米OpenAIが公開したAIチャットボット「ChatGPT」は、まるで相手が人間であるかのようにAIと対話(チャット)ができるサービス。無償版でも使い勝手が良いためか、公開からわずか4日後には全世界でユーザーが100万人を超え、2カ月後には1億人を突破したとされている。

もはや"言わずと知れた"AIサービスと言っても過言ではないだろう。読者も一度はアクセスしてみて、プロンプト(AIに対する命令文)を投げかけたことがあるのではないだろうか。本稿ではChatGPTの1歩目を踏み出した方に対して、より良い、自分が望むような回答をChatGPTから返してもらうための1.5歩目となるヒントをお届けしたい。

  • ChatGPTとの対話の例

    ChatGPTとの対話の例

ぜひ、「一度使ってみたけどよく分からなかった」「なんとなく使ってみたものの、もっと良い使い方があるはず」などと感じている方に本稿を読んでいただきたい。解説してくれたのは、キラメックスが運営するオンラインプログラミングスクール「テックアカデミー」の「はじめてのプロンプトエンジニアリングコース」の講師を務める、太田和樹氏だ。

  • テックアカデミー 講師 太田和樹氏

    テックアカデミー 講師 太田和樹氏

「生成AI」をおさらい、ChatGPTって何だっけ?

ChatGPTはテキストを生成可能なAI(Artificial Intelligence:人工知能)、いわゆる「生成AI」の代表的な例だ。Wikipediaなどインターネット上にある膨大なデータから、自然言語(われわれが日常的に使う日本語などの言語)のルールやパターンを学習している。

実はテキスト生成AIは、知識や経験に基づいて文章を生成しているのではない。本質的な機能としては、与えられた単語の次に当てはまる確率が高い単語を予測して文章を生成しているだけである。インターネット上のテキストデータを用いた学習に基づいて、もっともらしい単語を確率的に選んでいるにすぎない。

  • テキスト生成AIの概要

    テキスト生成AIの概要

生成AIに指示を与える文章を「プロンプト」と呼ぶ。ChatGPTに対して適切にプロンプトを入力することで、AIによる出力を自身が望むような出力へと誘導できるのだという。言語モデルについてChatGPTに尋ねる場合ならば、例えば「小学生にでも分かるように」と一文を添えることで、小学生でも理解できる単語をAIが選択する可能性が高まる。

これと同じように、求める回答の水準に応じて「AIの専門家の観点で」や「ビジネスへの活用法が分かるように」と詳細に指定することで、自身が求めている回答を得やすくなる。

  • ChatGPTに言語モデルについて解説してもらった

    ChatGPTに言語モデルについて解説してもらった

  • 「小学生でも分かるように」と加えた場合

    「小学生でも分かるように」と加えた場合

【コピペ可】実例で学ぶChatGPTのビジネス活用

ChatGPTの概要はここまでにして、実際のビジネスを想定した使い方を紹介していきたい。ここでは、インバウンド需要と広告運用について、アイデアを生み出してから議論し、その結果を整理するまでの3段階で活用例を示す。

アイデア生成

まずはインバウンド需要に対応するための広告について、アイデアを検討する。そこで、以下の通りにChatGPTにプロンプトを入力してみる。

日本では、これからインバウンド需要が重要になります。
これまでにない広告のアイデアを5個出力してください。

すると、すぐに5つのアイデアが出力される。

  • ChatGPTが出力した広告アイデア

    ChatGPTが出力した広告アイデア

アイデアの議論

出力されたアイデアに対し、ChatGPTに議論を行わせることも可能だ。「ポジティブなAさんとネガティブなBさん」のように複数の登場人物を指定するプロンプトを打ち込むと、ChatGPTの中で疑似的に2人の人格を作って議論を進める。

上記の広告のアイデアについて、メリットとデメリットを議論してください。
議論はポジティブなAさんと、ネガティブなBさんで行って結論を出してください。
  • 出力された議論の過程

    出力された議論の過程

情報整理

議論は最終的に、表形式に整理できるという。さらに各アイデアに対して点数を付けて集計も可能だ。

上記の広告アイデアとメリット・デメリットを要約して表にまとめてください。
各項目には「実用性、コスト、訴求力」について、1点から5点の間で点数を付けてください。
  • 表に整理した出力結果

    表に整理した出力結果

こうした一連の作業は、従来は「企画会議」のように複数人が集まって、数時間から数日かけて実施する場面も少なくはない。しかし、ChatGPTを活用することにより、数分で完結できるようになった。このように、ChatGPTはユーザーと1対1で対話するだけではなく、ChatGPTの役割を複数人に振り分けて活用できる。

ちなみに、この「ChatGPTを複数人に分ける」という機能を活用することで、いわゆる"ゆっくり解説"のような掛け合いの台本を短時間で作成できるという。YouTubeなど動画コンテンツの台本を作成する場面で有効だ。

効果的なプロンプトのための原則

ChatGPTが実行するべきタスクの命令文をプロンプトと呼ぶが、AIによる出力の品質を最大化するための技術は「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれる。より良い結果をAIから引き出すためには、より良いプロンプトを記述する必要がある。だからこそ、大前提としてユーザー側が適切なプロンプトを見つけるために、試行錯誤しながら改善を繰り返す必要がある。

