2023年12月31日。この日、電子帳簿保存法が定める電子取引に適用されていた電子保存の宥恕期間が終了した。

これにより、Webやメール添付から発行した請求書や領収書などを、紙で保存することが原則できなくなった。さまざまな要件を満たした状態で、電子データで保存対応しなければならない。対応しなければ、青色申告の承認の取消対象となり、会社法による過料を科せられる可能性がある。一方で、全事業者を対象に「新たな猶予措置」も設けられている。

そもそも電帳法とはどのような法律なのだろうか。そして企業の実態とは。2023年12月にTOKIUMが開催した勉強会の内容などを基に一つずつ解説していこう。

  • Photo:HHImages / PIXTA(ピクスタ)

    Photo:HHImages / PIXTA(ピクスタ)

電子帳簿保存法って?

電子帳簿保存法とは、1998年に施行され、国税関係書類や国税関係帳簿を一定の条件を満たすことで電子データなどの電磁的記録により保存することを認める法律。施行前は紙で保存することが原則だったが、施行後は紙ではなく電子データでの保存が認められた。

  • 電子帳簿保存法の対象書類 出典:TOKIUMU

    電子帳簿保存法の対象書類 出典:TOKIUMU

対象書類は、すべての国税関係帳簿、国税関係書類、電子取引が対象で、電子データとして保存する方法は三つある。一つ目は電子的に作成した決算書や元帳といった帳簿や書類などをデータのまま保存できる「電子帳簿保存」。二つ目が、紙でもらったものをデータ化して保存する「スキャナ保存」。そして、紙がなく電子データでもらったものをデータのまま保存する「電子取引」の三つだ。

  • 電子帳簿保存の三つの分類 出典:TOKIUMU

    電子帳簿保存の三つの分類 出典:TOKIUMU

電子帳簿保存法は1998年からある法律だが、厳しい要件を満たすことが難しく、施行当初は利用する企業は少なかった。しかし近年、電子化を進めたい政府の意向により改正が繰り返され、利用しやすい制度になっている。

例えば、2005年には、それまで認められていなかった一部の国税関係書類のスキャナ保存が認められ、2016年にはスマートフォンやデジタルカメラで撮影した電子データが認められた。しかし、2022年1月には、事前承認制度といったさまざまな要件が廃止・緩和された一方、電子取引における電子データでの保存が義務化された。だが政府は、依然として紙で保存する企業が多い状況を鑑みて、この義務化に2023年12月末までの宥恕期間を設けた。

  • 電子帳簿保存法の歴史 出典:TOKIUMU

    電子帳簿保存法の歴史 出典:TOKIUMU

そもそも電子取引とは、EDI(電子データ交換)取引や、請求書に相当する情報をメールでやり取りした取引、ペーパーレスFAXやLINEなどのSNSを使った取引のことを指す。電子データで取引した請求書や領収書、契約書、見積書などの国税関係書類すべてが義務化の対象となり、すべての事業者(個人事業主・法人)が対応しなければならない。

  • 電子取引の例 出典:TOKIUMU

    電子取引の例 出典:TOKIUMU

電子取引における保存要件とは?

「紙ではなく電子データとして保存できた」だけでは、電子帳簿保存法に対応したとはいえない。電子取引においては保存要件がいくつかある。大きく分けて「真実性の確保」と「可視性の確保」の二つに対応しなければならない。

真実性の確保では、データの改ざんを防ぐための要件が定められている。以下の4つの項目のいずれかを満たす必要がある。

  1. タイムスタンプが付与された後、取引情報の授受を行う
  2. 授受後、速やかにタイムスタンプを付す
  3. 記録事項を訂正または削除した場合に、履歴を確認できる/ 訂正・削除できないようにする
  4. 訂正・削除の防止に関する事務処理規定を定め、運用する

可視性の確保では、データを検索・表示できるようにするための要件が定められており、以下の3つの項目すべてを満たさなければならない。

  1. 電子計算処理システムの概要書の備付け
  2. 電子計算機(パソコンなど)やディスプレイ、プリンタおよびこれらの操作マニュアルを備付け、記録事項を画面・書面に整然とした形式および明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておく
  3. 検索機能の確保(「取引年月日・取引先・金額」の3項目)など

