“あったらいいな”のCMで知られる小林製薬は、現在“あったらいいなDX”と名付けたDXを推進している。それを主導しているのが、同社の外部アドバイザーとしてデジタル強化に取り組んだ後、2023年から執行役員 CDOユニット長に着任した石戸亮氏だ。11月6日~17日に開催された「TECH+ EXPO 2023 Autumn for データ活用 データで拓く未来図」に同氏が登壇。2008年に卸事業からメーカーへと転換し、さらにデジタル企業への転換を目指す中で取り組んでいる小林製薬のDXとその戦略について解説した。
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企業の特徴を活かしながら4つのフェーズでDXを推進
講演冒頭で石戸氏は、「小林製薬は『見過ごされがちなお困りごとを解決し、人々の可能性を支援する』というパーパスを掲げながら、企業としての特徴を活かしたDXを推進している」と述べた。その特徴とは、150以上のブランド、1000以上の製品数という多種多様な商品を提供していること、そして環境変化をアイデアにして製品化するのが得意であることだ。アイデアを活かすための仕組みとして、40年間続いている全社員提案という制度があり、実際に2022年には約5万7000件のアイデアが社員から提案されたという。
「まさにこれが文化であり、他社には簡単に真似できないような仕組みです」(石戸氏)
“あったらいいなDX”と名付けた変革への取り組みは2017年からスタートしており、そのロードマップは4つのフェーズに分けて考えられている。2017年から2022年までが“導入・実行期”で、攻めと守りのITを導入、工場の自動化も進めてきたほか、新しいデジタル活用のアイデアを募る“おもしろ技術大会”も10年以上継続して実施しており、最近はDXのテーマも出てきている。2023年からは“実践・調整期”、2025年からは“展開・創造期”、そして2027年からを“飛躍・ノーマル期”と位置付け、2030年にはDXを特に意識しないような、デジタルが当たり前の状態になることを目指している。
データやAIの活用と成功事例創出の2本立てで取り組む“あったらいいな開発のDX”
同社はDXを推進するにあたって、3つの戦略を掲げている。1つ目は“あったらいいな開発のDX”だ。これには2つの柱があり、その1つがデータやAIを活用することである。さまざまなアイデアを創出するのは同社に浸透する文化だが、これまでは自分の経験、身近な事象や人物を情報源にしていたため、新規性の高い“困りごと”を見過ごしがちだった。そこで今後は、毎年社員から提案される膨大な数のアイデアの蓄積をデータベースとして活用しようというのだ。それも日本国内だけでなく、中国や米国にも拡大を予定している。さらに世界中のオンラインにあるトレンド情報も掛け合わせ、そこから有望なアイデアを見つけ出そうという考えだ。アイデアの量や多様性をレベルアップさせるために、生成AIも活用していくという。
もう1つの柱となるのが、多様なデジタルを活用した新規事業アイデアの中から、まず1つ成功事例を生み出そうという取り組みだ。例えば、購入して使ってもらう商品とデジタルサービスを組み合わせたり、ユーザー登録から取得したデータを新規製品開発などに活かしたりと、顧客の価値を向上できるような取り組みを始めている。すでにヘルスケア事業部にヘルステック開発グループが発足、2024年からはCDOユニットに新規サービス開発を支援するグループの立ち上げを予定しており、企画と開発を連携しながら進めていく体制も整えている。