その上で、プロンプトでは前提や条件を明確に指定する必要がある。例えば「~~について教えてください」ではなく、「~~の利点と欠点を、それぞれ箇条書きで説明してください」とするような具合だ。

前提を指定する際は、ChatGPTに求める役割を明確にするのも有効だ。その上で条件を箇条書きで明示する。#(ハッシュタグ)や-(ハイフン)を用いてマークダウンで記述すると、AIがプロンプトの意図を理解しやすくなるという。

  • マークダウンでの記述が便利だ

    マークダウンでの記述が便利だ

# 指示:
あなたは説明が分かりやすいと評判のIT講師です。
以下の条件をもとに、言語モデルについて教えてください。

# 条件:
-小学生でも分かるように
-300文字以内で
-難しい漢字にはよみがなを振る
  • マークダウンでの記述が便利だ

    マークダウンでの記述が便利だ

また、AIに実行させたいタスクを細分化することも重要だ。「以下の英文を日本語で要約してください」というプロンプトには、英語を日本語に翻訳するタスクと、翻訳後の日本語を要約するタスクが含まれている。

これを「以下の英文を日本語に翻訳してください。その結果を要約してください」と記述することで、精度の高い出力が期待できる。

なお、太田氏によると、プロンプトを記述する際は敬語を使うと、より丁寧に書かれた文章をもとにして出力を生成する確率が高まるため、ChatGPTには敬語を使った方が良いとのことだ。

ChatGPTをさらに使いこなすための技集

ここから、具体例を交えながらプロンプトの書き方の手法を2つ紹介したい。

Zero-Shotプロンプティング

Zero-Shotプロンプティングとは、ChatGPTが学習済みの2021年9月までのデータに基づいて出力を求める手法だ。メール文の作成や普遍的な情報など、最新のデータでの学習を特に必要としないタスクに使える。

(できれば使いたくない場面ではあるが)謝罪文のメールを作成してもらうようなタスクを任せるのも良いだろう。人間が謝罪しなければならない文面を考えるよりも、ChatGPTがフラットに記述してくれた方が謝罪の気持ちがストレートに伝わるかもしれない。

  • メール文の作成

    メール文の作成

Excelの使い方やプログラミングのソースコードの記述など、2021年9月以前のデータでも対応可能な出力であればZero-Shotプロンプティングが有効だ。関数やコードはコピーアンドペーストできる形式で出力されるので、作業効率の向上も見込める。

  • Excelの関数なども出力してくれる

    Excelの関数なども出力してくれる

Few-Shotプロンプティング

Few-Shotプロンプティングは、プロンプトの中で追加の知識を入力することで出力の精度を高める手法である。例えば、「言語モデルを利用したビジネスアイデア一覧」を出力してほしいときに、誰もが思い付くような例をあらかじめプロンプトとして指定することで、その続きにChatGPTならではの回答を出力してもらうような使い方ができる。

  • Few-Shotプロンプティングの例

    Few-Shotプロンプティングの例

先ほど紹介した、AさんとBさんの会話を出力してもらうような、複数の登場人物を設定する使い方もFew-Shotプロンプティングの一例と言える。

ChatGPTを使う際に注意が必要なこと

ChatGPTは便利だが、もちろん万能ではない。ChatGPTが苦手なタスクを理解しておけば、「こんなはずではなかった」という事故を防げる。

ChatGPTの学習には2021年9月までのデータが使われている。そのため、それ以降に発生した出来事については知識を持たない。最近の情報を含んだ出力を求めている場合には、上述のFew-Shotプロンプティングのように知識を補足する必要がある。

また、ChatGPTの出力が必ずしも正確な情報ではない点にも注意すべきだ。AIが不正確な情報や事実と異なる内容を出力する現象を「ハルシネーション(Hallucination:幻覚)」と呼ぶ。これは、ChatGPTが自然な日本語になるようにもっともらしい単語を確率的に選んでいるために発生する。

最終的には、その正誤および正確性を人間がしっかりと確認する必要がある。URLを出力してもらう場合にも、リンク切れなどが起きていないか確認しておきたい。

  • ハルシネーションとは

    ハルシネーションとは

一方で、"蹴る馬も乗り手次第"ということわざがあるように、何事も物は使いようだ。このハルシネーションもその性質を逆手に取ることで、SFや創作活動において独創的な物語などを出力してくれる利点がある。

今回はChatGPTを特に取り上げたが、このように生成AIは私たちの仕事や日常生活を強力に支援してくれるツールだ。太田氏は、「生成AIのアウトプットの質を高めるには、生成AIが搭載している大規模言語モデルの特徴を知り、プロンプトエンジニアリングを理解することが重要。生成AIの本質を理解できれば、どのように業務に生かせるのかを考えやすくなる」とコメントしている。

ぜひ本稿によって1.5歩目を踏み出し、さらなる2歩目、3歩目へとつなげてほしい。