市販のシステムやソフトウェアを利用すれば、これらの保存要件に即座に対応できる。タイムスタンプ自動付与機能や訂正削除履歴の閲覧機能が付いているシステムは真実性の要件に対応しており、検索要件のデータ化や要件の検索機能が付いているシステムは可視性の要件に対応している。機能要件を満たすと認証を受けている市販の製品には、日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証マークが付されているので、システム選びのポイントになるだろう。

注意が必要なのはシステムを使わず、アナログで対応する場合だ。まず、データの改ざんを防ぐための要件に対応するために、改ざん防止のための事務処理規程を備え付けなければならない。事務処理規程のサンプルは国税庁のホームページで公開されているので、参考になるだろう。

また、データを検索・表示できるようにするための要件に対応ために、保存するファイル名の規則を揃えることに加え、Excelなどで索引簿を作成し、ファイルと関係づけて検索できるようにしておく必要がある。例えば、「20240104_株式会社マイナビ_98000円」といったファイル名で保存しなければならない。

対応しなければ過料を科せられる可能性も

冒頭で先述した通り、これらの要件に対応しない場合、会社法による過料を科せられる可能性がある。また、青色申告の承認の取消対象となり得る(ただし、直ちに青色申告の承認が取り消されることはない)。

一方で、電子取引の宥恕期間は終了したが、令和5年度税制改正大綱で要件は緩和された。例えば、全事業者を対象に電子取引に関する「新たな猶予措置」が設けられた。宥恕措置は終了したが、2024年1月1日よりこの猶予措置が受けられる。

ただし、猶予措置を受けるためには、「保存要件に従って保存するためのシステムやワークフローなどの整備が間に合わない」、「資金繰りや人手不足などの理由で、要件に従って電子データの保存を行うことが難しい」といった「相当の理由」があると認められるケースに限られる。単に経営者の信条のみに基づいたり、特段の理由もなく電子データを保存していなかったりするケースは認められない。

  • 「相当の理由」の定義 出典:TOKIUMU

    「相当の理由」の定義 出典:TOKIUMU

約2割の企業が「電子帳簿保存法に対応できない」

TOKIUMが2023年11月に1000人以上の経理担当者を対象に実施した調査によると、2割以上が2023年12月末までに電子帳簿保存法に対応できないと回答した。そして、企業規模が小さくなればなるほど、その比率は大きくなっている。

  • 電子帳簿保存法への対応状況 出典:TOKIUMU

    電子帳簿保存法への対応状況 出典:TOKIUMU

また、約6割の経理担当者が法対応への不安を感じていることも分かった。最も不安に感じているのは「経理以外の社員が正しく理解・対応できているか」。約2人に1人の経理担当者がそう回答した。また、「適切な保存要件を満たしているか」(44.8%)、「システム対応するためのIT知識の不足」(36.7%)といった経理担当者個人にまつわる不安も抱えているという。加えて、「経理以外の社員が正しく理解・対応できているか」ということに不安を抱える経理担当者が多い一方で、約4割が「社内への周知を全くしていない」と回答した。

  • 経理担当者が不安に感じていること 出典:TOKIUMU

    経理担当者が不安に感じていること 出典:TOKIUMU

また、会計ソフト大手のfreeeが同10月に2000人以上の個人事業主や大企業を対象に実施した調査によると、「請求書をすべて紙で受領している」と回答したのは、大企業が約5%、個人事業主が約25%と、約5倍の差があった。

  • 請求書をどのように受け取っているか 出典:freee

    請求書をどのように受け取っているか 出典:freee

さらに、電子データで受け取った証憑の保存方法を聞くと、個人事業主・法人いずれも半数以上が「印刷して保存と電子保存を併用している」「すべて紙で印刷して保管している(電子保存していない)」と回答。電子データで受け取っても紙で保存していることが多くいることが判明した。

  • 電子データで受け取った証憑の保存方法 出典:freee

    電子データで受け取った証憑の保存方法 出典:freee

先述した「相当の理由」がなければ、今後、電子データを紙で保存することはできない。また、経理作業を一般社員が行うケースも少なくないだろう。本格的な義務化が開始された今、社内への周知が急がれるとともに、自社が要件に対応できているのかを再確認する必要がある。