「掉尾の一振」はあるか
相場の波動から見て、2023年は6月19日の3万3772円が一番天井、その後、9月15日の3万3634円で二番天井を付けて、本格的な下落調整局面に入りました。特に23年10月は「2日新甫は荒れる」(市場が2日から始まる月の相場は荒れる)という格言通りの波乱相場となり、株価は急落したのです。
10月4日の3万487円で短期サイクルの一番底が入り、10月30日に3万538円で二番底が入りました。この二番底が入った時点で「寄引同時線」が出て、上に窓を開け、株価は上昇を開始しました。
11月20日には、ザラ場でバブル後の最高を更新する3万3853円を付けましたが、本稿執筆時には6月、9月の高値を完全には抜いたとは言えない状況です。そうなると、しばらくは高値圏でのボックス相場が続く可能性があります。
23年の年末にかけ、高値は6月、9月の高値である3万3000円台か、3万4000円、安値は3万円というゾーンで動くのが弱気シナリオです。
つまり弱気シナリオは、株価はもたもたしながら年末を迎え、6月、9月の高値をはっきりとは抜けず、3万3000円台近辺で終えるというものです。
中立シナリオは6月、9月の高値を瞬間抜くものの、3万5000円の壁を突破することはできません。
強気シナリオは、年末にかけて「掉尾の一振」(年末最後の売買日に向けて株価が上昇すること)があり、3万5000円を奪回、あるいは突破して、年末高で終わる展開となります。
この3つのいずれかを行こうとしているのだと見ていますが、懸念はこの後、「トリプルトップ」の形になると、相場は一旦10月4日、10月30日の安値を確かめに来るということです。
ただ、日本の株は脱デフレ、30年ぶりの円安で、デフレ脱却、物価目標2%の達成に向けて、上昇していくという流れは変わっていないと見ています。
その理由は、岸田政権がデフレ脱却に向けて、24年も引き続き、企業に賃上げを要請していること、個人消費を盛り上げるために所得税減税を打ち出したことなどが挙げられます。
ただ、これらの政策はなぜか不評です。前回も指摘しましたが、所得税減税を打ち出した首相はほぼいなかったと言っていいのではないでしょうか。その点で経済政策は間違っていません。しかし、国民へのアピールが足りない、独自性に欠けると見られている点が不人気につながっているのかもしれません。
相場の波動では、23年6月、9月の高値を抜きそうな動きになっていますが、11月末にかけて株価がもたもたしているのは、岸田政権の支持率が過去最低であることも影響しています。
元自民党参院幹事長の青木幹雄氏が提唱した「青木の法則」によると、内閣支持率と与党第一党の政党支持率が50ポイントを下回ると政権が倒れる、あるいは政権運営が厳しくなるとされています。足元で岸田政権は危険水域に入っています。これは株価の足を引っ張っています。
もう一つは円高です。これは米国の金利がおそらく23年内でピークアウトするという見通しが有力になっており、円安ドル高の動きに調整が入っています。ただ、今後も日米金利格差は続くと思いますから、円安基調は変わりません。しかし、ドル高にピーク感が出てきたことで、ドル資産を持っている人が警戒して、ドル売り・円買いをしている。利益確定やヘッジに動いているものと思われます。
23年の円の高値は127円台ですが、それが151円台まで円安が進みました。この3分の1押しが143円60銭、半値押しが139円50銭です。ですから151円台が当面のピーク(天井)で、本格的な調整局面となるなら、この後、139円から143円くらいのゾーンに入っていく円高が予想されます。
そうすると円安で上げていた日本株は売られて、調整局面に入ります。海運、鉄鋼、自動車など、これまでの円安、脱デフレで上昇した銘柄が調整されます。このことは株価全体の足を引っ張りますから、なかなかすっきりダブルトップを突破して、当面の目標である3万5000円に向かう展開になりにくい。
一方、年末までに岸田政権の支持率が回復すれば株価上昇につながるでしょうし、一時円高に振れた為替も再び円安に向かうようなら、株高が続きます。
そこでもし、株価が上昇するとしたら買い材料は何か。それは補正予算の決定、岸田首相が「経済、経済」と言っているように、継続して景気対策を打ち出してくるものと見ます。これが好感されることが考えられます。
また、米国の金利が下落してくると米国の株高が想定されます。それに連動して日本株も上昇することが考えられるのです。この時、前述の海運、鉄鋼、自動車といったバリュー株が頭打ちになるのか、それとも引き続き上がるのか、いよいよハイテク、グロース株が上がってくるのかが、相場の流れを見極める上での重要ポイントになります。
この後年内、先程指摘した弱気、中立、強気のいずれの方向を進むかですが、日本株自体は30年に及ぶデフレが終わり、中長期的には「上げ潮」、上昇トレンドに入っています。短期的には株価が下がる局面はあっても、中長期的な上昇を続くものと予想しています。
市場には、24年の株価を強気に見る動きも出ていますが、私が指摘した強気シナリオを見ている人が増えていることの表れだと思います。年末に3万5000円を超えてくると24年はボックス相場で言うと、下は3万5000円、上は4万円のゾーンに入っていきます。
こうなると株価は、1989年12月の3万8915円に向かって上昇します。私は24年末までに4万円もありえると予想しています。ただ、前提条件としては少なくとも140~150円という超円安相場が続くことです。
そして安倍政権の路線を踏襲し、脱デフレ、デジタル産業革命を進めていくこと、植田和男・日銀総裁のカジ取りで時間をかけて、ゆっくり金利を上げて物価目標2%を目指すことが、4万円達成の前提となります。