Akamaiは7月5日、MacrometaのCEOであるChetan Venkatesh氏とAkamaiのField CTOである Jay Jenkins氏の来日に合わせて、分散型クラウドに関するラウンドテーブルを開催した。
企業システムがクラウドへ急激に移行してマルチクラウド戦略が普及する中、「分散型クラウド」への注目とニーズが高まっている。
そういった状況の中で、次世代のデータベースとして注目を集め、グローバル分散型データベースを提供しているMacrometaと、超分散型クラウドプラットフォームであるAkamai Connected Cloud。両者の組み合わせは、APIやアプリケーション、Webサービスに大きな変革をもたらそうとしているという。
ラウンドテーブルでは、分散型クラウドが必要とされている背景、分散クラウドがもたらすメリットなどについて語られた。本稿では、その一部始終を紹介する。
インターネットの歴史、25年前は「World Wide Wait」だった?
「クラウドの詳細を見ていくには過去を見ていく必要があります」と会見の冒頭に語ったJenkins氏は、Akamaiの25年前を振り返りながらインターネットやクラウドの進化につい説明した。
「25年前と言えば、インターネットは大変遅いものでした。そのため、www(ワールド・ワイド・ウェブ)のことを『ワールド・ワイド・ウェイト』と、インターネットの通信速度が遅くて、ユーザーは大量の情報や画像の表示を待たされる状況を揶揄している人もいたほどです」(Jenkins氏)
しかし、周知の事実ではあるが、ここから25年でインターネットは大きな進化を遂げる。ただ単にコンピュータが進化しただけでなく、スマートフォンやゲーミングコンソール、ロボット、自動で走る車なども登場するなど、凄まじいスピードで多くのコンテンツを生み出すようになったのだ。
「アプリケーションプロバイダーたちは、そのインフラをクラウドに移動しました。クラウドによってオペレーション上や技術上のメリットは提供されたものの、ダイナミックなコンテンツに対するユーザーエクスペリエンスは昔のままでした。クラウドによって演算の規模は拡大したものの、スピードは大きくは変わらなかったのです」(Jenkins氏)
加えて、アプリケーションがクラウドに移行したことに伴い、独自のフレームワークやストラテジーに対して多くの投資が必要になったという。つまり、新しいアプリケーションが生まれて、数多くの無駄な戦略が生まれたのだそうだ。
しかし現在は、景気の影響を受け、クラウドに対する支出を最適化しようと考えている企業が増えてきているそうだ。また、単一のクラウドに集約するリスクを考え、マルチクラウドを検討している企業も多いという。
「この企業の動きには困難な壁が立ちふさがっています。マルチクラウド戦略を実行できない理由の一つとして、『アプリケーションのポータビリティがない』ことがあります。そのため、新しいクラウドレガシーアプリケーションでロックインされるプラットフォームを終焉させるという動きが起きてきています」(Jenkins氏)
Jenkins氏は、クラウドの最適化を検討する企業が行うべきこととして、「マルチクラウドを採用すること」「複数のクラウドにまたがって横断的にポータビリティを持つこと」「独自の製品やアプリケーションを使う時には明確な出口戦略を持つこと」の3点を挙げていた。
日本企業が抱える技術&コストにまつわる複雑な4つの課題
続いて登壇したVenkatesh氏は、「アプリケーションの構築の仕方が大きく変わってきている」と語り、それを紹介する上で、日本のEC関連企業やストリーミング企業、ゲーミング企業の大手が直面している課題を説明した。
「クラウドの側面として『ハイパースケールアーキテクチャ』と呼ばれるアーキテクチャをベースに構築されているということがあります。これは、電力や冷却といった全てが安価にできる1つの場所にまとめられ、『集約化』されていることを意味します」(Venkatesh氏)
Venkatesh氏曰く、この集約化には課題があるとして、自身が身に着けているApple Watchを例に、その詳細について説明した。
Apple Watchは身に着けているだけで、心拍やその他のさまざまなデータを次々に計測している。しかし、そのデータを処理するのはApple Watchではなく、遠い所にあるクラウドであるため、演算能力が遠い所に置かれているのと同義だという。
これによって、日本のECやストリーミング、ゲーミング企業は、技術とコストの点から複雑な課題を4つ抱えることになっているのだという。
1つ目の課題は、「パフォーマンスが遅い」ことだ。Webサイトを起動する際、更新中の表示が終わらずになかなかアクセスできないこと、これがハイパースケールのアーキテクチャが呈している症状の一つだ。
2つ目の課題は、「数カ所のデータセンターにデータを集約させてしまう」ことだ。これにより、リスクが生まれる。ハイパースケールの場合、冗長性を保つには、まったく同じものを全て2つずつ用意する必要があるため、コストの面で厳しいという。
「3つ目の課題は『ユーザーエクスペリエンスに一貫性がなくなってしまう』ことです。私は今日、時差の関係で早朝4時に目が覚めてしまったのですが、その時間帯は、すごく快適に回線を使うことができました。しかし、これが9時になれば回線が遅くなってしまいます。これを当たり前だと諦めていますが、他のものならどうでしょうか?美味しい行きつけのレストランであったとしても、時間帯によって料理のクオリティが違うと気付いたら、もう行かなくなるのではないでしょうか?」(Venkatesh氏)
そして最後の課題は「国ごとのデータ規制にそれぞれ対応しなくてはいけなくなる」という点だ。この課題は、日本の企業が今後5年以内に数十億ドル単位を掛けて対応する必要がある課題だそうだ。
「ここまでデメリットや課題ばかり挙げてきましたが、もちろん良い側面もたくさんあります。クラウドがあったからこそ、われわれはパンデミックを乗り越えることができました。オンライン会議ツールやネットワークのない世界が想像できるでしょうか?課題を理解し、正しく向き合うことが大切なのです」(Venkatesh氏)