塩野義製薬は、創薬型製薬企業としてトップクラスの生産性とHaaS創造企業への変革を実現するため、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。

こうした同社のDXを担っている組織がDX推進本部だ。DX推進本部はIT&デジタルソリューション部とデータサイエンス部に分かれている。DXにおけるデータ活用の推進を担っている組織がデータサイエンス部となる。

データサイエンス部は、多様なデータを蓄積・活用する基盤を構築し、高度なデータ活用技術を通じて、ヘルスケアソリューション創出と業務プロセス変革に貢献しているほか、データサイエンスの側面から科学的根拠に基づく経営判断を支援している。

今回、データサイエンス部長を務める北西由武氏に、データサイエンスに重きを置いた同社のデータ活用および人材育成について聞いた。

  • 塩野義製薬 データサイエンス部 部長 北西由武氏

目標は「データドリブン型ビジネス」

塩野義製薬はDXの一環として、データドリブン型ビジネスを実現するため、データドリブンな企業文化の醸成、業務プロセスとシステムの構築、データ利活用促進に向けたデータガバナンス体制の構築を進めている。

データドリブンな企業文化では、集合知や機械学習、データに基づく仮説、シミュレーション、統計学に基づく検証のサイクルの下、ビジネス戦略・戦術の立案や実行が行われる。

このサイクルこそがデータサイエンスであり、「仮説と検証のサイクルをスピーディーに回すことを目指しています」と北西氏は話す。こうしたデータサイエンスを支えるテクノロジーが、統合データベースや統合解析環境であり、これらを使いこなすのがデータサイエンス人材となる。

そして、北西氏は2030年になると、医療に対するニーズ、技術、プレイヤーなどに対する世界観がこれまでとは変化すると予想されることから、人々のヘルスケアのニーズに応えるにはデータサイエンスが必要と述べた。同時に、社内においても生産性向上や社会的信頼の維持と向上に対するニーズが高まることが予想されるが、ここでもデータサイエンスが必要となると同氏は見ている。

解析プロセスと解釈・意思決定の関連性を明確にする

北西氏は、仮説・シミュレーション・検証というサイクルにおいて、「データがどのような形で取得されたものかを考える必要があります」と語る。つまり、データがどういう状態かを理解しないと、分析結果が正しいかを判断できないというわけだ。「疑似的な方法をとらなければならないデータなのか、比較可能性を担保できるデータなのか、疑似的に担保する方法をとらなければならないデータなのかを見極める必要があります。」(同氏)

同社はデータの可視化と高度解析の基盤を実現するため、「Central Data Management」構想を掲げている。この構想では、マスタデータの管理体制の確立、マスタデータを活用した業務システム間の有機的連携、課題解決のためのデータ分析・活用、領域横断的な解析用のデータウェアハウスの整備、メタデータの収集と管理、解析プロセスと結果・解釈・意思決定との関連性のデータ化を行う。データウェアハウスとして、データクラウド「Snowflake」で環境を構築中である。

  • 塩野義製薬の「Central Data Management」構想

北西氏は、同社のデータマネジメントの目的について、次のように説明した。

「データウェアハウスには組織横断的に使うデータを集めないと、使われないデータが滞留することになり、結果として、余計な管理コストがかかります。コストはよく使われるデータに費やすべきです。データ活用は管理体制を整えた上で行うことで、活用の利便性が高まります」

同構想において特に大事にしていることが「解析プロセスと結果・解釈・意思決定との関連性のデータ化」だという。「データ解析において、誰がどういう解釈をして、どういう意志決定をしたかについて記録を残す設計にしています。データ解析は、『誰かやっていた気がするんだけど』と、記憶をたどるところから始まることが多いです。したがって、 誰が何をしたのかが明らかになっていると効率が良いです」と北西氏。

こうしたことを積み重ねていくことで、過去の取り組みにおいて、『どういう受け止めをしたのか』『どういう意志決定につながったか』といったノウハウが蓄積し、それを引き継ぐことが可能になる。