あらゆる変化が予測しづらいVUCA時代の今、未来を見据えた試みを行うハードルも高くなっている。そんな中、新たなサービスや製品を生み出すため、さまざまな企業や団体、起業家などとタッグを組み、他分野の知見を取り込んだ取り組みを進めるオープンイノベーションの動きが加速している。だがなぜ、オープンイノベーションが選ばれているのか。
本稿では、1月16日に書籍『妄想と具現 未来事業を導くオープンイノベーション術DUAL-CAST』(発行:日経BP)を出版したコネル / 知財図鑑 代表の出村光世氏に、オープンイノベーションの意義やプロジェクトを進める際に留意する点などについて聞いた。
なぜ、企業はオープンイノベーションに走るのか?
――今、オープンイノベーションの重要性が叫ばれているのはなぜなのでしょうか。
出村氏:かつての高度経済成長期は、テレビや洗濯機、車といったように大衆が欲しいものが統一されていて、ある程度産業がどのように成長していくか予測しやすい時代でした。しかしインターネット時代以降、社会変化も不規則に起こる中で、見通しが立ちにくい社会になってきています。ビジネスにおいては、大きな意思決定を下していくのが難しい世の中になっています。
――確かにVUCA時代と呼ばれる現在はあらゆることが不透明になっています。
出村氏:そこで近年、特に海外のテクノロジー企業を中心に、自社のAPIを開放したり、産業をまたいで他分野のプレイヤーと手を組むことが当たり前になりつつあります。
従来のような、自社のリソースや技術だけで自社利益を最大化する「自前主義」の事業計画では、リスクも大きく、環境変化に柔軟に対応できません。また、そもそも描ける未来の内容も限定的になってしまいます。
自前主義の危険性を打開する策の1つがオープンイノベーションなのです。
まずは妄想を可視化し、アクションを
――オープンイノベーションを始めるにあたり、最初に必要なことは何でしょうか。
出村氏:妄想を可視化するアクションを取ることが、どんな組織においても最も効率、効果が高い初手になるでしょう。
――“オープンイノベーション推進室”などの部署を立ち上げても、具体的にプロジェクトが進んでいかないという悩みも多そうです。
出村氏:はい、そういったお悩みをよく聞きます。そのような場合に私は、自己紹介や会社紹介を工夫することを薦めています。例えば、「自社の得意な技術は〇〇です」とだけ伝えてしまうと、相手は「そうですか。ではそれに合うようなテーマが出たときにご一緒しましょう」となってしまい、具体化していきません。
話を広げていくには、自社の強みを主張するだけでなく、その技術を生かして「こんな社会があり得るのではないか」という具体的な妄想を視覚的に提示することが大切になります。
――そこで、著書にある「妄想ワークショップ」というわけですね。
出村氏:妄想ワークショップは、技術から妄想をするための5つのステップで構成されています。さらに妄想ワークショップをフェーズ1とし、実際にプロトタイプをつくったり、検証したりするまでのフェーズを5段階で紹介しています。ワークショップを実際に行えるよう、オンラインホワイトボード「Miro」のテンプレートも掲載していますので、ぜひ参考にしてください。
――御社がNECと共同で「高速カメラ物体認識技術」をテーマに行った取り組みについても紹介されていますね。
出村氏:この取り組みは、NECが持つ技術を活用する妄想として、「景色の美しさを識別」「生活の中でお気に入りの場面を記録し振り返る(思い出す)」といったアイデアを集めるところから始まりました。それを基に、妄想を言語化した「未来リリース」を用意し、さらにイラストを作成。そしてこのリリースやイラストを公式サイト、イベントなどで発信するプロセスを経て、最終的に“見過ごす「美」にしおりをはさむメガネ”「SHUTTER Glass」という製品になりました。妄想が具現化した1つの実例です。