな要因でサプライチェーンが分断されるリスクが増大しています。こういった時にこそ色々なものを統合して判断できるようにして、SCM再構築の大波を乗り越えていただきたいと思います」(石川氏)