クリエーションラインはこのほど、「Actionable Insights Day 2023」を開催した。本稿では、ヨドバシカメラが行った特別講演「ヨドバシ API がつなぐ社会 ~疎結合なのに一体感~」の模様を紹介する。
同イベントには、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進やアジャイル開発、AIなどIT領域における先端技術に携わり、多様な業界でプレゼンスを発揮している企業が登壇し、さまざまなセッションが実施された。
本稿では、ヨドバシカメラが行った特別講演「ヨドバシAPIがつなぐ社会~疎結合なのに一体感~」の模様を紹介する。同講演には、ヨドバシカメラ 代表取締役社長の藤沢和則氏、ヨドバシリテイルデザイン サービスデプロイメント事業部 事業部長の戸田宏司氏が登壇し、ヨドバシカメラのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の戦略を語った。
ヨドバシカメラは「家電量販店」以外の顔も持つ企業へ
最初に登壇した藤沢氏は、普段はメディアの前にほとんど姿を現さないという方針だというが、今回は「ヨドバシカメラのAPI戦略」を共有するため、特別に登壇を決めたという。
「ヨドバシカメラは『家電量販店』というイメージを持たれている方も多いかと思いますが、実は事業の約4割は非家電商品を扱う企業となっています。加えて、売り上げの約3割はインターネットショッピングでの販売が占めており、店頭での家電の販売のみを行う企業という形ではなくなってきています」(藤沢氏)
このインターネットショッピングでの販売比率は年々上がっており、藤沢氏は将来的にリアル店舗の比率と同じ5割を目指しており、業界の形を作り出していきたい構えだ。
このようにリアルとネット両面での事業を進めるヨドバシカメラだが、リアル店舗ももちろんながら、インターネットショッピングの裏側ではITの存在が大きいという。
「ヨドバシカメラのビジネスは、小売店からスタートしているわけですが、大きな変革期は『インターネットの出現』でした。インターネットの商用利用が始まったばかりの1996年に、当社はインターネットショッピングサイトをスタートさせており、それから30年近くが経とうとしています」(藤沢氏)
スタート当初から現在までの間にスマートフォンの誕生といった大きな変革をいくつも見てきたことから、同社では「プロジェクト2040」という社内での取り組みを通じて、2040年まで通用するITのアーキテクチャを設計することを目指している。 この取り組みの中で最も重要なのは「企業と企業の連携」である、と藤沢氏は語る。
「今でもEDI(電子データ交換)などは、どの企業でも行われていることだと思いますが、『各企業と企業』、または『お客さまとヨドバシ』や『お客さまとヨドバシを介したさまざまな企業』が自律的にお互いのリソースを共有しながら、サービス社会に対するサービスや暮らしを提供できることをプロジェクト2040では最も重要視しています」(藤沢氏)
ヨドバシの「快適で便利な接点を提供し続ける」エンドレスストーリー
ここまでヨドバシのIT変革に対する取り組みを紹介してきたが、これらの取り組みを実現するために重要視しているのがAPIだ。
APIとは、ソフトウェアやプログラム、Webサービスの間をつなぐインタフェースのことを指す言葉で、ユーザーがサービスを使う際にAPIの存在を意識することがほとんどない反面で、裏では非常に幅広い用途で活用されている。なぜ、同社がAPIを重要視しているかについては、戸田氏が説明に立った。
戸田氏は、ドメイン駆動設計の提唱者であるエリック・エヴァンス氏の言葉である「ドメイン駆動設計が語っているのは、われわれの物語である」という言葉を引用し、「ヨドバシカメラの物語」を説明した。
「ヨドバシカメラの最も重要にしているのは、『お客さまへの感謝』です。ヨドバシカメラの物語は、『お客さまにとって快適で便利な接点を提供し続ける』というエンドレスストーリーです。そこで、お客さまとの接点をドメインとして捉え直し、再定義して設計を進めています」(戸田氏)
そのため、同社のドメインは、顧客を優しく包み込むように快適な環境を提供することを目指している。それに加えて、藤沢氏が述べたような企業間の連携といった部分も進めていく。そして、提供するインタフェースはすべてWeb API(httpやhttpsなどWeb技術を用いて実現されるAPIの一類型)で公開していくことを考えているそうだ。
そんなヨドバシカメラが提供するAPIは「REST API」という形式を取るという。このREST APIとは、「統一インタフェース」「アドレス可能性」「接続性」「ステートレス性」という4つの原則に則ったAPIのこと指す。
「REST APIを採用したのは、誰もが直感的で分かりやすいという理由からですが、このREST APIはCRUD(データベース管理システムが備える4つの基本機能でCreate、Read、Update、Deleteからなる)のようなものであり、しばしばユーザーフレンドリーではないというケースが聞かれます。そこで、われわれはREST APIを、お客さまの要望を推察し、適切なタイミングで案内する『ヨドバシのスタッフ』へと成長させようとしています」(戸田氏)
戸田氏曰く、ヨドバシカメラの従業員は、巷で「エスパー」と噂されるほど顧客のニーズを把握し、的確なタイミングで商品をおすすめしてくる特徴を持っているという。それをAPIで表現することでAPI自身を成長させようとしている。
方法としては、購入されたところからコマンドを発行し、コマンドのドメインモデルにデータが入っていく仕組みを整える。その後、クエリ(ソフトウェアに対するデータの問い合わせや要求などを一定の形式で文字に表現すること)で、ユースケースに応じて、クエリモデルが生成され、顧客ごとのデータが蓄積されていくのだという。蓄積されたデータをもとに、適切なタイミングで商品のおすすめを顧客に提供することで、ニーズにあったサービスを提供するAPIを実現していくという。
最後に戸田氏は以下のように講演を締めくくった。
「ヨドバシカメラでは、プライベートクラウドを作るところから始めていたり、アーキテクチャ設計や認証、認可の仕組みもゼロから作っていったりするなど、さまざまな取り組みを行っています。ビジネスを創造し、ドメイン設計を進めることで、新しいビジネスの輪郭を描いているのです。今後も多くの技術者とともに、ヨドバシカメラの取り組みを推進していきたいと思っております」(戸田氏)