日本オラクルは7月6日、新年度事業戦略説明会を開催した。取締役 執行役 社長の三澤智光氏は、2023年度の収益が前年比22%増の500億ドルを達成し、競合よりも力強いグロースを実現しているとして、ビジネスの好調ぶりをアピールした。

また、日本オラクルの事業概況については、「ソフトウェアライセンス事業が順調に伸ばしたほか、クラウド事業が大幅に伸長し、トップラインを上げることができた」と三澤氏は説明した。

  • 日本オラクル 取締役 執行役 社長 三澤智光氏

三澤氏は、2024年度日本オラクルの重点施策として、「日本のためのクラウドを提供」と「お客様のためのAIを推進」を挙げ、それぞれについて説明した。

「日本のためのクラウドを提供」を実現する5つの具体策

同社は「日本のためのクラウドを提供」を実現するため、具体的には、以下の5つの施策に取り組む。

  • 日本のお客様のための専用クラウドの提供
  • ガバメントクラウドへのコミットメント
  • ハイブリッドクラウドによる、ミッションクリティカル・システムのモダナイゼーション
  • クラウドネイティブSaaSによる、お客様のトランスフォーメーションの推進
  • ERPにまつわる従来のコスト構造から、お客様を開放

「日本の企業のための専用クラウド」を提供するため、日本企業が求める要件に合わせた展開モデルをそろえる。三澤氏は、「日本のためのクラウドはオラクルしか実現できない。そこでは、データセンターを制御できるエンジンがカギとなるが、他社のクラウドにはこのエンジンがない」と説明した。

さらに、三澤氏は同社のクラウドのアドバンテージとして、クラウドのデータセンター、エンジンを小さくコンパクトに作っていることを挙げた。そのため、同社のクラウドと同じ仕組みのクラウドを顧客やパートナーの環境にも構築できるという。

  • 日本企業の要件に合わせたクラウド展開モデルを提供可能

また、ミッションクリティカル・システムのモダナイゼーションについて、三澤氏は「パブリッククラウドとミッションクリティカル・システムは相性が悪い。システム基盤の条件を満たしているパブリッククラウドは、オラクル以外ないと考えている」と語った。

ミッションクリティカル・システムには「高性能」「低遅延」「クラスタリング」「ステートフル」といった要件が求められるが、競合のパブリッククラウドではこれらを実現できないという。

しかし、オラクルはミッションクリティカルなワークロードに対応するため、クラウド基盤を一から再設計した。三澤氏は、ミッションクリティカルであるワークロードを動かせるテクノロジーも同社の強みとしてアピールした。

  • ミッションクリティカル・システムのクラウドでの稼働を実現するオラクルのテクノロジー群

三澤氏はコストも同社のクラウドサービスの強みであると述べた。大量のデータを抱えるミッションクリティカル・システムを従量課金制のクラウドで利用するとなると、当然、コストが気になるところだ。

SaaSの代表ブランドであるOracle Fusion Applicationsについて、「お客さまからさまざまなアプリケーションベンダーを買収してきた中、何が違うのかと聞かれるが、企業のトランスフォーメーションに対応するため、クラウドネイティブなテクノロジーで作り替えた新しいアプリケーション群として見てもらってよい」と、三澤氏は説明した。

古いテクノロジーで開発された従来のERPはバラバラのインフラと個別のインスタンスで提供される。これに対し、クラウドネイティブなテクノロジーで開発されたOracle Fusion Applicationsは、統一されたインフラと、集約された個別インスタンスで提供されるという。

さらに、三澤氏は「オンプレミスのERPはアドオンが多くコストがかかり、AIのメリットを享受しづらい」と述べ、Oracle Fusion Applicationsはこうした課題を解決できることを示した。

  • Oracleクラウドと競合のクラウドの価格比較の例

「お客様のためのAIを推進」を実現する3つの具体策

一方、Aに関しては、以下のように、SaaS、PaaS、IaaSで提供する。

  • IaaS:Oracle Cloud Infrastructure(OCI)で、大規模なAIモデル作成を高速かつ低コストで実現

  • SaaS:Oracle Fusion Cloud Applications、NetSuiteなどへの、ジェネレーティブAI(生成AI)および学習済みモデルの組み込み

  • PaaS:顧客のデータをセキュアに活用し、顧客専用モデルを構築可能にするジェネレーティブAIサービス、および各種AI開発サービスを提供

三澤氏は、AIを活用する際は学習時間のコストが課題になることから、OCIでは、学習時間の短縮とコスト削減を実現する仕組みとして、「OCI Supercluster」を提供していることを紹介した。

「OCI Supercluster」は大規模学習に最適なGPUと広帯域かつ低遅延であるクラスターネットワークから構成されている。三澤氏は、NVDIAのGPUのパフォーマンスを発揮できるネットワークが特に強みであると訴えた。「OCI Supercluster」はRoCE v2 RDMA Network上に構築されている。

PaaSに関する取り組みとしては、今年6月に発表したCohereとの連携が紹介された。Cohereは企業に特化した、大規模自然言語モデル(LLM)サービスを提供するプロバイダーだ。オラクルはCohereと連携して、同社のSaaSとOracle DBにジェネレーティブAIを組み込むことを計画しているが、これにより、「とんでもないことが起こる」と三澤氏はジェネレーティブAIに対する期待を見せていた。

SaaSにおいては、AIが組み込まれて、ユーザーに提供される。OCI上に構築されている同社のSaaSは、OCIに導入された技術を利用できるうえ、四半期ごとにバージョンアップが行われるため、最新のAIを利用できる。

三澤氏は、日本企業のAI活用について、「ベンダーがサービスに組み込んで活用してもらう形が多く、顧客がAI、モデルを作ることはあまりないだろう。ただし、取引先の情報などの管理はユーザーが行う必要がある」と語っていた。